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動画編集ソフトVrewと考えるPMF(プロダクトマーケットフィット)

どうも、エンジニアのgamiです。

最近はUdemyの動画教材を制作していて、無限に動画編集をしています。動画編集にはVrewという動画編集ソフトを使っています。

先日Vrewを使って編集をしていたら、画面上でアンケートを依頼するポップアップが出てきました。アンケートを開くと、「PMFアンケート」という(たぶん内部向けの)タイトルでした。

(ちなみに今見たら無難なタイトルに変更されていました。)

僕は普段SaaSプロダクトを開発している会社で働いています。その社内でも、PdMロールのメンバーがPMF(プロダクトマーケットフィット)という言葉を使うのを耳にします。

プロダクトづくりに関わったことが無い人には想像しにくいですが、新しいプロダクトを作ってユーザーに継続的にお金を払ってもらうというのは、想像以上にずっと大変です。世の中に便利な無料サービスや手強い老舗プロダクトベンダーが跋扈する中で、全く新しいプロダクトを市場に受け入れてもらうというのは並大抵のことではありません。

Vrewが目指している「PMF」について紹介する中で、成功するプロダクトを生み出すとはどういうことか、一緒に考えましょう。


テキストを編集するように動画を編集するVrew

PMFとは、その名の通り「プロダクトがマーケットにフィットしている状態」のことです。とはいえ抽象的でよくわからないので、具体的なプロダクトであるVrewを事例にPMFについて考えます。

Vrewは、韓国の人工知能スタートアップVoyagerXが作っているソフトウェアプロダクトです。

僕はここ2年くらい、素人ながら動画編集を続けてきました。一時期は週2本の動画をYouTubeに継続的に投稿していました。仕事では自社プロダクトの仕様や関連技術について解説する動画を制作することもあります。

以前は「動画編集といえばAdobe Premiere Proでしょ」と粋がってPremiere Proを使っていました。しかし、今ではすっかりVrewの虜になってしまいました。

VrewはデスクトップアプリケーションをPCにインストールして使います。Vrewでは、撮影した動画を読み込むだけで、音声を自動で分析してテキスト化してくれます。1から文字起こししなくても、自動生成されたテキストを少し修正するだけで字幕を作ることができます。

Vrewの実際の編集画面

最も特徴的なのは、Vrewでは自動生成されたテキストをテキストエディタで編集するだけで動画のカット編集ができるということです。極論を言えば、プレビュー動画の音声を全く聞かなくても動画から不要な部分をカットすることができます。

https://vrew.voyagerx.com/ja/

信じられないことに、Vrewは2022年7月現在、すべての機能を無料で使うことができます。開発元のVoyagerXは、2021年6月に約28億円規模の資金調達しています。今は無料提供で広くユーザー層を広げつつプロダクトフィードバックを集めて、まさにPMFとマネタイズを目指している最中というわけです。

PMFとは何か?

スタートアップ界隈では、「スタートアップはまずPMFを目指すべし」というのが金科玉条のように語られています。

PMFの大切さを一言でいうと、"PMFがないと事業は成功しない、PMFは事業成功の唯一の必要条件"になります。

PMF(プロダクトマーケットフィット)の大切さと実例、はかり方、見つけ方: 基礎編|原健一郎 | Kenichiro Hara|note

PMFとは、「カスタマー(顧客)の課題を満足させる製品を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態」のことです。世の中にあまり存在しない課題やニーズを解くプロダクトを作っても、ユーザーの支持を得ることはできません。さらに、一部のユーザーに支持されるプロダクトを生み出すことに成功しても、それを適切な市場に知ってもらいユーザーが自然と増える状態をつくるまでにはさらにハードルがあります。

PMFの定義だけ見ると何とも曖昧に見えますが、スタートアップを経営する当事者からすればPMFに至ったときは必ずそれがわかると言われています。

それではPMFがあるとどういう状況になるのか。PMFを見つけた起業家の多くは、"PMFがあれば必ずわかる"、"PMFがあるかな?と言っているうちはPMFはない"とも言います。
(中略)
PMFがあると、広告キャンペーンやクーポンなしでユーザーが集まってきて、to Bであれば引き合いが止まらない状態となると言われています。

PMF(プロダクトマーケットフィット)の大切さと実例、はかり方、見つけ方: 基礎編|原健一郎 | Kenichiro Hara|note

TikTokは2018年に若年層の間でユーザーを爆発的に増やし、PMFを迎えました。Notionは2015年のリリース当初、今と全く異なるNoCode系プロダクトでキャッシュアウトの危機に瀕していますが、プロダクトの方向性を大きく変えた今ではとうにPMFを超えています。

動画編集ソフトVrewと考えるPMF

PMFについて考えるとき、ProductとMarketの両方の視点が必要です。Vrewを例に考えてみましょう。

まずPMFに必要なのは、ユーザーのニーズを満たすプロダクトです。特に、ただのニーズではなく「バーニングニーズ」を満たすプロダクトが必要と言われます。

Burning needsとは画像のように頭に火が付いていて、今すぐ消さないとマズイ、というような課題のことです。このような状態に対して、 英語で「頭に火がついている」、 "hairs on fire" と実際に表現します。基本的に企業はこのような、直近の課題の解決にしかお金を払いません
BtoBの場合特に、課題解決出来るかどうかをシビアに判断します。こんなのあったらいいよね、というフワッとした製品に払うお金など一円もないのです。

