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文章を分析して子どもの考えを読み取る

次世代の研究人材育成事業、愛媛大学ジュニアドクター育成塾では、テキストマイニングとよばれる文章を分析する技術を事業評価に役立てています。プラスアルファ・コンサルティング社のテキストマイニングカンファレンス2020で講演しましたので、その概要をお伝えしたいと思います。

テキストマイニング「見える化エンジン」

 テキストマイニングとは、文章から特徴を抽出する技術です。たとえば、たくさんのユーザーのコメントを分析することで、その製品のどこが評価されているのか、どういった改善が求められているのかを特徴量として抽出して、製品開発に役立てることも可能です。

プラスアルファ・コンサルティング社講演資料2020年2月12日2_ページ_07

 私が使っているテキストマイニングツールは、プラスアルファ・コンサルティング社の「見える化エンジン」で、このツールの特徴は「簡単に使える」ことにあります。ブラウザベースで、ボタンを押してくだけで、様々な分析が可能なので、大変重宝しています。このツールを用いて、子どもの文章を分析して、彼らの考えを予測しています。

育成したい能力について目標と実感を比較

 育成したい能力の事業目標と、育成対象者である子供の実感を比較しました。私は、次世代の研究人材育成として必要とされる能力を、以下の4つだと考えています。様々な体験を通じて、これら4つの力が育成するように事業を設計しています。

1 創造力 新たなものを創造するために、挑戦を続ける力
2 分析力 理解を深めるために、多角的に粘り強く考える力
3 表現力 自分の考えを明確化するために、思考を表現する力
4 協働力 大きな目標達成のために、他者と協働する力

  この育成目標の達成度を、子どもの実感から調査します。調査で注意したいのは、質問の仕方です。子どもは自我の確立が未成熟ですから、実態と理想の区別が曖昧です。「今日の講座で〇〇の能力が向上したと思いますか?」と聞けば、実態に関係なく「はい」と答える子どもが多数になります。そこで、テキストマイニングによって文章を分析することで、目標の達成度を評価することにしました。

プラスアルファ・コンサルティング社講演資料2020年2月12日2_ページ_16

 テキストマイニングは、対象人数が多いほど平均的な特徴量を抽出できます。今回の分析では、協働力は測定していません。文章は、あくまでも自分主体で記述されますので、協働についての記述は少なく、分析精度が保証されないからです。分析結果は以下のようになりました。

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 見える化エンジンの「変化をキャッチ」という機能を用いると、出現頻度の移り変わりを見ることができます。ここでは、創造力を「作る」、分析力を「見る」、表現力を「伝える」の単語で抽出しています。1年間に7回実施された講座で、3つの力の移り変わりが示されています。たとえば、絵で想いを伝えるグラフィックレコーディングでは「表現力(伝える)」が優位であり、自動歩行器を作成したロボットでは「創造力(作る)」が優位に来ています。これらの結果は、それぞれの講座を設定したときの目標とほぼ一致しており、子どもの実感から育成目標が達成されたことが示されました。

親子の感覚の相違を比較

 子どもを対象とした事業を行なっていて、一番気になっているのは親子間の感覚の相違です。私は6年以上、こうした事業をやってきましたが、成長の「見えない天井」にぶつかる子どもと、そうではない子どもがいるように感じています。開始当初は、すべての子どものやる気にはあまり差は見られませんが、半年程度でやる気に大きな差ができ始めるのです。同じようにやっていて、なぜ大きな差ができるのか。その原因として、親子間の感覚の相違があるのではないかと推測しています。
 そこで、親子に同じ設問をして、親子間の感覚の相違を比較しました。今回は、チェックボックス式の設問で、「今回の実施で一番能力を発揮したのは、(1)創造力、(2)分析力、(3)表現力、のどれですか」を聴き、1年間の結果をまとめてクロス分析しました。

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 表現力では、親子間で8割が一致する一方、創造力では6割強しか一致していません。つまり、親子間で最大4割弱の感覚の相違が認められています。保護者は子どもから聴いた話をもとに判断しているため、子どもの想いが保護者に上手く伝わっていない可能性が示されました。こうしたディスコミュニケーションの積み重なりにより、保護者の評価と、子ども自身の評価にギャップが生まれ、見えない天井が形成されて成長限界(やる気の減退)を作ってしまうのではないかと危惧しています。

ジェンダーステレオタイプの分析

 同様の手法を用いて、子ども自身のジェンダーステレオタイプに関しても調査しています。講演で用いた資料は以下で公開しておりますので、ぜひご覧ください。

まとめ

 プラスアルファ・コンサルティング社のテキストマイニングカンファレンス2020では、以下の内容を講演しました。

テキストマイニングを用いることで
1 対象者の考えを特徴量から抽出できる
2 調査の際に課題となる中立な設問に留意しなくてもよい

結果として
3 育成目標と対象者の実感は相似した
4 親子間の感覚の相違が「見えない天井」となる可能性がある
5 ジェンダーステレオタイプは小中学生段階で認められる
ことがわかりました。

以上です。詳しくは、上記の資料をご覧ください。



いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育