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11/10(土)京都市自転車撤去記事の補足

前々回の記事 11/8(木)京都市の横暴な自転車撤去・10の問題点 は、多くの人に読んでいただけたようで、とてもうれしく思っています。
公開後に頂いた意見や補足、そして書き足したいことがあったので、今日はそれを書いて日記の代わりにしたいと思います。

補足1  ルールのつくりかたについて。

前回の記事について「ダメって言われてるのに停める方が悪いのでは?」という意見をもらいました。
もちろんこういった疑問が出るのは無理もない話です。その点についてもう少し説明すべきだったかもしれません。
前回僕が指摘したかったのは、その「ダメ」に問題は無かったのか、という点だったのです。
社会生活を営む上で僕らには様々な「これをしたらダメ」=ルールが課せられています。その多くは理に適っていて、社会生活の前提となっています。
では、京都市の定めたルールについてはどうでしょうか。

京都市は、自転車を放置してはいけない理由として

・歩行者の安全な通行の妨げになります。
・車椅子やベビーカーにとっての危険な障害物となります。
・災害時の消火活動や救急活動,避難の妨げとなって支障をきたします。
・点字ブロックをふさいでしまいます。
・まちの景観を損ないます。

以上の5点を挙げています。(京都市サイクルサイトより)

これについては、僕を含め京都市民の多くが納得できるものだと思います。(最後の「まちの景観」については異論ありですが、今回は割愛します)
では何が問題なのかと言うと、前記事の繰り返しにもなりますが、

「ルールを守ることの難しさ/デメリットの大きさ」
「ルールを破った際の対処の過剰さ」

という2点なのです。

先ほど言及したように、社会生活を営むうえでは様々なルールがあり、僕らにはそれを守る義務があります。
しかしそれは「ルールを破った相手にはどんな対処をしてもかまわない」ということを意味しません。
市側にはこうしたルールを設定すると同時に、「そのルールを無理なく守れるような環境を整備すること」そして「ルールを守るメリット/ルールを破るデメリットのバランス」についても考慮することが求められます。
つまり「何かを制限するルールをつくる者の責任として、そのルールは守りやすく、守れるようなものであるべきで、守ることによって正のインセンティブが働くようなものであるべきだ」というのが僕の考えです。
そして、京都市の自転車撤去に関する条例にはそういった配慮のあとが見られず、実際の運用についても多くの問題を孕んでいることは前回の記事で指摘した通りです。

補足2  市の駐輪場整備について。

京都市の駐輪場整備は遅れています。
市の資料によると、立地上の理由によって整備が進まない地域では、助成金を供出しつつ民間の力も使って整備を進めていくという旨が記されています。
また、一定規格以上の規模をもつ民間施設に対しては利用客向けの駐輪場を整備するよう促していますが、人口密集地や繁華街においては相変わらず駐輪場不足が続いています。
同時に市は、「市内全体の自転車収容可能台数」が順調に増加しているとアピールしていますが、市民の感覚としては駐輪場設置場所に偏りがあり、条例制定前の利便性には遠く及びません。
そこで京都市が行っているのは「禁止されるまでは無料で駐輪できていた公共の場所(歩道等)の一部を、有料駐輪場として整備しなおす」というやり方です。
これはおかしな話で「歩行者の安全な通行の妨げになる」という理由で駐輪が禁止されていたはずの場所が、そのまま「有料駐輪場」として生まれ変わり、そこに自転車が置かれているのです。
これでは、そもそも何故その場所への駐輪が禁止されていたのかが分かりません。利用者側としては、「前と同じ場所に同じ自転車を停め、何かメリットが増えるわけでもないのに、何故か料金を払わなければならなくなる」というおかしな状況に困惑してしまいます。

前回の記事でも指摘しましたが「公共の場所への駐輪を時間の長短に関わらず一律に禁止する」というルールに対して、そのルールを守るために必要不可欠である「駐輪場の整備」が伴っていないというのが京都市の実情です。
そもそも市内全域に十分な数、収容台数の駐輪場を整備することが困難であるということは、条例制定前にも予想できたことのはずです。
そして、その困難が予想されていながら「放置自転車撤去」のみを強硬に進めた結果生まれたのは、正しくルールを守っている利用者を含む、すべての自転車利用者が被る不利益と、市政への不信感です。
たしかに近年では京都市の放置自転車は減少し、撤去自転車の数も減少しています。しかし僕は、それが「自転車利用者のマナーが向上した」と手ばなしで喜べる結果だとは思えません。
京都市は「自転車共存都市」を謳い、市民の自転車利用を推進しようとしてきました。それにもかかわらずここ10年間京都市が進めてきたのは、自転車利用を制限・自粛させるような政策です。この矛盾はもっと批判されるべきだと思います。

