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ものごとの歴史

私は某大学の博士課程に通うものです。環境工学、特に水環境を専門としております。

さて、私たちが口にする水道水は塩素消毒が施されています。塩素は安価で殺菌性が持続するということから、水処理においては欠かせないものです。しかし塩素消毒にはいくつかの副作用もあります。その一つは、塩素と水中の有機物の反応により非意図的に発生する物質です。このような塩素消毒によって副次的に発生する物質が水環境中で初めて検出されたのが、今からちょうど50年前の1974年のことでした。今日、消毒副生成物と呼ばれているこれらの物質を、発癌性などヒトへの健康被害の観点から、生成を抑制する方法や発生メカニズムの解明に、世界中で私を含む多くの研究者が日夜取り組んでいます。蛇足ですが、日本では厳しい水質基準が設けられているので、水道水が人体に深刻な影響を及ぼすことは基本的には考えられません。ご安心なさってください。

ところで、消毒副生成物の問題の起源はどこにあるのでしょうか。50年前でしょうか。おそらくそれは違うと思います。というのも、人類が50年前まで認識していなかっただけで、物質そのものは存在していたからです。ではいつまで遡るべきでしょうか、一つの考え方は塩素消毒が導入された時かもしれません。アメリカでは1908年、日本の大部分ではGHQの指導により1946年に塩素消毒が浄水処理として採用されて以降、コレラなど水系感染症の罹患者数は著しく減少し、乳幼児の致死率も劇的に改善しました。まさに、塩素消毒は人類の公衆衛生における20世紀最大の発明と言えます。その一方で塩素の過剰投入が臭気などの問題につながることはずっと昔から指摘されてきました。すなわち、塩素消毒は浄水処理の歴史において、もっとも重要なできごとでしたが、それと同時に塩素消毒による副作用を我々は常に考えてきたということになります。ものごとの歴史とはこのように綴られていくものかもしれません。

話は変わりますが、消毒副生成物の歴史が始まった1974年よりもさらに20年前に、黒澤明監督の『七人の侍』が公開されました。国内外問わず数多くのファンが現代にもいるこの映画は、後の世代の映画監督に多大な影響を与えたと言われています。カリフォルニアに生まれたとある若者もその一人でした。その勇敢で野心を持った青年は、黒澤明の侍映画におけるカメラワークや脚本に魅せられて、ハリウッドを志します。そうして彼は宇宙空間を舞台に、ウェスタンの雰囲気をまとった『七人の侍』の制作に着手しました。1970年代後半に第一作が公開されたこの映画は"Star Wars"と名づけられ、多くのSci-Fiファンを魅了し、現代の映画監督に多大な影響を与え続けています。

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