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「仕事ごっこ」から学ぶこれからの働き方 昭和時代の常識は令和時代の非常識!

本稿は日本人材マネジメント協会(JSHRM)の会報誌である『Insights』Vol.102(2020年1月号)に掲載された「【特集2】「仕事ごっこ」から学ぶこれからの働き方 昭和時代の常識は令和時代の非常識!」を転載したものです(肩書き等は取材当時のものです。文中の太字などの文字装飾は今回事務局にて追加したものです)。
JSHRMは我が国の人材マネジメントを担う方々のための会員組織として2000年に設立された日本を代表する人材マネジメントの専門団体です(会員募集中です!)。JSHRMの活動は主にFacebookページにてご案内しています。ご興味のある方はぜひ「いいね」をお願いします。

大した用事もないのに日々満員電車に必死の形相で乗り込むAさん。管理職の役割を勘違いし、部下をパワハラするBさん。顧客に年賀状を送付したり、お中元やお歳暮を贈ることが営業の最重要業務と誤解しているCさん。あなたの廻りにも摩訶不思議な業務行動でおかしな達成感を感じているひとはいませんか。それは仕事をしたことになりません。それはズバリ!「仕事ごっこ」です。
聞き手・文:岡田 英之(Insights編集長)

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ゲスト:あまねキャリア工房 代表 沢渡 あまね 氏
1975年生まれ。あまねキャリア工房 代表(フリーランス)兼 株式会社なないろのはな取締役。作家、業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士。日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社を経て2014年秋より現業。経験職種は、ITと広報(情報システム部門/ネットワークソリューション事業部門/インターナルコミュニケーション)。現役時代、残業だらけのシステム運用チームを定時帰りの職場に変えた経験あり。
人事経験ゼロの働き方改革パートナー。現在は企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、マネジメント改革、業務プロセス改善の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。

日本の会社にはびこる「仕事ごっこ」とは

岡田 英之(編集部会):本日は、あまねキャリア工房代表の沢渡あまねさんにお越しいただきました。沢渡さんはたくさん本を出しておられますが、今回は『仕事ごっこ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?』、帯が「昭和の常識、もうおしまい!」。こちらのご著書を中心にお話をおうかがいしたいと思います。では、まず自己紹介からお願いいたします。


沢渡 あまね(あまねキャリア工房代表):私は作家兼業務プロセス・オフィスコミュニケーション改善士として、おもに企業の組織改革、ワークスタイル変革、マネジメントチェンジなどをお手伝いしている人間でございます。
もともと、私自身が日産自動車、NTTデータなどの大手企業におりまして、ITと広報の2本を柱としてきました。IT業界で使われているマネジメントのフレームワークや、ITエンジニアが発信するカルチャー、インターナルコミュニケーションを目的とした社内報などの広報業務を生業としていまして、組織の中からコミュニケーションの景色や文化を変えることで、いかに生産性を上げていくか、組織と個人が正しく成長できる環境を作っていくかということに、汗をかいている人間でございます。

岡田:この『仕事ごっこ』。タイトルがわかりやすく黒ヤギさんなどのイラストも入っており読みやすく、それだけでなくて、割と刺さりやすい内容だと思います。この本の出版背景や内容をご紹介いただけますか。

沢渡:はい。私は全国250をこえる企業、自治体、官公庁を歩いてきましたが、どうも働き方改革という言葉が現場をモヤモヤさせていると実感しています。たしかに時間削減されてきたと。でも時間削減一辺倒で本当に個人は成長するのか?本当に生活が豊かになるのか?というモヤモヤを現場は抱えているわけですね。

岡田:なるほど。

沢渡:そこで、もういいかげんにしようぜと。根本的に「仕事した感」とか、働き方改革のための余計な報告業務が増えるという「お遊戯会」のような状態があるなか、1回時間を止めて、私たちの成長の足を引っ張っている古い仕事の進め方や常識を正しく疑っていく世論を形成していこうと思い、この本を書きました。

岡田:「お遊戯」に「ごっこ」、今までの働き方というのは、どうもそんなところがあるのですね。

沢渡:あると思っています。そもそも働き方改革云々の前に、日本は世界に比べても、先進業種・職種で比べても、非常に体裁的な、形骸化した慣習やプロセスが多いわけですね。この「仕事した感」とか体裁的なものをなくしていかないと、組織も個人も共倒れする大きなリスクを迎えていると思います。