補足3 市の自転車撤去民間委託について。

京都市は、自転車撤去の実務を民間企業に委託しています。これには市内全域の撤去作業を市職員のみで行うのが困難であるという事情によるものと思われますが(もちろん、最初から市のみで運用できるような制度設計にすべきだったという批判も成り立つと思いますが)もうひとつ別の側面を持ちます。
条例で定められた撤去の方針が、市民からの反発を呼ぶものであるというのは前回の記事で指摘した通りですが、市は民間委託によってその反発を直接受けずに済む立場に身を置いています。
撤去の現場で作業員に抗議しても、彼らには作業を中止したり、そのやり方を変える権限がありません。
このように、外部委託によって実際の責任者不在のまま現場作業を進めるやり方は市民同士の不要な対立を生むものであり、市政に対しての不信感をさらに高めています。

補足4 京都市はどうするべきなのか(まとめ)

最後に、市はどのような条例を制定し、どのようにそれを運用すべきかについて僕なりの考えをざっくりと述べたいと思います。

・放置自転車の定義
放置自転車の定義は「駐輪禁止エリアに駐輪され、警告シールを貼られてから3日が経過したもの」とする。
これでは「毎朝停めて、夕方取りに来て乗って帰る」自転車を撤去することはできないが、警告シールを貼ることによる啓蒙効果は期待できる。

・駐車禁止エリアについて
公共の場所の中で、駐輪に十分なスペースが確保されている場所については駐輪可能エリアとする。
その他、公共の場所の中で、歩行者の安全な通行の妨げになる等の合理的理由が認められる場所を駐輪禁止エリアとし、明確に区分する。

・撤去について
警告シールが貼られて3日が経過しても移動されていない放置自転車は撤去する。ただし、撤去作業開始前に放送・看板設置で作業開始の告知を行うことを義務付ける。
撤去・保管にはコストがかかるため極力行わない方針とし、その場での返還についても柔軟に対応する。
私有地への無断駐輪については厳しく対応し、市民からの通報があった場合は迅速に現場へ向かい、放置時間の長短に関わらずその場で撤去する。

・駐輪場の整備について
駐輪場は、まず自転車利用者のニーズを把握するための調査から始める。
そして要望のある地域の歩道もしくは車道の一部に、駐輪用ラックを設置する等の小規模・低コストな駐輪場を多数設置する。
市が公共の場所に設置した駐輪スペースについては基本的に無料とし、繁華街等の多数の利用者が見込まれる場所については民間の有料駐輪場設置に助成金を供出する。

コストについて全く考えていないので費用面でどうなのかは分かりませんが、少なくとも市民感情や市民感覚として本来「納得できるライン」はこのあたりではなかったのかなと思います。
手遅れな感もありますが、京都市は今からでも自転車利用者に寄り添った政策にシフトしていくべきではないでしょうか。

今回記事を書いていて思ったことは「自分たちの自由が制限されることに鈍感な人がけっこう多いんだな」ということでした。そしてそれは同時に「他者の自由を制限することに鈍感な人がけっこう多い」ということでもあります。
自転車撤去の件に限らずですが、僕らが享受している「自由」はけっこう脆いもので、ふとしたときに、ちょっと気を許した隙に失われてしまうものです。冒頭にも書いた通り「ルール」は僕らの生活を安心、安全にするための前提ではあります。しかし、そのルールによって僕らが何を手に入れ、何を失うのかというバランスについては、常に目を光らせないといけないのだなと思います。特にルールを決める側は「全体」を見ようとするあまり「個」の自由に無頓着になってしまうことが多く、どこかで誰かが歯止めをかけなければ手遅れになってしまうこともあります。


以上、前回の記事への補足でした。
特に理由はありませんが、今回の記事は初めて「ですます調」で書いています。自分の性格的にはこのほうがしっくりくるような気もするので、しばらくこれでいってみようと思います。余談でした。

こんな生活なのでサポートして頂けると少額でもとても大きな助けになります。もしこのノートを気に入っていただけたら、ぜひよろしくお願いします。羊肉