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土木学会『論説・オピニオン』

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土木学会では、会員だけでなく広く一般社会に、土木に関わる多様な考え・判断を紹介し、議論を重ねる契機とすることを目的に、社会に対する土木技術者の責務として、社会基盤整備のあり方・重… もっと読む
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#土木

グローバルサプライチェーンの再構築を後押しする物流インフラの整備

丸山 隆英 論説委員 (一財)みなと総合研究財団 専務理事 今年に入っての新型コロナウイルス感染症の拡大は、私たちの生活を一変させてしまいました。その中で中国での生産停止に伴うマスク、消毒液などの品不足、調理食材の宅配需要の急拡大などが生じ、人々の目を否応なしにサプライチェーン、さらにはそれを支える物流へと向ける機会となりました。そこでここでは、いわゆるコロナ後の物流とインフラについて考察したいと思います。 東西冷戦後の世界経済は、人、モノ、情報の移動が自由に行われるグロ

COVID-19と土木・建築―デジタルで代替されない空間をつくるー

牧紀男 京都大学防災研究所教授 COVID-19の感染拡大にともない東京への出張がなくなった。予定表で確認してみたら最後に東京に行ったのは2020年3月21日であり、半年以上、東京に行っていない。以前は頻繁に東京に出張していたことを考えると、大きな変わり様である。しかし、COVID-19への対処方法は、防災対策として見ると新しいものではない。被害の大きさは外力、脆弱性、暴露量の関係で決まり、この3つの要素を操作することで被害を小さくするのが防災対策である。新型コロナの対策は

超高齢化時代の社会資本の在り方

髙橋 知道 論説委員 NEXCO東日本取締役兼管理事業本部長  日本ではWHOが「高齢者」と定義する65歳以上の人口比率が28%を超えた。2位のイタリアが23%、米国16%強なので群を抜いて高い。2040年には35%に達する見込みで、世界に先駆けて超高齢者時代を迎える。このような社会では高齢者が可能な限り健康的に社会・経済活動に参加し、「支えられる側」ではなく少なくとも「自立」していくことが求められる。また、私生活においても生き甲斐を持って豊かな時間をすごせることが重要であ

2040年-2050年のインフラ整備 ー「塗り絵の世界」から「白地のキャンバスに絵を描く世界」へのパラダイムシフトー

大津 宏康 論説委員 松江工業高等専門学校  インフラ整備は、マスタープラン策定後から供用に至るまでに長時間を要する。例えば、日本におけるインフラ整備の根幹をなす道路ネットワーク整備は、主に1988(昭和63)年に策定された第四次全国総合開発計画に基づき事業が進められてきた。それから30数年経過した現在では、いわゆるミッシングリンクと呼ばれる未整備区間が存在しているものの、かなり高い整備水準に到達している。また、海外の事例としてバンコク地下鉄建設事業を例に挙げると、マスター

流域治水に内包される「不利益配分問題」に土木の総合力を

藤田光一 論説委員 公益財団法人 河川財団 河川総合研究所 所長  近年、治水インフラの能力を超える豪雨が頻発し、気候変動影響がこの傾向を強めるとの懸念も増している。治水目標達成に向けインフラ整備を引き続き進めること、治水安全度(氾濫生起の可能性が抑えられる度合い)が気候変動影響により後退する局面に備え、それを加速・充実させていくことはもちろん、河川からの氾濫による被害が深刻にならないよう、「被害をマネジメントする」方策を合わせて拡充する必要性が高まっている。  おりしも

メンテナンスとロボット

小宮一仁 論説委員 千葉工業大学 学事顧問  老朽化した土木構造物が増加し、また点検・整備等に携わる人員の確保が難しくなる時代には、維持管理の生産性の向上に寄与する新技術を開発しなければなりません。筆者は、維持管理のための情報収集(点検・検査等)には小型ロボットの活用が有効であり、小型ロボットを使うためには、土木技術者がロボットの開発に積極的に関わることが重要であると考えています。  筆者は、シールドトンネル工事におけるシールド機の制御と地盤や近接構造物の挙動との関係を解

土木学会「論説・オピニオン」について

 土木学会では、社会に対する土木技術者の責務として、社会基盤整備のあり方・重要性、国際社会における我国の貢献、地球環境・地域環境保全に対する土木技術者の役割、あるいは公共事業をめぐる社会問題など土木を取り巻く広範な問題をタイムリーに取り上げ、それらに関する土木技術者はもとより多彩な方々の見解・見識を『論説・オピニオン』として、広く社会に発信しています。『論説・オピニオン』は、土木学会会員のみならず広く一般社会に、土木に関わる多様な考え・判断を紹介し、また、議論を重ねる契機とす