岡田:「仕事した感」ですね。

沢渡今の日本の組織が抱えている問題は一言でいうと「無力感」だと思います。今年、トヨタ自動車の社長が「終身雇用を守れるかどうかわからない」と発言されました。
そうなると健全な社員ほど「大企業に勤め続けることで成長できるのか?」「他社でも通用する人材になれるのか?」という思いを抱えます。そのようななか、「日々、社内でしか通用しない仕事をしていてもいいのだろうか」という不安、無力感が世の中を覆っています。成長につながらない仕事が多い会社では、正しく危機感を持つ若者ほどベンチャーへ転職、海外にいくという選択にならざるを得ない状況になっています。

コラボレーションからイノベーションが生まれる時代


沢渡:「仕事ごっこ」とは何かについて、私はこの本で大きく2つ定義しています。一つはその仕事が生まれた当初は合理性があったが、時代や環境、テクノロジー、価値観が変わったことで相対的に生産性やモチベーションの足を引っ張るやっかいものと化したもの。例えばハンコリレー、かつては紙とハンコでよかった。でも今は電子でやれば一瞬で終わります。

岡田:「仕事ごっこ」もかつては有意義だったわけですね。

沢渡:2つ目は、ここポイントなのですが、コラボレーションを邪魔するものは「仕事ごっこ」だと疑ってかかる必要があると思います。なぜなら、時代はコラボレーションを通じたイノベーションを求めているからです。

岡田:コラボレーション、いわゆる協業や協創ですね。コラボレーションからイノベーションというのは?

沢渡:また、トヨタさんの話を出しますと、昨年トヨタさんはソフトバンクとコラボレーションしますと宣言しました。これは、あのトヨタでも自動車業界で新しいマーケットを開拓していく、いわゆるMaaS(Mobility as a service:サービスとしての移動)にシフトしていくのに、自分達だけでは内製できない、新しい価値を生み出せないというメッセージだと思います。

岡田:MaaSについても簡単にご説明いただいてよろしいですか?

沢渡:MaaSとは車を移動する手段や所有する対象と捉えるのではなく、例えば、無人運転で過疎地に医療サービスや物販を提供するなど、移動そのものを新しいサービスとして提供していく考え方です。これはイノベーションです。今までにない発想です。

岡田:トヨタ自動車にとっても異業種ですね。

沢渡:社会は複雑化しています。世界の技術の革新は目覚ましく、日本は後れをとっています。自社単独、自組織だけで解決できる課題などなかなかないわけです。だから、社内でも違う部署同士がコラボレーションして新しい価値を生み出したり問題解決したりする必要があります。地方でもよく話すのですが、もう地方都市単独で物事を解決できるほど状況は易しくありません。心をオープンにして都市の企業とつながる、あるいは地域間の企業でつながって、新たな価値を生み出す必要があると話しています。

岡田:自治体同士もつながる?

沢渡:ありだと思います。企業だと今どきフリーランスと取引禁止と言った瞬間、もうフリーランスとのコラボレーションは起こらないわけです。例えば、契約手続きに1カ月かかるとなると、その間すぐビジネスチャットなどでつながり信頼関係を構築してITツールでディスカッションしていく企業に後れをとります。
これからの時代、“すぐつながる、早く価値を出すことが重要。コラボレーションができない”はビジネスリスクです。またコラボレーションができない仕事のやり方に塩漬けされた人材はキャリアのリスクを抱えます。人生100年時代と言われて雇用延長されても古い仕事のやり方しかできなければ年収は半減します。個人のエンプロイアビリティ(雇われうる力)が奪われしまうのです。社会的にとても褒められた行為ではないと思います。

紙の印刷・押印・封入・郵送のムダ、管理職ごっこ

岡田:本に出ている「仕事ごっこ」の具体的な例をいくつかご紹介いただけますか?

沢渡:まず、白ヤギさんと黒ヤギさんをモチーフに紹介した紙の印刷・押印・郵送のムダ、これです。例えばプリンターは、用紙がなくなる、紙詰まり、インク切れがよくあります。郵便局に封筒を持っていっても郵便料金は重さやサイズによって出たとこ勝負です。回収時間による遅れもあれば郵便事故のリスクもある。さらに、相手先が大企業だと社内便にのせられて迷子になる可能性もあります。ようやく届いたらこう言うわけです。「すみません、経理から注文つけられたので件名を変えてください…」で、ふりだしに戻ります。

岡田:紙詰まり起こりますね。インク切れとか、いろいろありますよね。

沢渡:紙の仕事はトラップが多すぎるのです。このような本来価値を出さない業務は即スリム化すべきです。そうすると、多分、事務作業をする人たちの仕事がなくなると言ってくる抵抗勢力が出ると思います。私は、正しくなくしてほしいと思っています。遅かれ早かれ紙の作業はドラスティックになくなります。ITを使いながら事務ができる人材に育成しないと、組織も個人も幸せになりません。

岡田:そのハンコを押して封入する仕事を生業とする人たちは、どのようなメンタリティなのでしょうか?

