クレアチン摂取はバレーボール選手のジャンプパフォーマンスを向上させるか?
バレーボール選手にとってジャンプ力は非常に重要な競技能力の一つであることは疑いのない事実ではないかと思います。
このジャンプパフォーマンスを高めることができるような方法があるならぜひ実践してみたいところですよね。
ここで、ある高校のバレー関係者の方から以下のような質問をいただきました。
『クレアチン』の摂取について質問です。バレーボール部で生徒たちにクレアチンを摂取させたいなと思っているのですが何かデメリットはあるのでしょうか?よりパフォーマンスアップを目指して、摂取させてみようかと思っているのですが気をつける点や1日あたりの摂取目安等あれば、ぜひ教えていただけたらと思いました。自分の周囲にはなかなかクレアチン摂取しているものがおらず。。。何かアドバイス頂けたらと思います。
このご質問について回答していきたいと思います。
1.クレアチンとは
クレアチンはアミノ酸の一種で、体内で合成されてその大部分がクレアチンリン酸として筋肉に存在しています。クレアチンリン酸は、筋肉が収縮する際にエネルギーとなるATP(アデノシン三リン酸)の再生に使用されます。
最大の特徴は、瞬発的なトレーニング時にも素早くエネルギーを作り出すようサポートしてくれるので、最大限のパワーを何度も繰り返し発揮するようなシーンで特に役立ちます。例えば、
・ベンチプレス:挙上回数の増加
・短距離走:レース後半でのスピード維持→タイムの向上
・野球の投手:試合後半での投球パフォーマンス低下の抑制
などです。すなわち、クレアチンは瞬発的動作の持久力を向上させる効果が期待できます。
2.クレアチンの摂取効果に関する勘違い
よくクレアチンの摂取効果について勘違いされている方がいます。それは、最大筋力やパワーを高めると思っている人が多くいるようです。
例えば、
・ベンチプレス:1RM(最大挙上重量)の増加・・・✖
・短距離走:ストライドの延長・・・✖
・野球の投手:球速の増加・・・✖
こういった最大パワーに対しては、直接的な効果は期待できないと考えてください。
あくまで、クレアチンは身体の瞬発力を生み出すエネルギーの再合成力が高まることで、その反復持久力の低下が抑制されるのがクレアチンの直接的な効果です。
「直接的な効果」というのには理由があって、クレアチンの摂取で最大反復回数が上がりトレーニングパフォーマンスが上がれば、長期的には間接的に最大パワーが上がる可能性があります。
3.バレーボールにおいてクレアチン摂取に期待できること、できないこと
では、このクレアチン摂取に期待できること、できないことをバレーボール競技において考えてみたいと思います。
バレーボール競技は、スパイクやブロックで最大パワーのジャンプ動作を一試合通して何度も反復しています。この1回1回のジャンプ動作ではクレアチンが使われ、再合成されを繰り返していると思われます。
しかし、試合後半になるにつれて普通はジャンプの高さは段々と低下してくきますよね。これは、この瞬発的動作のエネルギーであるクレアチンからのエネルギー合成が追い付かなくなっているためと考えられます。
つまり、クレアチンの摂取は、このようなバレーボール選手の最大ジャンプの反復持久力を向上させることができる可能性が期待できそうですよね。
一方、ジャンプの最大の高さを高くするということは、クレアチンではできないであろうということがご想像いただけるかと思います。
4.バレーボールのジャンプの反復持久力に関する研究
では、実際のところどうなのか、ということですが、数は少ないですが実際にお話ししてきたような仮説を検証している研究をご紹介します。
この研究は、ブロックジャンプテストとして
3秒間隔でのブロックジャンプ×10回→2分休憩・・・×10セット
を実施した結果です。
プラセボ群ではセット数の増加につれてブロックジャンプの高さが漸減していくのが分かると思います。
しかし、クレアチン摂取群ではセット中盤の3-6セット目ではまだその低下は抑えられ、7-10セット目では試合序盤よりは低下したものの、プラセボ群よりは高く維持されている傾向が認められます。
この研究では被検者の数が少なすぎたため統計的な有意差は認められませんでしたが、このような傾向はおそらく被検者数を増やしていけば有意差が出てくる可能性の高いデータなのかなと私は見ています。
現時点では仮説的根拠レベルということです。
一方、単回のスパイクジャンプの最大の高さを高めることができるかどうかについては。。。
仮説通り両群に有意な差は認められませんでした。
5.研究の解釈で重要なポイント
この研究を解釈する上で重要なポイントがあります。
この研究では、有意差が無いとはいえ、確かに理論通り、クレアチン摂取によって瞬発的動作の反復力低下を抑制している傾向がみられます。
しかし、その効果は仮に有意差があったとしても、「試合中盤で約3%、試合後半で約2%程度ジャンプパフォーマンスの低下を抑制した」というレベルです。
