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土木学会『論説・オピニオン』

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土木学会では、会員だけでなく広く一般社会に、土木に関わる多様な考え・判断を紹介し、議論を重ねる契機とすることを目的に、社会に対する土木技術者の責務として、社会基盤整備のあり方・重… もっと読む
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記事一覧

働く女性特有の健康課題に向けた具体的支援

吉田 穂波 依頼論説 神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科 土木学会の女性会員は2023/3/31時点で正会員の6.2%と、男性会員が多数派ではあるが、学会を挙げて女性活躍の環境づくりに10年以上取り組んできたと聞く。女性の健康支援は、男女問わず先進的な勤務継続支援や離職予防の基盤となる。女性特有の健康課題を抱えながら働いていることへの理解、休暇を取得しやすい労働環境の整備などは、土木学会のダイバーシティ構築につながるのみならず若手の活躍を推進することにも

スマートインフラマネジメントで未来を切り拓こう!

久田 真 依頼論説 インフラメンテナンス総合委員会・副委員長 /コンクリート委員会・常任委員 東北大学大学院工学研究科・教授 2024年は、1月1日に発生した能登地震による悲惨な災害の発生で幕を開けました。今般の地震で被害に遭われた皆様におかれましては、心よりお見舞い申し上げます。 当日、筆者宅に配達された某紙の新年特集では「日本反転」という特集が組まれていました。この特集では、経済力を示す1人あたりの名目GDP(国内総生産)が、2000年の段階では世界2位だったものの、

ポルトランドセメントの200年とこれから

小林孝一 論説委員会幹事長 岐阜大学・教授 何の断りもなく「セメント」と言う場合には、ポルトランドセメント(Portland cement)のことを指すことも多いが、2024年はイングランドのLeedsのJoseph Aspdin(ジョセフ・アスプディン)によって出願されたポルトランドセメントの特許が成立して200周年の節目に当たる。彼のセメントは現在のポルトランドセメントとは大幅に異なるものではあるが、その原型と製法を開発したことは賞賛されて然るべきであろう。我々の快適で

科学映像と土木

久米川 正好 依頼論説 明海大学 名誉教授 NPO法人科学映画館を支える会 理事長 私が骨の研究を始めたのは、48歳の時だった。1980年代、細胞レベルのメカニズムが不明な時代に骨の科学映画を撮っていた小林米作氏が、私を訪ねて来られたことから研究生活が大きく動いた。「科学映画の父」といわれた小林氏が、熱意をもって顕微鏡下の撮影を行った映画『The BONE』は、骨の形成を鮮明に示した作品で、国内外の学会で大きな反響があり、続編はメディキナーレ国際医学科学映画祭秀作賞・優秀撮

フェーズフリーなインフラマネジメント

土橋 浩 論説委員 一般財団法人首都高速道路 技術センター 副理事長 近年、構造物の高齢化にともなう劣化・損傷の増大に加え、少子・高齢化にともなう生産年齢人口の減少による担い手不足の懸念など、インフラを取り巻く環境は厳しさを増してきている。一方で、近年頻発する激甚災害、首都直下地震や南海・東南海トラフ地震などに対する防災・安全対策も重要な課題である。こうした状況のなか、インフラの維持管理では平常時と災害時の境界がなくなり、平常時の管理から災害時の対応までをシームレスに行うこ

ノルウェー、透明な世界から日本の未来を考える

依頼論説 屋井鉄雄 一財)運輸総合研究所所長 東京工業大学特命教授 東京医科歯科大学特任教授 発端は土木学会のビッグピクチャー検討時にあった。 「ノルウェーでは長期インフラ計画が事業規模と共に決定され、1100㎞に及ぶフィヨルド縦貫道路等が建設中である」との話を聞いた。当時、筆者はノルウェーでは国や地域の計画体系が備わり、万事公論に付して決めるから可能なのだろうと推察した。それは必ずしも間違いではなかったが、透明感の高い大自然に留まらず、“隠すことのない高い透明性”、それ

河川維持管理の高度化に向けて

田村 秀夫 論説委員 日本工営ビジネスパートナーズ(株) 気候変動に伴う洪水被害の頻発を受け、流域に関係するあらゆる関係者による流域治水の取り組みが本格化した。安全度を向上させる河川の整備はその根幹となるものであるが、整備された河道や施設の適正な維持管理が行われてこそ、その効果が継続して発揮される。河川の維持管理は地味ではあるが地域の安全を支える最も基礎的でかつ重要な分野である。 河道や河川管理施設の計画や設計のあり方は、長年の経験から得られた知見に基づくものから、力学的

