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グローバルサプライチェーンの再構築を後押しする物流インフラの整備

丸山 隆英
論説委員
(一財)みなと総合研究財団 専務理事

今年に入っての新型コロナウイルス感染症の拡大は、私たちの生活を一変させてしまいました。その中で中国での生産停止に伴うマスク、消毒液などの品不足、調理食材の宅配需要の急拡大などが生じ、人々の目を否応なしにサプライチェーン、さらにはそれを支える物流へと向ける機会となりました。そこでここでは、いわゆるコロナ後の物流とインフラについて考察したいと思います。

東西冷戦後の世界経済は、人、モノ、情報の移動が自由に行われるグローバリゼーションを基調として発展し、最もその恩恵に与ってきたのが中国です。この間、日本を含む先進諸国は、発展する中国を生産の場、あるいは巨大な市場として活用し、その果実を自国の成長へと取り込んできました。今般の感染症拡大は、こうした図式を大きく変える引き金となる可能性がありますが、グローバリゼーションの減速自体は、実はその前から始まっていたとも言われています。今年1月のブレグジッドや米国トランプ政権が掲げる自国第一主義、さらには昨今の米中覇権争いなどは象徴的な出来事であり、コロナ禍ではそうした動きが表面化したに過ぎないといった論調もあります。このため各国・企業などでは、感染の終息を待って単に元の経済活動に戻すのではなく、新しいグローバルサプライチェーン、さらに言えば世界経済の新しい基軸が求められ、模索されています。

わが国に視点を移せば、製造業を中心に東南アジアへの展開を始めとする生産拠点の分散化・多角化の動きがみられ、これまでの中国一辺倒と言っても過言でないサプライチェーンを大幅に見直す取組が進められています。また、生産機能の国内回帰も始まりつつあり、本年度の補正予算に計上された国内投資促進のための補助金への企業からの応募は、予算額の10倍以上の1兆9千億円に上っているそうです。まさにわが国においても、グローバルサプライチェーンの見直し・再構築に向けた動きが始まっています。

こうした動きを的確に後押しするため、今後のわが国の物流インフラの整備においては、大きく3つのポイントを意識する必要があると考えられます。
第一に、新たなグローバルサプライチェーンの構築を後押しする物流インフラの配置です。今回の教訓に基づく生産拠点の分散化・多角化の取組は、単純な脱中国や国内回帰にとどまるものではなく、有事の調達混乱や様々なリスクなどを勘案し、国内外を問わずた多種多様なものとなることが予想されます。このため、これまで以上に広範かつきめ細かな物流ネットワークの形成が必要不可欠となり、わが国においてもそれに資する応えられる物流機能の配置が必要と考えられます。

第二に、競争力のある質の高い物流インフラの整備です。生産拠点や調達先の多角化は、高コスト構造を生み出しやすく、結果的に企業の国際競争力を損なうことが懸念されます。このため、わが国の物流インフラについては、これまで以上に徹底した効率化が求められるものと考えられ、迅速かつ低廉で効率的・安定的な荷役の実現はもちろんのこと、輸出入に係る様々なデータ連携のための基盤の構築や国際・国内物流のシームレス化、港湾・空港と道路・鉄道の結節の強化などの取組を一層強力に進めるなど、モノの流れのシステム全体を物流インフラと捉え、総体として高度化するための取組を進めることが必要と考えられます。また、これまでのジャストインタイムに代表される調達方式だけでなく、適時適切な在庫需要に対応する保管・配送機能の集約・整備も必要と思われます。

加えて第三には、付加価値を生む物流インフラの実現です。とかく物流はコストと扱われがちですが、そこで得られる様々な情報は、新たなビジネスにつながるビッグデータとも捉えられます。このため、この機会に物流インフラ全体のデジタル化を進展させ、これまでの貨物の積替え、詰替えに付随する保管や流通加工機能に加え、得られる膨大な情報のプラットフォームを構築するなど、いわば日本型物流DX、あるいは日本発のバリューチェーンの姿を早急に示すことが必要と考えられます。

新型コロナウイルス感染症による社会不安は、未だ解消が見通せない状況ではありますが、我々土木技術者にとっては、この機会をある意味でチャンスと捉え、グローバルな視点から社会システムの変革にチャレンジしていくことこそが必要なのではないでしょうか。

土木学会 第161回 論説・オピニオン(2020年10月版)

# COVID-19 #物流 #サプライチェーン #物流DX

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