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ミライの小石15. 勝手に整う?理研が見つけた物理法則を覆す素材が凄い!

こんにちは、段野です。仕事柄、革新的な技術やエネルギー、サステナビリティの話題にアンテナを立てているのですが、先日、気になるニュースを発見しました。

理化学研究所(理研)は、外部から加えられた力の左右方向を見分け、一方向にのみ変形することのできるゲル材料を開発し、この材料が物質やエネルギー、生物を一方向に移動させる能力を持つことを実証しました。本研究成果は、今回の材料が乱雑状態から秩序状態を作り出す、すなわち「エントロピー増大」に逆らう能力を持つことを示しており、物質の分離、エネルギーの回収、生物行動の制御など、幅広い分野で応用されると期待できます。

(引用1)

物理学の世界では「エントロピー増大」の法則があります。誤解を恐れずに言うと、世界は「どんどんと無秩序な状態に自然と拡散」してしまうのです。お風呂に入って熱いお湯を足しても、時間が経てば熱エネルギーは拡散し、全体として均一な温度に落ち着くのが身近な例ですね。皆さんの部屋が、放っておくとすぐに散らかってしまうのも、エントロピーの増大のせいかもしれません(笑)

このニュースを聞いて、真っ先にエネルギー分野での利用が思い浮かびました。私たちが暮らす世界では、温度が高いエネルギー(高温蒸気など)は、タービンなどを介して、容易に電気エネルギーに変換できます。一方、低温のエネルギーを経済的に電気エネルギーに変える手段は限られています。SFではしばしば無限にエネルギーを生み出す「永久機関」が登場しますが、現実的に実現し得ないということは、エントロピー増大の法則が背景にあります。

今でも小型の太陽光発電で充電する充電器などがありますが、こうした革新的な技術が応用されていくと、昼夜問わず、どこからでもエネルギーを得られる未来が実現するかもしれません。今は電子機器を持ち歩く際、家やオフィス、充電スポット等で事前に充電していくことが常識ですが、将来的には、電気が必要になったらその場で適当なエネルギーを回収して電気を得ることが常識になる― 「事前充電不要」が、当たり前の暮らしになるかもしれませんね。

さらに、この素材の秘めたポテンシャルは、エネルギー分野にとどまりません。物質を「一方向に移動させる」機能は、我々の未来の暮らしを一変させる可能性があります。 例えば、我々の生活レベルでは、この素材を床に貼るだけで、夜中に寝ているときに、勝手にゴミが部屋の隅に集まり、掃除が不要になるかも?道路に使えば、雨が降ったときに勝手に排水してくれるようになるかも?研究やビジネスシーンでも、何かを整理したり仕分けたりするシーンで人の手の介在が不要になるかもしれません(微細な化学物質の分離など)。

「エントロピーの増大に逆らう」ことは、無秩序な状態から秩序のある状態へと移行することを意味します。これまでも我々は、ロボットなどを使って省力化してきましたが、素材レベルでこのような技術が実装されていくことで、未来では人間がわざわざ「仕分ける」、「整える」ことは不要になるかもしれませんね。


(引用1)理化学研究所「エントロピー増大に逆らうゲル材料」
https://www.riken.jp/press/2023/20230414_1/index.html

(2023年5月31日閲覧)


この記事を書いた人 段野
「機能美」という言葉に惹かれます。先人の智慧が詰まった土木遺産を見るとワクワクします。
関心…機能とデザインの融合/土木遺産/ローカルなもの/新技術/エネルギー


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