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Society5.0時代における建設コンサルタント技術者の役割

秋葉 努
論説委員
株式会社 建設技術研究所
取締役常務執行役員

21世紀の未来都市と言えば、高層ビルが立ち並び自動車が自由に空を飛び、チューブの中を高速に輸送車両が動き、街にはロボットが闊歩している様子を手塚治虫が描いたマンガ「鉄腕アトム」に登場する都市を思い浮かべます。1960年代に小学生だった筆者も含め同世代の方々の共通のイメージではないかと思います。

21世紀に入って20年が経過している今、未来社会の姿として、第5期科学技術基本計画においてIoT(Internet of Things)等を活用して経済発展と社会的課題を解決する新たな社会(Society5.0)の実現が提唱されています。この社会では、IoT、ビックデータ、AI(人工知能)及びロボット技術等で、質の高い社会インフラを開発・維持し、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させようとするものです。Society5.0の先行的な実現の場として、都市や地域が抱える課題の解決を図る取組としたスマートシティ構築が各地で進行しています。都市の課題である医療、防災、エネルギー、金融、自動運転、セキュリティ等の分野間のデータ連携および都市間連携も視野に入れて検討が進んでいます。

われわれ建設コンサルタントは、建設プロセス内の企画・計画・設計業務でコンピュータを利用してきました。

筆者は、1980年代にメインフレームコンピュータ(大型汎用機)を用いた計算業務にはじまり、1990年代に入ると第2次AIブームで、施設を操作する専門家を支援することを目的としたエキスパートシステムやファジイシステムを研究・開発しました。2000年代には、ITS(高度道路交通システム)実現のために、交通情報支援サービスの機能設定や要件検討および道路通信標準案の検討に関わりました。地域ITSでは、ITS関係5省庁にて作成されたシステムアーキテクチャを活用した検討を行いました。

2010年~現在、OSS(オープンソースソフトウエア)の発達により、AI主にニューラルネットワークシステムの爆発的な発展、展開を背景に弊社では画像・映像による施設の損傷判断や洪水時の河川流量予測などに適用するシステム開発に取り組んでいます。

サイバー空間内で取り扱う構造物の3次元データ(BIM/CIM)、交通量等の社会的情報や降雨・河川流量等の観測結果等のビックデータ、自動運転や施設操作で活用するインフラに関連したデータは、建設コンサルタントが業務等で実際に扱っているものです。建設コンサルタント技術者は、スマートシティ実現に向けインフラ建設・維持管理、防災・減災、自動走行、物流サービスの場で、サイバー空間とフィジカル空間を結びつける役割が担えるものと考えます。

また、未来都市のマンガに「雷」マークで描かれている情報通信環境も飛躍的に発達しました。今では、光回線ネットワークや4G、5G移動通信システムの利用で大容量の映像までもが高速にストレスなく送受信が可能です。パソコンやスマートフォンが回線で繋がり、世界の人たちとあらゆる情報の交換が可能になっています。

未来都市では移動するヒト・モノ・カネを監視し、移動の基盤となるインフラのデータを管理するコントロールセンターは、AI技術の活用によって通信ネットワークで入手したビックデータの傾向分析、情報提示、異常検知等を瞬時にサイバー空間内の電子マップ上に結果表示することになるでしょう。すでに政府は、コントロールセンターの脅威の1つであるサイバーセキュリティ対策の検討を始めています。社会インフラが通信ネットワークで繋がっているコントロールセンターを正常に運用・管理するため、悪意ある脅威等のリスクに対して必要となる防衛策を提案するのは、建設プロセスの上流工程を担う建設コンサルタントの重要な役割と考えます。

COVID-19が猛威を振るう中、その後の市民生活を想像してみるとSociety5.0時代の未来都市実現が加速することが予想されます。建設コンサルタント技術者は、社会インフラに関わる調査・設計・維持管理のプロセスでより密接にIoT技術が関連してくるものであり、その対応が求められるでしょう。技術者自ら土木技術に加えて情報関連技術や各種ソフトウエア技術の知識・スキルをいま以上に身に着け、磨きあげてゆく必要があると思います。

土木学会 第165回 論説・オピニオン(2021年2月版)

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国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/