乳がんとヨガ
乳がんサバイバーに人気のある運動に、ヨガがあります。都内だと駅に1つはヨガスタジオがあるといっても過言ではなく、空前のヨガブームでもあり、当然といえば当然のことかもしれません。
乳がん診断後の運動が、再発や死亡リスクを減少させることは、前回お話しました。基本的に、病気をする以前からやられていたお好きなスポーツがあれば、それを継続できるといいと思います。
腋窩リンパ節を郭清されている方は、運動による患肢のリンパ浮腫を心配されていると思いますが、以下のようなガイドラインも出てきました。
「適度な運動は乳がん術後の肩関節拘縮、および術後患肢のリンパ浮腫発症率を有意に下げる。」
「無理の無い程度の運動を継続することが需要。」
日本リンパ浮腫学会 『リンパ浮腫心診療ガイドライン2018年版』より
以前かながわ乳がん市民フォーラムでご講義いただいた、谷和行先生によると、リンパ浮腫の予防には適度な運動が効果的だそうです。リンパマッサージについては、浮腫を起こしてしまった部位には有効ですが、予防にはあまりならないとおっしゃっていました。骨転移している部分なども弱い部位含め、リンパ郭清している腕に負担をかけない程度で、運動することは良い予後に繋がります。
乳がん治療後の運動にヨガを選択するサバイバーがなぜ多いのか。日本乳癌学会では、次のようなガイドラインを掲げました。
「乳がん治療の際、ヨガには、
不安軽減
ストレス軽減
うつ症状・気分障害の改善
QOLの向上
の効果が期待できる(推奨グレードB)」
ただし、
「ヨガが乳がんの生存率を上昇させるというエビデンスはない」
日本乳癌学会『乳癌診療ガイドライン2018年版』より
ここで「あれ?」と思うのは、ヨガによる運動の効果ではなく、不安やストレス軽減といった精神的アプローチの効果を謳っている点です。
ヨガの動き自体はストレッチであったりフィットネスのようではあり、それ自体とても気持ちの良いものですが、確かに私がヨガを好むのもプラス精神的な安定を得られるからです。
ヨガの歴史を紐解けば、仏教に行き着きます。そして仏教の教えを求めるのは心の平穏のため、だからかも知れません。
【ヨガの目的】
歪みの解消と活力に満ちたおだやかな気持ちに
現在ではダイエットや健康法としてもブームとなっているヨガですが、本来の目的は「苦痛からの解放=快適で安定した心を作ること」にあります。
ポーズでは体の歪みが矯正され、柔軟性や体力が向上するなどの効果がありますが、そこにゆったりした呼吸や瞑想を組み合わせることで、集中力が高まり、おだやかで揺るぎない精神状態を作りだすことができます。歪みが解消し、体全体が引き締まって美しいプロポーションを手に入れられるのはもちろんのこと、活力に満ちた前向きでおだやかな気持ちを得られることこそがヨガの特長といえます。
『ヨガジャーナルオンライン』より
ヨガの瞑想は祈りに通じます。瞑想がイメージだとすると、言葉にしたものが祈りです。脳科学の分野では、他者のために祈るとき「オキシトシン」という「幸せホルモン」「愛情ホルモン」とも呼ばれるホルモンが分泌され、ストレスを緩和すると言われています。
こう書いていくと宗教やスピリチュアルという世界観のお話にもなるので、医学会では『乳癌診療ガイドライン』のように、不安の軽減などという表現にとどまっているのだと思います。
いずれにしろ、ヨガを通じて体と心の繋がりを感じ、体を整えることで心をともに整える感覚は、他のスポーツと少し違う特徴かもしれません。がん患者さんのみならず健常な方にもぜひ味わってほしいな、と思います。
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