この2~3%を「たかが2~3%程度しかパフォーマンス低下を抑制しなかった」と考えるか、「2~3%もパフォーマンス低下を抑制した」と考えるか。これは指導者の考え方次第かと思います。
ただし、クレアチンもタダではありません。チームで導入するとなると、高校生たちに金銭的な負担を強いることになります。この2~3%の効果がコストパフォーマンスに見合っていると考えるのであれば、摂取を検討してもよいかもしれません。
6.クレアチン摂取で期待された効果を出すためのポイント
①摂取量
クレアチンの摂取で上記のように期待された効果を出すためには、ローディングという、クレアチンを最初の1週間大量に飲むことによって筋肉にクレアチンを蓄積させる期間が必要となります。このローディング期と維持期を設けて摂取量を調整することがポイントになります。
また、長期間摂取し続けるともともと本来身体が備えているクレアチンの生合成能力が、外部からのクレアチン摂取によって怠けて衰えてしまう可能性が指摘されています。そのため、3週間程度の浄化期を設けることが勧められています。
ローディング期(約1週間):20g/日(5g×4回)
維持期(約1カ月):5g/日(1日1回)
浄化期(約3週間):摂取の中断
したがって、バレーボールチームで使用する場合は、日常的に使うというよりも大事な試合や大会の期間に向けて期分けした上で活用することが、費用対効果を高める上でポイントになるかと思います。
大体1カ月くらいで体内のクレアチン状態は最大化されるので、1試合を中心に考える場合は1カ月程度前から始めて試合の時に最大飽和状態になるように、ある一定期間試合が続くような場合は維持期を少し長めにとって期間終了後にいったん浄化期間に入るといったピリオダイゼーションを組むといいかと思います。
②摂取のタイミング
クレアチンの摂取は、ローディング期では1日4回摂取するので3時間ごとにタイミングを気にせず摂取すればいいと思います。
維持期では1回しか飲まないので、強いてその1回のタイミングを考えるのであれば、クレアチンはアミノ酸のひとつなので、プロテイン同様運動後の方が利用効率は高いと考えられるため、運動後の摂取をおススメします。
③食べ合わせ
クレアチンはアミノ酸なので、糖質を一緒に摂取してあげることでインスリンの作用によって筋での取り込みが増加すると言われています。運動後にはリカバリーのためにも糖質が必要なので、その際にクレアチンも一緒に摂取してあげるのがおすすめです。
7.クレアチン摂取で注意すべき点
①体重増加
クレアチンの摂取は水分を一緒に引き込むため、体重が増加することが知られています。上記の研究でも、個人差が非常に大きいものの1カ月で平均0.5kg±1.6kgの体重増加が認められています。
体脂肪での増加ではないので気にしすぎる必要はないですが、ジャンプの高さというのは重力の影響があるのである一定の重量ポイントを超えると体重とは負の相関を示すものです。
この体重増加による影響についてはバレーボールの競技特性上注意を払っておく必要があります。
②筋痙攣
クレアチンは水分を引き込むことで体内の水分バランスの状態によっては筋痙攣を起こす可能性が指摘されています。否定的な見解も多いですが、夏にかけて脱水になりやすい状態においてはクレアチンが水を引き込み保持することで脱水に拍車をかけるというのも理屈的に考えられなくはありません。
もし使用してみてチーム内でこのような事例が頻発するようであればクレアチン摂取との関係性を疑った方がよいかもしれません。予防対策として、通常よりも水分の摂取を一層心掛けた方がよいと言われています。
③長期間・高用量摂取の影響
先にも述べたように、クレアチンは元々体内で利用と再合成を繰り返しているものなので、長期間にわたって摂取し続けることや高用量を摂取し続けることは本来持っているこのクレアチンの生合成機能を低下させる恐れがあります。
こういった現象は、クレアチンに限らず体内で合成できるものを無理にサプリメント等で高用量に摂取することでよく起こる現象です。
あえて摂取しない期間を設けることで身体が本来持っている機能にあえて負荷をかけ、しっかりその機能を使って維持しつつ、「ここぞ」という時にサプリメントを活用することがその効果を最大化させる上でのポイントかなと私は思っています。
8.まとめ
・クレアチンの摂取は、バレーボールのジャンプパフォーマンスの反復持久力を2~3%程度向上させる効果が期待できる。
・ローディング期と維持期で体内のクレアチンの状態を最大化する。
・維持期を一定期間とった後には浄化期を設け、生体に元々備わっているクレアチンの生合成機能の低下を防ぐ。
・ローディング期、維持期、浄化期を年間スケジュールに合わせてよく期分けして利用することでそのコストパフォーマンスを最大化することが望ましい。
・体重増加による影響、夏季には筋痙攣の発生の可能性があることに留意し、適切な対策を行うとともに発生状況の把握を行うこと。
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