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【試し読み】劇場版ONE PIECE STAMPEDE

本日8月9日、映画『ONE PIECE STAMPEDE』が公開となりました。
そして同時にノベライズ『劇場版 ONE PIECE STAMPEDE』も発売となります。

公開と発売を記念し、小説版の試し読みを公開いたします!

あらすじ

世界中の海賊が集まる海賊万博、開幕! 海賊王の宝探しに夢中のルフィたちの 前に、元ロジャー海賊団のバレットが立ちはだかる!
最悪の世代、海軍、王下 七武海、革命軍、CP-0も集結...!? 熱狂(スタンピード)の行方は...!?
3年ぶりとなる待望の劇場版最新作を、劇場公開同日に最速ノベライズ!

それでは、物語をお楽しみください。

プロローグ

 最悪(LEVEL6)の仲間がほしかった。

 海底監獄インペルダウン。
 脱獄不可能、世界政府に逆らったクソどものはきだめだ。
「ゼハハハ! ごきげんよう! この閉ざされた檻のなかで一生を終える、夢なき囚人ども!」
 闇の底の底で、海賊〝黒ひげ〟ことマーシャル・D・ティーチは暗い檻にむけて声を投げかけた。
 インペルダウンは凪の帯(カームベルト)の海中にそびえる監獄塔だ。屈強の看守たち、軍艦と回遊する海王類によって守られた施設は、外に近い海面からLEVEL1~5までに階層分けされている。下に行くほど重罪人が服役していて、きびしい拷問が課されるのだが、実は、おおやけになっていない六番目の最下層があった。
 LEVEL6、別名を〝無限地獄〟という。
 ここで罪人に課されるのは拷問ではなく永遠の〝退屈〟だ。LEVEL6の囚人たちは、世界政府にとって存在そのものが不都合な――たとえば国家転覆をもくろんだ政治犯、あまりに凄惨すぎて新聞記事がさしとめられたほどの虐殺事件の実行犯、いちどは政府側につきながら裏切った元・王下七武海(おうかしちぶかい)の有力海賊、もっとシンプルに世界を破滅させかねない異常能力の持ち主……。
 そんな一世一代の〝悪名〟を築いた者たちが、人々の記憶から忘れ去られるまで、腐って死に無力となるまで、なにもさせず幽閉しておくだけの場所だった。
「どうせ死を待つだけの余生……どうだおまえら、その檻のなかで一丁、殺しあいをしてみねェか!」
 ティーチの言葉に、鎖と枷でつながれた囚人たちはひとり、ふたりと顔をあげた。
 囚人たちはいくつかの部屋に分けて収監されていた。巨人サイズの房に入れられた者もいる。その彼らの瞳が、やがて……爛々と輝きはじめる。
 彼らは、飽きていたのだ。
「生き残ったやつらを……おれの仲間として! 外(シャバ)へ! つれだしてやろうじゃねェか!」
 ティーチは宣言した。仲間になれ、と。その証を見せろと。
 すでに彼は、このインペルダウン襲撃をもって七武海の地位を事実上、放棄していた。そもそもティーチが、海賊王の遺児ポートガス・D・エースの身柄を土産に世界政府に接近、実力を認めさせて七武海の特権を得た目的のひとつは、このインペルダウンのLEVEL6にたどりつくことだった。最悪の囚人たち(こいつら)と会うためだ。
 こいつらみたいな仲間がほしい。
 ただし、あまり大勢はいらない。退屈地獄で何年、何十年と縛られていても、牙が抜け落ちなかった本気(ガチ)で楽しいやつだけがいればいい。

 ――ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!

 囚人たちは猛りたつ。
 信じるのか? この話を……いいや、脱獄も侵入も不可能とされたインペルダウンの最下層にティーチとその一味はあらわれた。いま、まさにインペルダウンの伝説はゆらいでいる。世界政府ご自慢の海底監獄が、黒ひげ海賊団によって崩されかけている。
 ティーチは世界政府にケンカを売った。そして、いっしょに来いといっている。

〝外〟へ。彼らが、もっとも輝いて生きていたところに。

 冷えきった海の底で。
 温かい血のシャワーを浴び歓喜しながら、鎖でつながれた拳で殴り、足で蹴り、頭をぶつけ歯でくらいつく。〝祭り〟だ。〝祭り〟だ。退屈から解放されたLEVEL6の囚人たちは〝国を滅ぼす〟ほどのすさまじい喧嘩をはじめた。……………………

