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再び「1億円の壁」とEBPMの死

現在、自民党では、税制調査会の小委員会で「マルバツ」と「マル政」という会合をやっている。
「マルバツ」は、個別の税制改正要望に対して「マル=採用」か「バツ=不採用」かを決める会合で、「マル政」は「政策的問題の検討」のこと。
どちらも、自民党の衆参国会議員150人ほど(大臣や党・派閥幹部以外のほとんどのイメージ)が自民党本部9階の大会議室に集合し、1人1回だけ意見を言える。
それらの意見を税調の幹部が聞いた上で、「採否」や「とるべき政策の内容」を決める参考にする会議である。
どのテーマに手を挙げて、どのような論陣を張るかが、各国会議員の見せ場になるため、みんな必死で準備し、手を上げて当ててもらおうとするが、何しろ人数が多いので当ててもらえないこともある。
税調のクライマックスであり、年末に向けた風物詩である。

さて、昨日は「マルバツ」、今日は「マル政」の1回目が終わり、明日はいよいよ「マル政」の2回目。
NISAの抜本的拡充や車体課税、スタートアップ税制など、重要案件の検討になるが、中でも注目は「1億円の壁」と言われる富裕層への増税問題である。

私は、11月9日に「1億円の壁に騙されるな!」という題名でブログを書いている。

https://note.com/jun1_kanda/n/n857e2ebcde58

詳細はそちらを参照していただきたいが、税務当局はまだまだ諦めていないらしく、明日は5億円以上とか10億円以上の所得を持つ「超富裕層」を狙い撃ちにする案を出してくるらしい。
それについては、私は以下の3つの理由で、やはり大反対である。


<政府のメッセージの混乱>

  • 岸田総理は、今年を「スタートアップ創出元年」として、「スタートアップを5年で10倍増にする」と宣言した。その方針に従って、現在いろいろなスタートアップ育成策が検討されているが、政府方針に従って富裕層になった先には「増税」が待っているとなったら、誰が真剣にスタートアップを目指すだろうか。

  • 政府は、「貯蓄から投資へ」「資産所得倍増計画」「NISAの抜本的拡充」など、あの手この手を使って2000兆円と言われる個人の金融資産を成長資金へと流入させ、経済成長の果実を個人所得の増加や資産形成の拡大として実現する「成長と分配の好循環」を実現しようとしているが、その大きな流れを作るためのメッセージはシンプルでなければならない。成長資金の向かうべき起業家やスタートアップに増税しては、この国が「リスクテイクをして成長力を高めていく」という大きな流れに逆行するメッセージになってしまう。


<もはや狙い撃ちではなくいじめ!>

  • 財務省の資料では、5億円以上は1600人、10億円以上になるとたった600人。

  • 仮に5億円以上の富裕層の税負担率を2%程度上げても、手元の計算では税収は数百億円しか上がらない。数百億円の増税のために、2000兆円の金融資産の動きを止めてしまうことになる。

  • そもそも、これしか「富裕層」と呼ばれる人がいないのがこの国の「成長力のなさ」を象徴している。この層をもっともっと増やしていこうという政策を実行しようとしているのに、その層を増税で狙い撃ちにすることは、もう「いじめ」である。

  • 起業家やスタートアップを「いじめる国」で、誰が起業しようとするだろうか。1600人、いやそれを目指そうとする数千人の優秀な人材が海外に逃げ出すだけである。


<EBPMの死>

  • EBPMという言葉がある。「Evidence Based Policy Making」のことであり、政策目標を数値で設定し、事後的に検証しながら政策の改善を図っていく手法で、日本でもここ数年やっと根付きつつある。

  • 今年は「スタートアップ創出元年」として、数々のスタートアップ育成策をとっており、今後は毎年その政策効果が検証され、「5年後に10倍増」を達成するためのPDCAを回していくことになる。

  • その際に、スタートアップを推進する政策とスタートアップを抑制する政策(1億円の壁による増税)の両方が実行された場合には、推進策の効果がどの程度で、それをどう改善すれば目標に到達するのかが全く見えなくなってしまう。

  • これは、今政府が目指そうとするEBPMの動きに全く逆行する動きであり、政策の立法を担当する国会議員としては絶対に許容できるものではない。

  • 「1億円の壁」による増税を許容することは、「EBPMの死」を意味している。


このような理由で、今年は絶対に「1億円の壁」による増税を採用すべきでない。
仮にそうした増税策を採用するのであれば、まずは全力でスタートアップを育成し、5年後に見事「スタートアップ10倍増」を実現してから議論すべきではないだろうか?

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