技術者・研究者の研鑽の場としての土木学会

下村 匠 論説委員 長岡技術科学大学 土木学会よりも規模は小さいが、同じくインフラに関連する分野の学会であるプレストレストコンクリート工学会の会長を現在仰せつかっている。そこでの経験から、最近、社会における学会組織の存在意義を自問している。学会の役割はもとより多角的であるが、ここでは技術者・研究者の研鑽の場として学会の役割について自身の経験をもとに考えてみたい。 今から30年ほど前、土木学会のコンクリート委員会傘下のいくつかの公募型研究委員会に参加したのが、現在に続く私と

学生は主体性がないのではなく、知らないだけだ-学生小委員会設立から1年を振り返って-

水谷昂太郎 依頼論説 学生小委員会委員長 東京都市大学大学院総合理工学研究科博士前期課程1年 企画委員会学生小委員会は、土木学会史上初の委員全員が学生から成る革新的な体制で2022年に発足した。現在12大学、総勢30名の委員が活動している。 この委員会には6つのワーキンググループ(以下:WG)があり、その中に総計15のプロジェクトを推進中である。つまり委員の2人に1人は自分のプロジェクトを持っていることになる。これまでの活動では、複数の地場ゼネコンへの現場見学会開催、香川

森林環境と再生可能エネルギー

楠見 晴重 論説委員 関西大学 近年、世界の様々な地域において気候変動に起因する自然災害が多発している。例えば高温・少雨による自然発火による森林火災、集中豪雨による大規模洪水災害、乾燥地の拡大などが挙げられる。 気候変動の原因の一つに温室効果ガスの排出による地球温暖化の進行が言われている。これら温室効果ガスは化石燃料から排出されるために、その削減が世界各国で取り組まれている。更に二酸化炭素を吸収する森林の伐採が地球規模で進んでいることも、温室効果ガスの上昇に拍車をかけてい

インフラ建設DXに想うこと

井上 昭生 論説委員 (株)大林組 国土交通省が「建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させることを目指す」取組みであるi-Construction(アイ・コンストラクション)を始めて、今年で8年目となる。 ここで、生産性という用語について改めて考えてみると「生産性」=「産出量」/「投入量」という形で表されるが、建設事業においてはこの生産性の明確な定義がない。そこで本稿においては、生産性を現代の建設現場に当てはめて、分子の「産出量」については、要求性能を満足する仕様

杉本昌隆八段の指導法

木村嘉富 論説委員 一般財団法人橋梁調査会 令和5年10月、将棋の王座戦で藤井聡太王将が永瀬王座を破り、史上初の将棋八冠独占を達成した。駒の置き方や動かし方、というより、動かして良い場所くらいしか知らない私にとって、メディアで取り上げられていた中で印象に残っているのが、師匠杉本昌隆八段の指導法である。 指導法の一つに、指し方に口を出さないというのがあった。細かな指し方について口を出すと、その指し方は理解できるが、それ以外の指し方について自分で考える機会を奪ってしまう。結果

進化する下水道

岡久 宏史 依頼論説 (公社)日本下水道協会 理事長 下水道とは何か? 汚いとか臭いとかのイメージが先行するインフラであるが、これほど重要なインフラは他にない。下水道の使命である衛生保持、浸水防除、水環境の保全という役割は、直截に言えば人を含む生物の生命と人の財産を守るインフラであり、人類が生存する上で不可欠なインフラである。そして、このインフラを整備し稼働させるには、きわめて広範囲な工学的・理学的知識(土木、建築、衛生、電機、機械、化学、微生物学等)を必要とするインフラ

カーボンニュートラルに向けて鉄道の果たす役割と施策

今井 政人 論説委員 北海道旅客鉄道(株) 我が国において2050年カーボンニュートラル宣言(2020年)や地球温暖化対策計画(2021年改定)等を契機に各部門でカーボンニュートラルに向けた取組みが加速しています。同計画では各部門で温室効果ガスの排出削減目標が掲げられ、運輸部門では2030年までに2013年度比35%削減という従来より高い目標が掲げられています。また、運輸部門におけるCO2排出量は、我が国全体の排出量の約2割を占め、その排出削減はカーボンニュートラル達成のた