沢渡:基本的に、言われたことをしていればいいというメンタリティだと思います。それが当たり前だと思っていると、人は日常のルーティンワークに潜むムダになかなか気づかないのです。

岡田:朝礼に出るために、毎朝満員電車の同じ席に乗る若者のような世界観でしょうか?

沢渡:おっしゃるとおりです。それも「仕事した感」ですよね。「仕事ごっこ」がやっかいなのは、それがイコール「仕事した感」になってしまうところです。朝礼を仕切る部門長もそれを長としての責任感みたいなものでしています。本質を疑ってその業務が何かのアウトプット生んでいるのか、インプットをもたらしているのかという議論をしなければ、「仕事ごっこ」に時間を奪われてしまうのです。

岡田:ほかにも面白い事例がありましたら、ご紹介いただけますか?

沢渡「管理職ごっこ」というものもあります。細かに指示をすること、あるいは部下の言うことを否定すること、差し戻すことが管理職の仕事だと思っているパターンです。
特に、管理職が情報や権限を持ちすぎてしまうことによる、職場のモヤモヤ、エンゲージメント低下は見逃せないと思っています。日本の組織はピラミッド構造で情報の流れもウォーターフォール型で上から下に流れます。課長が重要情報を持っているので、「情報を聞きたければ私の気持ちがいいようなタイミングで、報連相してこい」という空気感が生まれやすくなります。あるいは「その場にいないお前が悪い」となります。これが働き方の柔軟性を失わせ、悪気なく上下関係の壁を作っていくわけです。結果、情報をとりにいくため、話かけるためのご機嫌うかがい、忖度が起きます。
あとは日本の会社あるあるで、代表電話。若手がとれ、派遣社員がとれとなるわけですが、どんな情報が外部から誰に入っているのか一番敏感なのは電話をとる人なんですね。上の人はわからなくなる。固定電話を中心とした、ボトムアップからの情報の流れの悪さもありますね。

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マネジメントとは何か?再要件定義が必要


沢渡:今は、マネジメントとは何をすることかを再要件定義していく時期にきていると思います。旧来の製造業のトップダウン型のマネジメントが機能するかというと、そこに今まさに不具合が起きている状況だと思うんです。コラボレーションで世の中が変わっていく時代、必ずしもトップが答えを持っているとは限りません。外部の人や若手が持っているかもしれない。完全な答えがトップダウンで決められない時代にトップダウン型のマネジメントは、それ自体がいわゆる瑕疵(かし)だと思います。

岡田:どのようにマネジメントを再要件定義すればよいでしょうか?

沢渡管理するものと管理しないものを要件定義しなければいけません。横のコミュニケーションを増やす、新しい投資をする、育成する、チャレンジする、こういったこともマネジメントの要件だと思います。やめることと任せることを決めることも大事で、そのためには権限設計、情報設計が必要です。極端な例ですが、管理職というものをなくした会社もあるんですね。

岡田:どのような業種の企業でしょうか?

沢渡:ソニックガーデンさんというIT企業です。全員リモートワークにして管理というものをなくしています。管理というふうにすると管理職に業務が増えたり、情報を抱え込んでしまったりするため不具合が起きるからだと理由も明確です。人事評価もやめてお給料は全員山分けだそうです。評価という仕事がなくなるからマウンティング問題もなくなる。情報はチャットツールをなどで全員フラットに共有しています。

岡田:組織のヒエラルキー構造が問題だとすれば組織自体をなくすような発想ですね。コミュニティというか情報が共有されていれば別にヒエラルキーがなくても、事業として継続的に利益が出せるわけですね。

沢渡:おっしゃるとおりです。そのためには3つのオープンが大切です。一つは前述したように情報のオープン。マウンティング、情報のデリバリーの遅れなどがなくなります。安全なクラウドサービスを使えば社外の人にも情報をオープンにできます。2つ目は仕事のやり方、進め方のオープンです。オープンにすることで「そんな仕事の進め方なら是非ご一緒しましょう」「もっとこうしたら」と新しいアイデアが第三者から出てきます。3つ目が心のオープン。ITの世界ではライトニングトークといって新しいテクノロジーを試してみたら「こううまくいった」「うまくいかなかった」「こんなことにチャレンジしている」などと、気軽に5分くらい話せる社外勉強会があり、そこで事例を発表する企業に人材が集まり、コラボレーションが生まれています。


