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大学教員が「橋の日」に感じたこと

穴見 健吾
論説委員
芝浦工業大学

8月4日は「橋の日」である。

鋼橋の耐久性(疲労)について研究している筆者の分野では例年「橋に関するシンポジウム」が行われているが、本年は所用により宮崎県にいた。車での移動中に一般の方々が参加する「橋の日イベント」に遭遇した。このイベントは普段使っている橋に感謝を込めて橋の清掃等も行うもので今年が37回目となる。このような橋に限らず社会基盤施設に対する理解・興味を深めてもらう行事は「橋の日」「土木の日」に限らず多く行われている。国土交通省の各地方整備局のHPには、多くの工事現場見学会を支援し、特に小学校から大学まで幅広い多くの若者層が参加していることが記されている。筆者自身も学生時代などに本四架橋、レインボーブリッジ建設の現場見学を通して、それら橋梁の雄大さに感銘を受け進路を橋梁分野としたことを思い出し、土木の仕事を発信していくことの意義を改めて感じた日であった。では、筆者が関わることの多い、橋梁の維持管理の仕事についての情報発信はどうか。

先述の地方整備局のHPの工事見学会は橋梁も対象となっているが概ね新設工事である。実際に、筆者は疲労損傷の発生した鋼橋の対策委員会や橋梁の維持管理計画に関わる委員会に参加させて頂き、損傷現場などを調査することがあるが、日常生活において橋梁の点検業務や維持修繕業務に遭遇することは非常に稀である。時に高速道路のリニューアル事業に伴う交通規制のCMや最近の首都高大師橋の架替え事業など大規模工事の報道等に接することはあるが、普段私達が日常生活で使っている橋梁の維持管理は人々に認知されにくい事業であると感じる。

現代では各種報道により、現在72万橋(橋長2m以上)ある道路橋の52%が2029年には建設後50年を経過するなど、老朽化が顕在化してきていること、維持管理が重要であること、維持管理を遂行し全国の膨大な数の橋梁を健全な状態に維持するために、専門知識を有する技術者の不足といった問題を抱える橋梁管理者が少なからずあるなど「人不足・技術不足・予算不足」の課題があることなどある程度一般の方に知られるようになってきたと考える。

画像出典:社会資本整備~日本のインフラの今~(国土交通省)

本学の新入生の講義で学生が橋梁の現状や維持管理の課題などを良く調査して発表するような機会を目にすると、橋梁(に限らずインフラ全体だが)の維持管理が社会問題として広く認知され、今後彼らの世代が解決していく課題として認識していることに頼もしさを感じる。

しかし、最前線で橋梁の日々の維持管理を確実に行う、またその裏で効率的で持続可能な維持管理体制を構築していくための日々の取組みについて伝えているのか、そう考えると筆者自身反省することが多い。これらの取組みについては多過ぎてここに列挙することができないが、平成25年に「インフラメンテナンス元年」とされて以来、最前線での維持管理業務は勿論のこと、橋梁長寿命化計画に代表される効率的な維持管理計画の策定と遂行、先述の課題の解決を支援する道路メンテナンス会議などの枠組み、更には学校や地元住民との協働の枠組みの構築、最前線で使われる点検要領の整備、点検支援技術の開発、点検員の講習や学習ツールの開発、補修技術の開発など、維持管理に関わるあらゆる面で多くの取組みがなされている。これらの多くは各HPや専門誌などで公開されているが、学生や一般の方々が容易に手の届く情報かは定かではない。劣化現象そのものや、劣化が顕在化してきている橋梁の現状などから維持管理の重要性や実行時の課題について理解を深めて頂くことは勿論のこと、このような社会基盤施設を維持していくことへの「現役世代」の様々な取組みを「次の世代」に伝えることも大学教員の責務であり、それにより維持管理に対する深い理解や興味に繋がり、将来新しい我々の仲間が増えることになるのではと再認識した。

社会基盤施設を支える「人には見えにくい」大事な仕事は、橋の維持管理以外にも多くある。「橋の日イベント」のように、既存の社会基盤施設を大切にしていくことの重要性を広く発信していくことも大事であり、先ずは自分のできることから始めていこうと感じた「橋の日」であった。

第196回論説・オピニオン(2023年9月)



国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/