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超高齢化時代の社会資本の在り方

髙橋 知道
論説委員
NEXCO東日本取締役兼管理事業本部長

 日本ではWHOが「高齢者」と定義する65歳以上の人口比率が28%を超えた。2位のイタリアが23%、米国16%強なので群を抜いて高い。2040年には35%に達する見込みで、世界に先駆けて超高齢者時代を迎える。このような社会では高齢者が可能な限り健康的に社会・経済活動に参加し、「支えられる側」ではなく少なくとも「自立」していくことが求められる。また、私生活においても生き甲斐を持って豊かな時間をすごせることが重要であり、「移動の自由の確保」はその基本要素である。

 MaaS(Mobility as a Service)について様々な議論・アイデアが出されているが、日常生活の移動はもちろん、時には高速道路を使ってマイカー旅行もしたい。

 齢を重ねるとともに視力・読解速度低下、反射神経、運動神経などの判断速度に衰えが現れるのは止むを得ない。筆者はまだ「高齢者」に定義されていないが、高速道路を運転していて思わず助手席に「今の情報板何て書いてあった?」と尋ねる始末。首都高速のトンネル内で右側からのランプ合流が無事終わるとほっとする。

 筆者の関わる高速道路では、元々一般的な運動能力・反射能力等を前提し設計されており必ずしも高齢者にとって優しいものとはなっていないが、最近では高齢ドライバーも意識した運転支援対策を進めている。

 例えば高速道路標識。2010(平成22)年には基準を改定し文字サイズを大きくし順次取り換えを進めている。(和文は110%、英文は120%の文字寸法とし、判別しやすい書体に変更した)

 情報板はLEDカラー化・白文字化で視認性向上を図るとともに、複雑なネットワークでは図形情報板を駆使している。高輝度レーンマーク、トンネル照明のLED化等々も進めている。社会問題化した逆走防止策では、ランプと本線の合流部にラバーポールや矢印板設置、カラー舗装によって進行方向を明示するなど対策を強化した。更に現在、準ミリ波やマイクロ波センサー、画像処理による逆走検知なども実験中である。

 しかしながら、これらの対策に費用を要する点に目をつぶったとしても、道路側(インフラ側)で対応可能な対策には限界がある。注意喚起や情報提供をしても最終的な操作判断は個々のドライバーに委ねざるを得ない。
これらの課題の根本的な解決策は、やはりセンサー、AI、IT技術が人間の判断・操作にとって代わる自動運転であろう。現在関連企業等ではODD(運行設計領域:例えば高速道路内)でシステムが全てを操作するレベル4自動運転(レベル3と異なり緊急時でも操縦者の対処不要)を目指して開発が進められており、道路インフラ側からこれを支援する情報提供などの共同研究も進められている。しかし、これらの技術の完成と普及にはまだ時間がかかる。

 一方で、高齢ドライバー対応として免許制度の見直しも進められおり、先の国会で成立した改正道路交通法で、①一定の違反・事故歴のある75歳以上を対象として運転の危険性を調べる「運転技能検査(実車試験)」を実施し、基準に達しなければ免許更新を認めない、②安全運転サポート車に限り運転できる「限定免許」は任意制とすることなどが法制化された。

 自動運転等の技術が確立するまでの当面の間は、道路インフラ側と自動車側が連携して高齢化社会を前提とした対策を強化するとともに、ドライバーにも一定の制約を課していくしかない。

(映像:「父と母の卒業旅行」より(2019 JAA広告賞 消費者が選んだ広告コンクール デジタル部門グランプリ:NEXCO東日本))

 以上、高速道路を例に超高齢化時代のインフラの課題について述べたが、他の社会資本についてもいわゆる“広義のバリアフリー”の実現が求められる。

 世界に先駆けて超高齢化社会を迎える日本の土木技術者が解決すべき課題であろう。

土木学会 第160回 論説・オピニオン(2020年9月版)

#高齢化時代 #高速道路 #自動運転

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