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卒業生たちへ。最後にこの本を薦めます。『1984年』

先日、卒業生を送り出しました。一年生の時には担任で学年主任、二年生の時には学年主任を務めました。今年はさほど関われなかったものの、やはり感慨深い。
 卒業生たちに贈った最後の「図書通信」(らしきもの)をアレンジして、ちょっと突っ込んだ内容にしてみました。

「卒業」の「卒」とは?
もともとは「印をつけた衣服」を指しました。
そこから、「同じ印をつけた服を着た人びと」つまり兵士を指すようになります。「兵卒」。
「卒」の読み(ソツというよりはシュツ)と通じる「疾」(シツ)の意味、「にわかに」の意味を持つようになる。「疾風」とか「卒倒」。
同じく読みの通じる「畢」(ヒツ)は「終わる」、あるいは「亡くなる」。これが「卒業」。

高校を卒業するというのは、「同じ服を着た人たち」との生活を「終え」て、独立するのかな?
と少々強引に関連づけてみます。

さて、卒業したら何が求められるか?
それは自分で判断すること。
 もちろん今までも、いっぱい自分で判断してきたと思います。これからはそんなことがもっともっと増えてくる。では、どうやったら正しい判断ができるのか?
 残念ながら、その術を私は知らない。自分の判断が正しかったのか、間違っていたのか、たぶん最後の最後まで、いや、最後になっても、わからない。そんなもんだと思います。
 みなさんに、いやいや、私たちにできるのは判断に必要な材料をしっかりと持っておくことです。

 科学の知識がないのに環境について考えることはできない。
 保健的知識や衛生的知識がないのに、感染症対策はできない。
 自由や権利についての歴史を知らないのに、民主主義は守れない。

 だから、学校で学んだ知識にプラスして、これからも本を読んで下さい。いろんな本を読んで下さい。ま、たまには悪書もよろしい。
さて、次にあげる書物は読みにくいと思います。でも、みなさんに材料を与えてくれます。読む、読まないはお任せします。無責任な言いようですが、もはやこれが、私にできる最大の餞です。

『1984年』ジョージ・オーウェル著。いろいろな出版社のものがあります。
 ディストピア小説の金字塔。
 ビッグ・ブラザーを指導者と仰ぐ党が支配する国、「オセアニア」の国家機関「真理省」に勤める主人公の仕事は記録の改ざん。党の決定に合わせ、過去にさかのぼって記録を書き換える。

 もし、国家機関が実際に記録を書き換えたり、記録を廃棄したり、あるはずの記録をないものとして扱うようなことがあれば、その国は「オセアニア」化していると言えます。
(何かの領収書、公文書改ざん、誰かが残したはずの資料)
 
 「オセアニア」では新言語である「ニュースピーク」が使われつつある。「ニュースピーク」は簡略化言語で、語彙や文法が極端に制限される。この言語を使用すると複雑な思考の記録は不可能になり、人々は反政府的思想を書き表せなくなる。

 もし、政治が言語に介入し、語彙の定義を恣意的に決めつけていくようなことがあれば、その国は「オセアニア」化していると言えます。
(各種単語の意味を閣議決定)

 人口の大半を占める労働者には教育は施されず、酒やギャンブル、ポルノ小説のたぐいの娯楽だけが与えられている。

 もし、教育行政がいわゆる普通科教育を制限し、学生たちの進路をグローバルとローカルに区分けして、高等学校どころか中学校、小学校段階から将来のエリートと非エリートを峻別しようとするようなことがあれば、その国は「オセアニア」化していると言えます。
(普通科高等学校の再編成、「学際総合学科」と「地域探求学科」を新設)

 どうか、どうか、本を読んで下さい。判断の材料を身につけて下さい。
 そうして、この国をディストピアにするような判断だけはしないで下さい。

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