究極の危機管理と流域治水
山田 正
論説委員会委員長
中央大学
わたしはこのコロナ渦と言われる1年半、テレビ、新聞等の従来型メディア(以降、メディアという)を通じた情報ではなく、インターネットを介して専門家が配信する各種のブログやYouTube等から新型コロナの情報を得るようにしてきました。なぜなら、日本の多くのメディアから発信される情報はデータサイエンスとしてあまりにも稚拙であると感じているからです。そして、人の生死に関わる情報でありながらメディアによる扇情的な情報操作に繋がっているのではないかという危惧すら感じています。例えば感染者の定義、さらに致死率・死亡率といった数字の定義を皆さん正確に理解できているでしょうか。これらの定義が曖昧なまま、多くのメディアは毎日これらの数字を報道しています。現状のメディアを通じた情報発信の様子は、10年程前の原発事故に伴う放射能に関する報道、それより前のダイオキシンに関わる報道の時と似通っており、こうした報道の洪水によって世論が形成され、これに追随するように政策が形成されていっているようにも思えます。新型コロナ対策のような国の方向性や国民の人命に関わるリスク管理に際しては、徹底的な科学的根拠に基づいた情報と統計学を駆使したデータサイエンスに基づいた分析が必要です。しかし、こうした判断を、メディアだけでなく国民自身もできていないように思えるのです。
ここに、今年8月21日にスウェーデンに住んでおられる二人の女性によって配信されたスウェーデンのコロナ事情に関するYouTubeからの情報の一部を紹介させてもらいます。
現在の日本においてこれと同じ危機管理ガイドラインが出せるだろうか。もし出された時には、国民はどのような反応するだろうか。恐らく、パニックが起こるのではないかと想像しています。危機管理とは管理や対応の優先順位を明確にすることですが、これを軽々に示してしまうと“〇〇差別”のような不合理な反論に合う可能性があり、非常にデリケートな問題です。しかし、危機管理だからこそこれをはっきりさせる必要があり、これを示すことが政治であり行政の役割であると考えています。
わたしは長年、洪水災害を中心とする研究に取り組んできました。その大きな政策として、本年「流域治水」という新たな概念が示され、これに基づく治水政策がスタートしたところです。
画像出典:カワナビ(国土交通省 水管理・国土保全局)
これは、流域の関係者、すなわちステークホルダー全員が知恵を出し合って治水対策に取り組むことができるようになったものであると同時に、流域内の氾濫程度、氾濫頻度に、区別・差別が付けられるようになった政策だとも言えます。一昔前の治水概念では、洪水災害ポテンシャルを日本の隅々まで等しく整備することが良いことだと暗黙裡に認識されており、それに則って政策立案されてきたのではないでしょうか。しかし、洪水災害ポテンシャルを均等に配分するということが現実的にありうるとは考え難いのです。であれば、洪水災害ポテンシャルに順位付けをすることに対して、ステークホルダー全員の合意形成を図った上で治水対策を推進することが、流域治水においては期待されているのだと考えています。これが流域治水の究極の目指すところでしょう。
さあ、我々は先に紹介したスウェーデンの危機管理ガイドラインのような、冷徹で且つ必要なリスク管理マニュアルを提案できるでしょうか。この如何に日本の未来がかかっていると思います。
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土木学会 第172回 論説・オピニオン(2021年9月版)
国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/