 LEVEL6は異常な暑さと湯気につつまれていた。
 命をかけた戦いのエネルギー、その余熱のようなものが土煙とともにフロアをただよっていた。破壊的な囚人同士の戦いのダメージを受けとめてもびくともしなかった海底監獄の頑強さは、ある意味さすがだった。
「ゼハハハ……!」
 ティーチは笑う。
 黒ひげ海賊団の船員(クルー)たち。そして、この最悪のケンカ祭りを生きぬいた囚人たちが彼のまわりにあつまっていた。
 みな、ひとりひとりが伝説を持っているような連中ばかり。こんなヤバいやつら、そもそも、ホイホイとだれかに膝をつくようなタマではあるまい。
 ――で?
 囚人のだれかが、それとなくうながした。
 黒ひげ海賊団の船員たちは静かな警戒を解かない。一方ティーチはゆうゆうと、晩飯の予定をきめるようなノリであらためて告げた。シャバに出ておなじ船に乗っておなじ釜のメシを食うのは、おれの仲間だけだと。
 つまり条件とは――マーシャル・D・ティーチを船長として、黒ひげ海賊団の旗のもとにくわわること。
 生き残った最悪の囚人たち、それぞれの心に浮かんだ思惑、腹の底……それらは推しはかりようもない。
 だが、ティーチはインペルダウンからの脱出の手はずをととのえている。手間がはぶける。なにより七武海でありながら、正面から監獄破りをやってのけた男とともにいれば、まったく退屈はしないはずだ。無限地獄にいるより、ひとりで行動するより、ずっとだ。囚人たちは渇くほどの退屈にうんざりしきっていた。そしてケンカ祭りでひさびさに鬱憤を発散して、ハレの気分だった。
 と、
 黒ひげ海賊団の操舵手、〝チャンピオン〟ジーザス・バージェスが、なにかに気づいてふりかえった。
 土煙のむこう。奥まったところにある牢獄に、だれかがいた。
 もともとは数人がおなじ檻のなかにいたはずだ。ほかの囚人たちは……すでに動かぬ姿となっている。
 感じるものがあったのだろう。バージェスはその囚人に歩みよった。
 身の丈は三五五センチのバージェスとさほど変わらないくらいか。ちぎれた片耳、左肩から胸にかけてむごい火傷の跡がある。ビルドアップされたレスラー体形のバージェスとくらべると、ムダを削ぎおとした肉づきをしていた。それが監獄生活でやつれたせいではないことは、足もとに倒れているほかの囚人たちを見ればわかる。
 見せるためではない。倒し、殺すためだけの肉体――こいつは海賊じゃねェ、海兵か、どっかの軍人か。バージェスの筋肉が直感した。
「そいつだけはやめとけ」
 ティーチが告げた。
 ひきあげだ。
 奥の檻を一瞥すると、ティーチはLEVEL6の外に歩きだした。
 ――おれがほしいのは仲間だけだ。
 弱ェやつはお断り。いっしょにいると息がつまるやつも。そして、けっして仲間にならないやつもいらない。
 これには、むしろ勝ち残った囚人たちのほうがティーチのいわんとすることを察し、ニヤリとして、あとにつづいた。
 おなじLEVEL6で長年すごした彼らは知っていた。あの奥の檻にいる男が何者かを。入獄してから二〇年、なにをしつづけていたかを。
 心を折ることができない人間というのはいるのだろう。あの男はティーチの呼びかけに応じることはない。あの男を動かすことができるのは世界でただひとりだけ。正確には過去にひとりだけいた。
 世界最強の――
「生きてやがったか……〝鬼の跡目(あとめ)〟と呼ばれた男……」
 これより黒ひげ海賊団は、まさに戦争のさなかにある海軍本部マリンフォードにむかうことになる。そこでティーチは、盃をもらってオヤジと呼んだ〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートとの決着をつける。新たな仲間、新たなチカラを得て、新たな世界に戦いを挑むのだ。

 この日、海底監獄インペルダウンのLEVEL6から囚人たちが脱走した。
 海軍本部は把握している。ティーチと同行した者のほかにも、檻から姿を消した者が複数いたという。
 最悪の脱獄囚たち。
 そして――〝鬼の跡目〟もまた無法の海に解きはなたれた。