顧客のBurning needsを解決する

突然ですが、動画編集で最も時間がかかる作業はカット編集と字幕編集です。

たとえばYouTubeでおなじみのジェットカット(発言の間を詰めて細かくカットする編集手法)をするためには、一度動画をプレビューして音声を聞いてから、空白があればカットし、再度聞き直して違和感が無いことを確認する、という作業を延々と繰り返していきます。字幕を付けるにも、一度音声を聞いた上でそれを全て文字起こしする必要がありました。

かつてYouTube動画の編集でPremiere Proを使っていたときは、10分の動画を作るのにこれらの作業だけで3時間以上かかることもザラにありました。仕事の合間に趣味で続けるには、あまりにも大変な作業です。カット編集と字幕編集が楽になるなら、お金を払ってもいいと思っていました。まさに僕にとってのバーニングニーズです。

前述のように、Vrewを使うと独自の音声解析技術で自動文字起こしをしてくれます。さらにVrewでは、音声が無い部分は[…]と表示され、その部分を目で見て削除するだけでカット編集をすることができます。これまでは1回カットしたり1つ字幕を付けたりする度に必要だった毎回のプレビュー再生が不要になったことで、動画編集作業の効率は圧倒的に上がりました。Vrewを使うと、3時間かかっていた作業が、なんと30分ほどで終わるようになりました。少なくとも僕にとっては、Vrewはバーニングニーズを満たすプロダクトでした。

ここからさらに、Vrewは適切な市場の中で広く受け入れられる必要があります

VrewはAdobe Premiere Proと比べると、圧倒的に機能が少ないです。テレビ番組の編集者や専業YouTuberであれば、Vrewだけで編集作業を完結させることはとてもできないでしょう。

一方、世の中にはアマチュアの動画編集者は圧倒的に増えました。僕のようなアマチュア兼業動画編集者にとっては、難しい動画編集ソフトをこねくり回してリッチな動画をつくるよりも、最低限の動画編集を効率的にできることの方が重要です。本業の合間に動画編集をしているような人にとっては、Premiere Proなどというメニューが山のようにあるやりこみ要素満載のものよりは、カット編集と字幕編集という最低限の(とはいえ大変な)編集作業を最短経路で済ますことができるプロダクトの方がありがたいです。

Vrewが狙う市場も、Premiere Proと競合するようなプロ向けの市場ではなく、本当は動画編集などやりたくないが仕方なくやっているアマチュア寄りの層になるでしょう。とはいえコア技術は人工知能を使った音声の解析なので、そこをフルで活かすとなるとTikTok動画など音楽とビジュアルが主体のものよりは、まさに僕が作っているようなYouTubeの解説動画や語りの多いvlogなど5〜30分程くらいの比較的長尺な動画をつくる人がメインになりそうです。こうしたユーザー層にうまくリーチし魅力を感じて貰うためのプロダクトマーケティングを実施していく必要があります。

Vrewユーザーの僕としては、Vrewが無事にPMFを果たして運営が軌道に乗ることを願っています。

プロダクトに継続的にお金を払ってもらうハードル

Vrewからの「PMFアンケート」の最後は、次のような質問でした。

「Vrewを続けて使うために、あなたが悩まず払える金額は月いくらですか?」

繰り返しになりますが、既に世の中にたくさんの便利なプロダクトが溢れている中で、スタートアップや大企業の新規事業部が新しいプロダクトを生み出し、多くのユーザーから継続的にお金を払ってもらうというのは、想像以上に大変です。

たとえば、あなたがここ3ヶ月でお金を払うことを始めたプロダクトの数はいくつあるでしょうか?パッと思いつくのは、せいぜい1個か2個くらいでしょう。バーニングニーズの話でもあったように、人間の意思決定にも慣性のようなものがあり、真に重要な課題を説いてくれたり、圧倒的に良い体験が得られたりするようなプロダクト以外には、人は新たにお金を払いたいとは思いません

他方、この世に新しく生まれているプロダクトの数は、めちゃくちゃ沢山あります。そのうちの多くは、市場からの熱狂的な支持を得ることなく縮小したり無くなったりしてしまいます。

活気のあるスタートアップが継続的に生まれて日本経済が盛り上がるには、PMFを達成できるようなプロダクトの力が必要不可欠です。またDXの文脈で語られているように、日本の多くの大企業にとってもデジタルを絡めた新しいプロダクトで新規事業を創出していくことが至上命題になりつつあります。

人間はついつい自分で考え生み出したプロダクトを過度に甘く評価しがちです。厳しい市場の評価に晒されながらプロダクト改善を続けていきPMFを達成するようなプロダクトが日本に増えることを期待しています。

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