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人口減少時代の水道とフューチャーデザイン

浅見 真理
論説委員
国立保健医療科学院


令和4年4月、全国1718市町村(東京23区を除く)の半数以上にあたる885市町村が「過疎地域」になったことが総務省から発表されました。

前年から65の市町村が追加され、初めて全国の半数を超えたのです。令和2年の国勢調査の結果に基づくもので、人口の減少率など、指定要件の見直しはあったものの、昭和45年の「過疎法」施行以来初めてのことになります。

過疎地域市町村地図(令和4年4月1日時点) 出典:総務省資料(PDF)

人口減少は様々な社会基盤の前提に影響を及ぼします。特に水道関連では、従量制で水道料金を徴収するため、給水量減少が事業収入、ひいては事業の継続性に大きく影響します。また、水道の普及時期に構築されたシステムが、多くの地域で更新期を迎えるだけでなく、設計時と異なる状況になりつつあります。大都市では、施設の統合や計画的更新が進められていますが、特に人口減少に直面する都市や村落では、施設利用率や有効率が低下し、老朽化しているものの将来人口の見通しに合わせた再構築や更新の検討が進まない地域もあり、社会の転換期にあることを強く感じます。

約10年前に伺った関西地方のある県は、特に山間部の村落で顕著な人口減少に直面していました。当時県知事の主導で社会ファシリティマネジメント検討会が開催され、消防の広域化、道路施設補修工事の支援、公営住宅等の管理の共同化、地域における一次救急医療体制の確保、土木職員の確保、市町村と連携したエネルギー政策の推進などが検討されました。人口が減少し、医療施設等の再配置を検討する際に、水道などの社会基盤の維持管理体制についても検討されたのです。

山間部の村落などでは、自治体職員や地元住民皆さんの意識や能力が高く、皆でまちを支えているという機運が感じられます。しかし、過疎化の進行による人口・給水量の減少、施設老朽化、職員の減少、維持管理を助ける住民の高齢化等により維持管理がさらに困難となることが懸念され、広域的な共同管理や受け皿組織の設立を想定した管理の一元化の検討が開始されました。現在では一部の市と山間部を除き、県内の広域的な管理の一元化や統合に向けて、新たな歩みが進められています。

このように、全国で、施設老朽化や人口減少に直面する中、委託や他部署と兼務する地元職員や住民の協力によりやっと維持されている地域が多くありました。一方、介護福祉関係者との連携で数軒の集落や各戸向けの水処理装置の維持管理が行われている地域や独自に工夫された簡便な水処理装置により住民による維持が可能となった事例など、それぞれの地域で核となる方々の活躍に驚くこともしばしばありました。それは、これまでの「まちづくり」とは異なる新たな関係性の構築ともいうべき、最先端の試みでもあると思われました。当院の刊行する雑誌『保健医療科学』の特集「人口減少社会における持続可能な水供給システムとまちづくり」では、小規模水供給が行われている地域の取り組み例のほか、官民学や住民・民間団体が協力して安全な水を持続的に供給するための具体的方策について様々な事例を紹介しています。

今後まさに地方から、道路や水道・下水道、医療施設、商業施設、エネルギー供給など生活を支える社会基盤の維持管理、見直しが必要になります。水道・下水道関連では、小規模水供給と浄化槽のように部分的に分散型を取り入れるなど再構築する一方で、自動監視やリース制度なども活用し、水供給も将来の視点から新しい最適化を図るデザインが必要となると思います。

令和6年4月から水道事業の所管は国土交通省(水質基準については環境省)となる予定であり、今後水道と下水道の連携が一層重要となります。独立採算を旨としてきた水道事業と公共的な整備に主導された下水道事業が、共に集中と分散を組み合わせたまちづくり、水道・下水道施設の維持管理、点検、更新、耐震化に取り組まなければなりません。

出典:生活衛生等関係行政の機能強化のための関係法律の整備に関する法律案 概要

一人当たり管路長30mを超えると独立採算が難しい水道事業において、どのように広域的に料金を平準化するか、過疎化の状況を踏まえて給水区域を見直し、どう施設や管路を再配置するか、離島や離れた地区における給水をどのように確保するかといった新しい挑戦にむけて、まさにフューチャーデザイン(将来を見越した社会設計)が求められます。社会基盤の維持に関係する様々な分野の方との議論の進展を進める仕組みに向けて、検討を続けていきたいと思います。

土木学会 第191回論説・オピニオン(2023年4月)



国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/