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PMF(プロダクトマーケットフィット)の大切さと実例、はかり方、見つけ方: 基礎編

昨日TwitterでPMF(プロダクトマーケットフィット)に大切さについて書いたので、それについて、PMFがあるとどういう状況になるかという具体例、PMFのはかり方と見つけ方、を加えてNoteにします。この記事を書く理由は、PMFの大切さを伝えたい、多くの起業家にPMFを見つけてほしい(すなわち成功してほしい)からです。

また、PMFのはかり方、見つけ方の実践編は細かくなったので別ポストにしました。下の記事が実践編になりますが、こちら基礎編だけでも読んでいただけたら大変うれしいです。

PMFの大切さ

PMFの大切さを一言でいうと、"PMFがないと事業は成功しない、PMFは事業成功の唯一の必要条件"になります。

PMF(プロダクトマーケットフィット)とは、「いいマーケットに対して、マーケットニーズを満たすプロダクトがあること」とMarc Andreessenは定義し、PMFという言葉を作ったBenchmark CapitalのAndy Rachleffはこうも言います

The only thing that matters is getting to product/market fit.
プロダクトマーケットフィットに至るかどうか、のみが重要。

Y Combinatorでは"Make something people want (ユーザーが欲しがるものを作れ)"が繰り返し繰り返しマントラのように唱えられ、Paul Grahamは下記のように言いきります。Y Combinatorの教えが集約されていると思います。

The way to make your startup grow is to make something that users really love.
スタートアップで成功する方法は、ユーザーが本当に愛するものを作ること

多くの人が語る通り、PMFは事業が成功するためのただ一つの必要条件なのです。そして、同時に、スタートアップがうまくいかなくなる最大の理由でもあります。競合でもなければ、チームでもなければ、ビジネスモデルでもなく、プロダクトマーケットフィット。

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PMFの難しさ

PMFは簡単には見つかりません。アメリカでは22%のスタートアップしかPMFがないと言われます。一方で、PMFに至るかどうかは、競合の多さは関係ありません。PMFは、起業家チームとユーザーの間"だけ"の問いです。競合が関わる問いではありません。なので、いくら競争が少ない日本であっても、PMFがあるスタートアップの割合は同じくらいかと思います。むしろ、アメリカのほうが初期のスタートアップが試行錯誤するケースが多いので、日本のスタートアップでPMFがあるのは22%より低いのかもしれません。

PMFってどういう状況?

それではPMFがあるとどういう状況になるのか、PMFを見つけた起業家の多くは、"PMFがあれば必ずわかる"、"PMFがあるかな?と言っているうちはPMFはない"とも言います。Marc Andreessenはこう言います

"You can always feel when product/market fit isn't happening. The customers aren't quite getting value out of the product, word of mouth isn't spreading, usage isn't growing that fast, press reviews are kind of "blah", the sales cycle takes too long, and lots of deals never close.
And you can always feel product/market fit when it's happening. The customers are buying the product just as fast as you can make it -- or usage is growing just as fast as you can add more servers. Money from customers is piling up in your company checking account. You're hiring sales and customer support staff as fast as you can. Reporters are calling because they've heard about your hot new thing and they want to talk to you about it. "
PMFがないときはいつだってわかる。カスタマーはプロダクトに価値を感じていないし、口コミは広がらないし、プロダクトの利用もそこまで早く成長しないし、メディアによるレビューもあやふやで、営業サイクルは長すぎて、案件はクローズしない。
そしてPMFが見つかった時も誰が見てもわかる。カスタマーはプロダクトができた瞬間に購入していき、プロダクトの利用にサーバーが追いつかず、会社の銀行口座に売上金があふれる。営業やCSの採用が追いつかなくなり、あなたの会社を聞いたメディアから電話が鳴り止まない。

僕が好きな表現に下記のようなものがあります。

PMFがある前は、大きな丸い岩を押しながら山を登っている状況(一生懸命ユーザーにプロダクトを押している)、PMFを見つけた後は、山頂を超えて大きな丸い岩が転がるのを追いかけている状況(ユーザーが次々とやってきて対応に追われている)。

ここで、DCMの投資先でPMFを見つけた時の実例をお見せします。ペット動画を軸にペット関連事業を展開しているPECOに投資したのは2016年の末でした。最初のVCとしてプレシリーズAのようなラウンドをリードしました。当時はテキストメディアを行っていてペットのお役立ち情報などをキュレーションメディアとして載せていました。
2017年の半ば、世間をさまざまな動画アプリが席巻している中で、ペットと動画の相性を考えて、動画に注力してみようとチームと決断し、その後の伸びがこちらです。青がテキスト、緑が動画です。

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PMFがあると、広告キャンペーンやクーポンなしでユーザーが集まってきて、to Bであれば引き合いが止まらない状態となると言われています。

