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読書記録(3)『天使とは何か キューピッド キリスト 悪魔』(中公新書)

 読書記録三回目です。今回は中公新書から出ている「天使とは何か」の感想になります。個人的にクソ面白い本の一冊ですね。
 ではやっていきまっしょいb

概要

タイトル:天使とは何か キューピッド キリスト 悪魔
著者:岡田温司
出版:中公新書
説明:エンジェルとキューピッドは何が違うのか。キリストがかつて天使とみなされていたのはなぜか。堕天使はいかにして悪魔となったか。「天使」と聞いて、イメージが浮かばない日本人はいないだろう。しかし、天使をめぐる数々の謎に直面したとき、私たちは想像以上に複雑な陰影を彼らがもっていることに気づくはずだ。天使とは一体、何者なのか――。キリスト教美術をゆたかに彩る彼らの物語を追いかけてみよう

感想

 クッソ面白い。
 導入は「天使とキューピッドは何は違うのか」という誰しもが抱く疑問から入り、そういったイメージが定着した要因としてルネサンス期に端を発するギリシア・ローマの異教神との習合を指摘する。
 サイゼリヤの絵画でも見た事があるであろうラファエロの「システィーナの聖母」では幼い子供の容姿をした二人の天使が描かれているが、これはルネサンス美術で好まれた「プット―(小童)」「小精霊(スピリテッロ)」と呼ばれるモチーフに由来しているとする。
 宇宙を運行する天使を描いた『天体観測義のタペスリー』には天を支える異教神であるアトラスが描かれるなど、随所に異教的要素を見出す事も出来るとしており、キリスト教と異教を繋ぐ要素としてラテン語のスピリットに対応するギリシア語の「プネウマ」を挙げているのも興味深かった。元々は「精気」等と訳されるそれはキリスト教では「聖霊」と訳され、元々ギリシア哲学や宇宙論などと接する要素が読み替えられてキリスト教にも浸透していったらしい。
 新約聖書の外典から伺う事の出来るキリスト=天使論やユダヤ人のミカエルを筆頭とする天使崇拝、智天使や熾天使、座天使といった天使の持つ様々な側面を平易に解説してくれるのであまり知識が無い人であっても楽しく読めると思う。
 
 個人的に一番面白かったのは第Ⅳ章『堕ちた天使のゆくえ』におけるティタンと堕天使の比較の部分。
 ティタンといえばギリシア・ローマ神話における種族の一つであり、大神クロノス(サトゥルヌス)を筆頭とする種族ですが、中には人類に火を齎したプロメテウス等の文化英雄も存在しています。
 聖書における巨人ネフィリムも巨人であり、創世記曰く洪水以前の時代における英雄たちだったと記述されています。さて、ティタンはゼウスに負けてタルタロスに堕とされますが、神の子である天使も「ペトロの手紙」の記述曰く地獄に堕とされるとされており、この部分における「地獄」はギリシア語の原語で「タルタロス」とされている故に面白い類似が見られる。

 ページ数もそこまで多くないので一日二日あれば十分読み切れるサイズで丁度良いし持ち運びやすいので電車とかの時間潰しで今でもよく読んでます。
 世間一般のイメージする天使から入り、そのイメージの源流である異教的要素、「使者」としての天使や堕ちた堕天使、そして芸術作品の中にある天使など、非常に幅広い分野の天使について分かり易くまとまっている一冊ですね。
 天使名を網羅したのがグスタフ・デイヴィットスンの「天使辞典」ならこっちは「天使」という概念について身近なものを引き合いに出しつつ話を進めてくれるので頭にもスっと入ってくるなと思いますね。中公新書の宗教系の本でもかなり面白いので是非ともオススメしたいです。

 値段も780円+税なので手頃ですね。
 
 

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