1

 富、名声、力。
 かつて、この世のすべてを手に入れた男・海賊王ゴールド・ロジャー。最果ての地ラフテルに至り、史上ただひとり〝偉大なる航路(グランドライン)〟を制した海賊王も、不治の病に冒され、ついにローグタウンの処刑台に立つときがきた。そして世界をひっくりかえす発言をする。
 ――おれの財宝か? ほしけりゃくれてやるぜ……探してみろ。この世のすべてを、そこにおいてきた。
 彼の死にぎわにはなったひと言は、全世界の人々を海へと駆りたてた。
 伝説の〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟をめぐる冒険!
「あのひと言で大海賊時代がはじまった……」
 葉巻をくゆらせ。
 ロジャーの死の場面を描いた当時の絵をながめていた老人は、ふいに、いらだって紙をグシャグシャにした。
 ほじくりかえされたくない過去をえぐられたからだ。
 あれから二〇年余……マリンフォード頂上戦争。ロジャーの遺児ポートガス・D・エースの身柄をめぐって、四皇(よんこう)・白ひげ海賊団と世界政府・海軍本部のあいだでくりひろげられた決戦は、エースと〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートの死によって幕を閉じた。
 伝説の海賊の死。
 世間的には海軍本部の勝利ということだ。しかし長年、新世界のパワーバランスの一角を担ってきた白ひげ海賊団の崩壊は、世界政府が望んでいたであろう安定をもたらすことはなかった。
 ――〝ひとつなぎの大秘宝〟は実在する。
 ニューゲートもまた、かつて時代を競ったロジャーにならうように、死にぎわに告げたという。
 そして戦争のさなか乱入、ニューゲートを裏切ってすべてを奪った男――マーシャル・D・ティーチと黒ひげ海賊団。私欲から白ひげ海賊団の鉄の掟を破り、仲間殺しの罪によって追われる身となっていたティーチは、かつての部下にシメシをつけにきた白ひげ2番隊隊長エースをかえり討ち。そうして得た七武海の地位を踏み台にして、いまやニューゲートに代わり新世界の海で台頭している。
「まったく、だれかが脚本を書いたみたいにうまくできていやがるよなァ……! マリンフォードの戦争(マツリ)も、ある意味ロジャーの落とし子が主役だった。いつまでたっても世間はロジャー、ロジャー、ロジャー……お題目みたいにくりかえしやがって」
 なにもかも海賊王ゴールド・ロジャーが処刑されてからだ。
 死んで〝ひとつなぎの大秘宝〟の伝説を残してから。時代は〝大海賊時代〟という祭りに酔ったままだ。
「あのとき、おれはいちど死んだんだ。おれも、あんたもよ」
 暗い部屋には、来客がいた。
 世間では死んだことになっていた老人――ブエナ・フェスタを探しあてて、たずねてきた男だ。〝祭り屋〟フェスタの名をたよってくる者は、いつ以来だっただろうか……。
「ロジャーの退屈な大海賊時代のせいで、おれたちは二〇年間、ただ生きているだけになっちまった。だが……!」
 フェスタは葉巻の火をロジャーの死を描いた絵に押しつけた。
 炎。
 燃える。この心は燃え、躍る。
 生きているとはこういうことだ。楽しいことだ。血湧き肉躍るってやつだ。
「乗るぜ、あんたの話……! このブエナ・フェスタ、たしかに生涯最高のネタがある! やつが……ロジャーが隠した〝秘宝〟は、たしかに、おれの手にある! それがあれば……!」
 燃えあがった炎に暗い部屋のようすが浮かびあがる。
「…………」
「なるほど、おれも、あんたの求めるものも、すべて手にはいるだろうよ。〝鬼の跡目〟ダグラス・バレット!」
 千切れ耳。
 インペルダウンのLEVEL6にいた、あの囚人だった。ダグラス・バレットは海底監獄を脱獄後、紆余曲折を経て、隠遁生活をしていたフェスタのもとをおとずれた。
 ある意図(はなし)をもって。
 バレットのまえのテーブルには紙束が積まれていた。海軍の手配書だ。大海賊時代に名をあげた海賊たちは、ふたりにとっては息子や孫のような年ごろのガキばかりだ。
 バレットは海賊の手配書の束にナイフを突きたてた。
 それが彼のもちかけた〝意図〟だ。
「バレット……あんたなら、〝最強〟のために、世界中を闘争という〝熱狂〟にまきこめるかもしれない……! それは〝宝探し〟なんていう間怠(まどろ)っこしいロジャーの大海賊時代よりも、はるかに楽しいだろうさ!」
 いまは、まだダグラス・バレットひとりの野望でしかない。
 それを計画し、資金を確保し、宣伝し、人をそろえてブチあげるのは興行師(こうぎょうし)の仕事だ。プロデューサーである〝祭り屋〟ブエナ・フェスタの出番というわけだ。
 わくわくする。
「世界をまきこんだケンカ祭りだ……! Yeah!」
 残りすくない人生を賭けるのだ。
 ゴール・D・ロジャー。
 あの男は、比するもののない存在であるがゆえに。
 この退屈な大海賊時代を、ロジャーが残したすべてをぶっつぶしてやる!
「やろうぜ……海賊の、海賊による、海賊のための……そして、おれとあんたのための世界一の〝祭り〟……!」