PMFのはかり方 (基礎)

そうは言ってもPMFを示す表現はどれも曖昧で、計測のしようがありません。そこで、1.先行指標(Sean Ellis's test "このプロダクトが明日なくなったら困るか?"、NPS、口コミ等)や、2.プロダクト事に異なるエンゲージメント(MAU、ライド数、決済数等)、3.リテンションの3つでPMFをはかります。3→1の順に重要ですが、1→3の順に数値が早く計測できます。

一番重要なのは、これらの数値を他のプロダクトや業界平均と比較すること、また、数値を継続的にトラックして、PMFに向けて改善しているか、PMFだと言えた後も自社プロダクトがその水準にあるか、常にチェックすることだと思います。常に何かと比較し、継続的にチェックし、常に改善を続けることが大切になります。

逆にPMFをはかる上で意味のない数字も多いです。登録ユーザー数などの数字です。メディアに取り上げられたり、広告を出せば増える数字はPMFとは無関係です。クーポンを出したりしているならコンバージョンも関係ないかもしれません。

はかり方のやや実践へは下の記事に。

PMFの見つけ方 (基礎)

まず重要になるのが、PMFのMで、"どのユーザーを対象にして"PMFをはかるかです。ここが最初は小さくてもとにかく具体的に絞り込むことが重要かと思います。Facebookはハーバードの大学生、Yelpは"レストランのレビューを書く27歳でサンフランシスコに住む人"です。はじめは小さく見られている小さなセグメントで熱狂を生み、それが近接する市場へと広がっていきます。最初から大きすぎる市場を狙うと、その分PMFはとてもとても難しくなります。

PMFを見つけるために、とにかくユーザーと話し、プロダクトを作れ、というのはY Combinatorのマントラの一つです。
ユーザーに課題を聞き、その課題を検証するプロトタイプをつくり、テストし、改善を続ける、このプロセスを10-20回最低繰り返すことがPMFを見つける必要条件です。1回で見つかることはほぼないです。
ユーザーに課題を聞く時は"何に困っているか"だけを聞いて何が欲しいかを聞いてはいけません。スタートアップが作り出そうとしているものはほぼ間違いなく新しいもの。ユーザーは想像ができないはずです。
また、プロトタイプは課題が検証できる最小機能ないしは最小提供価値で大丈夫です。"ユーザーがお金を払って人の家に泊まるか"ということを検証しようとしたAirbnbの初期のサイトには、決済手段、地図、日付指定がありませんでした。

繰り返しになりますが、PMF前はとにかく集中しプロダクトを作ることとユーザーと話すことだけして、カンファレンス、他の起業家や投資家との飲み会に行ってゴシップに花を咲かせたりしない。チームも20人以上に増やしてはいけないとも言います。

見つけ方のやや実践編は下の記事に。

PMFをごまかす怖さ

PMFがないままに、調達を進めるとどうなるか、ユーザーが求めるプロダクトをもたないままにチームが大きくなります。
Y CombinatorのSam Altmanは、正しいプロダクトがある前はチームについて話すことなど皆無、と言った上でチームが大きくなることの弊害をこう言います。

"Lots of employees ends up with things like a high burn rate, meaning that you're losing a lot of money every month, complexity, tension, slow decision making. The list goes on but it's nothing good."
多くの従業員がいると、バーンレートが高くなる、つまり毎月多くの資金を燃やすことになり、さらに複雑になり、組織の不和、遅い意思決定に繋がる。これらの多くの従業員がもたらす結果のリストは長くなるだけで、一つもいいことはない。

プロダクトがないままに組織を作ったりグロース戦略や長期の戦略を考えたりするのは、レストランをやるときに1店舗目を作る時から拡大戦略とかサプライチェーンとか価格とかチラシの配り方を考えているようなものです。
最初に出すメニューがおいしくない、1店舗目に行列ができていないなら、その先はないです。

PMFがなかった有名な例

セグウェイはかつてAmazonやNetscapeに投資した一流VCのKleiner Perkinsから、プロダクトローンチ前に、彼らにとっての最大バリュエーションである5億ドルで最大投資額の3800万ドルを集めたことを皮切りにクレディスイスなどからも9000万ドルを集め、メディアからも絶賛され、ステーブジョブズもジェフベゾスも"ビッグアイデアだ"と褒め称えられ、ローンチ前に大きな注目を集めました。
その後セグウェイがどうなったかはご周知の通りです。
ローンチ前にKPでアソシエイトをやっていたAileen Lee (ユニコーンという言葉を作ったCowboy Ventures創業者)が、セグウェイを見て、"歩くよりやや早く移動できるって意味あるの?"と質問したのは有名な話です。