岡田:「情報」「やり方」「心」の3つのオープンですね。

沢渡:はい。そしてここが大事なのですが、オープンな企業だから帰属意識が低いわけではなく、「この会社にいると情報を自由に出せてコラボレーションできる」「エンジニアとして成長できる」「チャレンジできるから会社が好き」と、逆にエンゲージメントが高まる構造になっているわけです。
エンゲージメントというと飲み会、運動会などレクリエーション型に走りがちですが、今の無力感が覆っているような時代は、むしろ正しく勉強できて成長できる環境を提供するほうがパワーだと思います。私は特に課長以下のリアリティが大事だと思います。日々の仕事の満足度や成長実感は課単位で決まりますよね。会社の動きは遅いけどこの課長のもとなら成長できるとなればエンゲージメントは高まっていくと思います。

トップダウン型からブランドマネジメント型へ

岡田:そうなってくると経営側も人材マネジメントのあり方をパラダイムチェンジしないといけないですよね。

沢渡:一言でいうと、ブランドマネジメント型にシフトする必要があります。そもそも経営から見たら働き方改革とはビネスモデル変革です。今、「健全な組織のバリューサイクル」という図で講演でもお話していますが、ブランディングといっても製品・サービスだけでなく、図の左下のところにあるように、全社的に各部署単位で、そもそも自分たちの本来価値が何かを話し合っていく必要があると思います。

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出典:あまねキャリア工房

例えば、営業部門なら今のテレアポに意味があるのか?コミュニティマーケティングに力を入れるべきではないかと話しあってみる。調達部門は紙とハンコの長い決裁をいい加減やめようと検討してみる。総務の価値も大きくてオフィススペースをコラボレーションしやすい自由な発想ができる環境にする。ABW(Activity Based Working)がまさにそういう発想ですね。経営者は組織のブランディングを考えてブランディングやコラボレーションが大事だと発信する。システムに問題があるなら情報システム部門に正しく予算をつけて活躍してもらう。やはり一回経営レベル、全社レベルで話をしていかないといけない。それぞれの部署が自分たちの本来価値は何かを考えて、仕事をアップデートして「脱仕事ごっこ」してほしいと思います。

岡田:なるほど、これまでの働き方改革は何がダメかというと、とかく厚生労働省や人事部みたいなところが主軸になるんだけれども、そうではなく、部署ごとに働き方改革の切り口があるわけですね。

沢渡:おっしゃるとおりです。本来いろいろな部署が正しく活躍していくためのよい大義名分にもかかわらず厚生労働省、企業なら人事部に丸投げしていたのが働き方改革の誤りの大きな原因です。一所管組織でできるのは改善です。改革なら横断的にコラボレーションして発展させていかなければいけないのです。

岡田:課単位のリアリティが大事というところは僕も同感で、読者の方からも経営で言っていることと現場は違うという話はよく出ます。現場でこのバリューサイクルを回すためのポイントは何かありますか?

沢渡:景色合わせだと思います。現場では「この紙作業なくしたい」「外の勉強会に出られない」「これは成長を阻害する」というリアリティがあるはずです。これをきちんと合意形成する。この本を回覧しても構わないので、まず自分の問題意識を発信してほしいです。意外に他部署で同じことを思っている人がいたり、思いある役員が声をかけてくれたりします。先日も、あるレガシー企業の方がこの本を読んで「手続きを紙から PDF にしてくれ」と社内で発言したらそこから風穴が開いたと話していました。小さな成功体験を作って社内外に改革のファン作っていくことが大事です。ここは現場から動いてほしいと思います。まず、発信しましょう。今はネットでつぶやくだけでもツイートが増えれば言語化されやすい。それもあなた以外の誰かの手によってです。これがまさに発信によるコラボレーションなんです。

岡田:一人で悶々と悩まず発信することが大事ですね。最後に沢渡さんの今後のご予定も教えてください。

沢渡:予備校の国語講師の吉田裕子先生と共著で『仕事は「徒然草」でうまくいく』という本を出します。10月にも総合法令出版さんから『デキるマネージャーは余計なことをしない』という本が出る予定です。

岡田:記事が出るころは発売されていますね。あとは沢渡さんに働き方改革や新しい人材マネジメントについての研修や講演を依頼する場合はこちらのHPからお送りすればよろしいですね。ありがとうございます。以上で本日の収録を終わります。

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