 ――〝海賊万博〟だ……!

 マリンフォード頂上戦争から二年。
 四皇が割拠する新世界を舞台に、大海賊時代は〝最悪の世代〟と呼ばれるルーキー海賊たちによって加速していく。
 とどめようもなく。過去と現在と未来、人の絆と縁をひきずり、もてあそび、彼らの命の輝きを危うく研ぎすましながら。

 ライオンの船首像(フィガーヘッド)、〈サウザンド・サニー号〉は波を分ける。
 甲板ではバーベキューの準備中だ。コックのサンジが吟味した肉と野菜の素材を並べて、サイボーグの船大工フランキーが口から火を吐いて火力を調整する。
 海賊・麦わらの一味のいつもの宴風景だったが、今日は、ちょっとした出来事があった。

   ――親愛なる海賊ご一同。
     敵船、同盟、入り乱れ酒を酌みかわすのもまた一興。
     来る者こばまず去る者追わず。
     この世界一の大宴〝海賊万博〟に参加されたし。
     フェスティバル海賊団船長 ブエナ・フェスタ

「……世界一の大宴ねェ」
 狙撃手ウソップが郵便でとどけられた招待状を読みあげた。
 船首像の上には麦わら帽子。一味の船長モンキー・D・ルフィは立ちあがってさけんだ。
「見えたぞ !」
 進路には島影。そこが今回の目的の場所だ。
「聞いたことがあります海賊万博……何年かにいちど、突然、開催される巨大な海賊のお祭りで……」
 音楽家ブルックが招待状をのぞきこむ。ブルックはアフロヘアのガイコツで御年九〇歳。いちど死んで生きかえった変わり種だが、一味ではぶっちぎりの年長者なので物知りだ。
「――船や食べものに情報など、世界中から、いろんなものがあつまるそうですよ」
「海賊の闇市みたいなもんか」
「いい酒もありそうだ」
 フランキー、そして剣士ゾロもブルックの話に興味をひかれる。
「なお、今回は余興として……」
「海賊王ゴールド・ロジャー !?」
 ウソップの背中に飛びついたちいさな青鼻のトナカイ、船医のチョッパーが、かわいらしい声をはさんだ。
「……にまつわるお宝探しをご用意しております、だと」
「海賊王の宝探し!」
 船長のルフィはすっかりその気だ。
「海賊のお祭り……ごていねいに会場の島への永久指針(エターナルポース)まで同封して、おまけに海賊王のお宝……」
 航海士ナミは〝万博島〟と記された永久指針を手にする。
〝偉大なる航路〟の海では天候、海流、風向、さらには季節、磁気さえ一定ではない。つねに目的地の方向をしめす永久指針がなければ航海すらむずかしいのだ。
「お宝! お宝! お宝!」
「って、ちょっとは疑え!」
 すっかりお祭りモードのルフィ、ウソップ、チョッパーの三人組を、ナミがたしなめた。
「ブエナ・フェスタ……世界一の〝祭り屋〟として知られた男。情報屋や武器商人とも強いつながりがあって、黒いうわさが絶えなかった海賊よ。でも、たしか死んだはず……」
 ベンチに座った歴史学者ニコ・ロビンがつぶやく。
「死んだ?」
「海難事故で、海王類(かいおうるい)に食われたそうよ」
「死んだはずの男と海賊王の宝か。ま、真偽はともあれ海賊王と聞いちゃあ、なァ、船長」
 サンジが彼らの船長の気持ちを察する。
 なんといったって、ルフィは新たな海賊王をめざす男なのだ。
「海賊同士のお宝探しだぞ? ぜったい楽しいにきまってるじゃねェか!」
 ――行くぞ、海賊万博!
 永久指針がしめす万博島が近づく。〈サウザンド・サニー号〉は入り江の運河から案内状にある港にむかった。



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