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小論文》 生け花①

生け花は、その誕生から何一つ変わらず今まで引き続き日本の伝統的な美を表現しているようなイメージを受けますが、実は逆です。生け花の誕生のときを考えると、昔の人々がどんな感覚を持ち、どんな世界観と人間関係を持っていたかは、想像するのが困難な秘密のように隠されています。生け花の意味は、花や草木などを切り取り、特別な原則に沿って容器や花瓶に飾り、そして飾った花々を眺めることになります。生け花の三つの重要な要素「天地我」と呼ばれます。「天」は空で、「地」は自然あふれる土で、「我」は人間で、人間は天と地の間に日々を送るので、この三つ要素は風景の基礎で、人間が経験する存在の要件です。つまり、生け花は、空間・場所と不可分の関係をもち、空間を構成する芸術です。

 最初に、生け花の発展の歴史を簡単に説明し、そして、生け花と空間、生態系などの人間から見る風景を考察しようと思います。

 まず、生け花の伝統芸術の中には変化しない主体の部分がありますが、時代を超えてそれぞれ時と場所の期待に応えるため、生け花は変化してきました。なぜなら、生け花は、伝統的な芸術であるだけではなく、生きている芸術だからです。

 生け花あるいは花道のはじまりは、仏教伝来と関係がありそうですが、具体的にそれを証明する証拠はありません。しかし、花を生ける習慣は枕草子をはじめ古代の文学作品にも見られるので、平安時代には普及していたと考えられます。

 古代から「常緑樹」(じょうりょくじゅ)と言う表現があって 、日本人の周りにはいつも緑が多くて、花などの自然が産出する命を持つものを尊重していたことをそれは示しています。そして、近現代に入ると、輸入した花々が手に入るようになり、それらを取り入れた生け花の作品は、新鮮な感じを生み出して、創造性の可能性を広げました。生け花は、日本の伝統芸術であるとしても、和花だけを中心に使うわけではなくて、諸国から輸入した花草を使うことになりました。グローバル化のおかげで、新しい植物を取り入れながら、生け花は発展を続いていきます。例えば、日本の花には前にない壮麗な美しさをもったダリアはメキシコから輸入されましたが、生け花の教室でよく使われることになりました。ダリアの大輪を見ると、他の国や地方の景色を想像することもできるようになります。

 生け花に限らず日本の芸術の全ては「間」を重視して成り立ちます。芸術作品は、物理的空間内に対象的に存在するのではなく、その中にある全ての要素が連関する生きた空間の中にあります。もし花、花瓶、床の間や他の飾る場所が観客と良い関係を保ちえなくなると、不調和が生じ、観客が作品との出会いに違和感しか覚えない恐れがあります。なぜなら、生け花は、花そのものだけではなくて、生け花の環境にあるものにも注意を払わなければなりません。他の重要な点は、生け手が作品を完了させるのではなく、観客の頭脳が刺激を受けて、想像力で感じ取った現実を主観的に楽しみながら、観客が作品を完了させることです。その結果、生け花は、間主観的な芸術であり、だからこそ、この間主観性を成立させるために間が必要で、人と人との関係に際してコミュニケーションが成り立ちます。

 また、最初の段落に書いた「天地我」という表現は、雪竇禅師が書いた「天地我と同根、万物と一体」に由来します。この言葉の意味は、人間を含めた様々な生き物があり、それらは巨大な関係性を保ちながら存在しており、みんなは同じ宇宙に生きているということです。生け花を観賞していると、時間が止まり、この巨大な関係性の意識が起こる可能性があって、花で創作した風景を眺めることを通じて、自分の環境を深く意識することができます。

 一方、生け花に使える花には特徴があります。これは、自然に直接関する代わりに、文化や説話、民俗伝承などを参照することに見られます。例えば、燕子花(カキツバタ)の生け花は、尾形光琳が燕子花図屏風を作って、モチーフとした燕子花はとても有名になりました。加えて、燕子花のモチーフは、伊勢物語をもとにして絵画の主題になりました。その結果として、燕子花の生け花は、自然の風景と観客自身の知覚に依存して、観客によってそれぞれ個人的な印象を受けるはずです。コロンビア大学教授ハルオ・シラネが書いたように、生け花は本当の風景をもとにして二番目の風景を作り、まるで派生製品のように風景、または自然環境の複製とされます。

 最後にまとめますと、生け花は、大宇宙の中の小宇宙ですが、目に見えない感覚、知識、感情、季節の雰囲気などを含んでいます。そして、自分の経験は自分に固有なので、生け花を眺めながら自分が見える景色は他人が眺めている景色は異なります。つまり、生け手の視点から見る生態系、心からわかる世界が生け花を通じて具体的に表現されています。

写真: 宇 周 on Unsplash

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