日銀・黒田総裁の会見の「わかりにくさ」
今日、日銀が金融政策決定会合において、これまでの長短金利操作の運用を一部見直すことを決定し、発表した。
・長期金利の変動許容幅を±0.25%程度から±0.5%程度に拡大
・長期国債の買入額を月間7.3兆円から9兆円に増額
などが主な内容だ。
市場はすぐに大きく反応し、為替レートは137円台前半から132円台後半へと4円以上円高方向に振れ、長期金利は0.25%から一時は0.46%まで0.2%以上上昇し、日経平均株価は600円以上値下がりした。
(写真は日経電子版より)
15:30から行われた黒田総裁の記者会見では、主な説明は以下の通りだった。
・今回の措置は利上げではない。市場機能を改善することが目的。
・さらなる許容幅の拡大は必要ないし、今の所考えていない。
・企業金融への波及が安定することで、景気にはむしろプラス。
・YCCや現在の金融緩和を見直すことは当面考えていない。
・金融政策の枠組みや出口戦略について具体的に論じるのは時期尚早。
・現時点で、政府と日銀の共同声明を見直す必要があるとは考えていない。
これらの説明を聞いた感想を一言で言うと「わかりにくい」ということではないか。
今回の措置は「運用の一部見直し」であり、決して「金融政策の変更ではない」という説明だが、長期金利は上昇しており、「実質的な利上げ」と捉えた市場関係者が多かったのではないか。
また、過去には「許容変動幅を拡大すると金融政策の緩和効果を阻害する」と発言していたものの、今回は「マイナスが出ることはない」との説明へと大きく変わった。
今回の長期国債の買入額を7.3兆円から9兆円に増額したことについては、ほとんど納得のいく説明はなかった。
買入額の増額について穿った見方をすれば、「金融政策の変更ではないか」との質問に対する否定材料として、「緩和継続の要素を混ぜ込んだ」ともとれる。
相反する要素を同時に発表したことで、「意図的にわかりにくくしている」と言われても仕方がないのではないか。
日銀は、金融政策を変更する場合に、政策そのものの効果のほかに「アナウンスメント効果」を活用することも多い。
企業や市場参加者に政策の意図を明確に示すことで政策効果を高めることだが、今回の記者会見の様子からは、「政策の意図を明確に示す」という意志はあまり感じられなかった。
むしろ、政策の本来の意図を悟られまいとして、頑なに「日銀の主張」を繰り返したような印象を受ける。
そう思って記者会見の様子を振り返ると、黒田総裁が「やや苛立って」会見をしているようにさえ見えてくる。
今回、事前に変更を織り込ませることなく、全くの「サプライズ」とした意図もよくわからない。
通常、「サプライズ」を演出するときは、政策の効果を高めたい時だ。
ところが今回は「サプライズ」を演出したことで、金利を一気に上昇させ、大きく円高方向に振れさせ、株価を大きく下落させることになった。
このようなことを期待して「サプライズ」を演出したとは思えない。
もしかすると、「単なる運用見直しであり、大したことではない」とアナウンスしたかったのかもしれないが、だとしたらその戦術はうまくいかなかったということになる。
黒田総裁は、緩和の見直しや出口戦略のほか、政府との共同声明(アコード)の見直しについても明確に否定した。
先行きの日銀自身の選択肢を狭める発言であり、仮に短期間でそれが覆されることになれば、いよいよ日銀のコミュニケーションに対して信認が揺らぐことにも繋がりかねない。
今日の会見は、全体として、これまでやってきたこととの整合性や正当性に配慮するあまり、非常に苦しい説明を捻り出しているような印象を持った。
10年前の総裁就任時に、あんなにわかりやすい記者会見で「バズーカ」を炸裂させた黒田総裁の今日の記者会見を見ながら、もしかすると、10年にわたる異次元の金融緩和の一番大きな副作用は、「日銀の金融政策のわかりにくさ」なのではないかという気がした。
だとしたら、それはあまりに大きすぎる代償なのではないだろうか。
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