セグウェイをはじめPMFがなかったのに有名だったプロダクトは枚挙にいとまがありません。ドットコムバブルでもクリプトの乱高下でも今の日本でもPMFがないのに価値が高くなるものはいつでもあります。PMFがないと絶対に事業が成功しないなかで、PMFだけには嘘をつかず、いつもシンプルに"これ誰か欲しがってるの?"と質問し続けることがいいのではないかと思います。

営業力、マーケティング力の怖さ

営業力、マーケティング力があるとPMFをごまかせてしまう事があります。営業力によって、本当は刺さっていないプロダクトを営業先に押し込むことができたが、結果的にはチャーンしてしまう。マーケティング力によって、本当は刺さっていないプロダクトのMAUが一時的に伸びているように見えていたが、その後減衰してしまう。こういうケースがよくあります。本当にPMFがあるなら、下手な営業でも売れ、大量の広告を出さなくてもユーザーはやってくるはずです。

売上目標、競合の数字、"うまくいっている企業"のケーススタディ、投資家からのプレッシャー、従業員に対するプレッシャー、スタートアップではこれらに追われる日々が続きます。PMFがない、顧客が本当にまだ欲しがっていると言えない中で、無理やり売上げ目標やMRRを気にしすぎていませんか? SaaS企業は無理にT2D3を追っていませんか? チャーンを無視していませんか? MAUを広告で伸ばしていませんか? 焦らずじっくり本当にユーザーが欲しがっているか、立ち止まれるうちに立ち止まるのがいいかと思います。

PMFが難しい領域

一方で、これまで書いてきたようなPMFをまず見つけてからスケールすることが難しい領域もあります。ハードウェア、ディープテック、バイオテック、フィンテックなどの免許が必要な領域です。
ソフトウェアのように数人で簡素なプロダクトを出してマーケットで試そう、というわけにはいかず、組織体制を整え、ミスのない製品を出すことが求められます。PMF→チームのスケール、ではなく、チームのスケール→PMFとなります。これらの領域でPMFがなくうまくいかなかった企業が目立つのは、PMFがないソフトウェア企業よりも多く調達し、大きなチームを抱えているケースが多いからです。PMFの確率は同じです。
ただこれらを理解して、しっかり出来るだけリーンにチームを作り、プロダクトを出した後も何度も何度も粘り強く改善していけば、参入障壁が大きなこれらの領域だと大きな成功が得られるはずと思っています。

まとめ) PMFと起業家の能力や経験

PMFに起業家の能力や経験は、実はそこまで関係ないと思っています。どんなに素晴らしい起業家でもPMFがない市場で勝負しても勝てないからです。下記のAndy Rachleffの有名な言葉があります。

"When a great team meets a lousy market, market wins
When a lousy team meets a great market, market wins.
When a great team meets a great market, something special happens."
すぐれたチームが微妙な市場で勝負すると、市場が勝つ( = 売れない)
微妙なチームがすぐれた市場で勝負すると、市場が勝つ( = 売れる)
すぐれたチームがすぐれた市場で勝負したときに特別な結果になる

慣れていて改善を効率的に行ってPMFを見つける人、センスがありPMFに行くまでの改善が少なくてすむ人はいます。ただ、だからといって事業の天才である必要も連続起業家である必要もなく、1) PMFがないと事業が成功しないこと、2) 10-20%の確率でしかPMFに至らないこと、3) PMFを見つけたら誰の目にも明らかな状況になること、を認識し、とにかくユーザーの声を聞く、プロダクトを出す、改善を加える、あきらめない、PMFがあるかどうか数値を追い続けることが大事なのかと思いました。

科学者もこれに似ているかもしれません。科学者も"頭のいい"人がノーベル賞を受賞したりするわけではなく、また、最初に思いついた仮説が正しかったり、一回の実験でいきなり仮説が証明できたり、とはなりません。辛抱強く、実験を繰り返し、偶然の実験で予想もしない結果が出たりします。

PMFは10-20%しか見つからない厳しい道のりです。それを目指して挑戦した起業家は成功しようが失敗しようが本当に尊敬されるべきだし、そういう人がまた挑戦できるような社会であるべきだと思います。
また、運良く10-20%の確率を超えてPMFを見つけた起業家の皆さま、おめでとうございます!ただここがアメリカではシリーズA。ここから、組織作り、カルチャーづくり、市場拡大、事業展開、さまざまな競争や困難があると思いますが、日本から大きなスタートアップが羽ばたいていくことを心から応援しています。

多くの日本の起業家がPMFを見つけることができ、産業を変えていくビックアイデアとなり、日本のテック業界が進歩することを心から願っています。

(VCをやっていますので、もし強烈なPMFがありそう!見つけた!という方がいたら是非ご連絡ください。)

参考文献


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DCMベンチャーズというシリコンバレーのベンチャーキャピタルで投資をしています。 https://twitter.com/kenichiro_hara
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