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夢枕獏、大人の童話だと思う。

『陰陽師』シリーズ。夢枕獏著、文藝春秋社刊。

「ほろほろと酒を飲む」
ごくごくとか、すいすいとか、せいぜい、つるつるとかは飲めそうですが、ほろほろとはなあ。晴明と博雅が、「ほろほろ」と飲んでいる姿を、つい想像します。
著者の「夢枕獏」、もちろんペンネームです。獏は夢を食べるといいますからね。よい夢を食べた獏の体臭は香しく、悪夢を食べた獏の体臭はヤバイとか。エラく多作な方で、「陰陽師」以外にも、「キマイラ」、「サイコ・ダイバー」、「大帝の剣」、「餓狼伝」シリーズがあり、もちろん単発の小説も多数あり、エッセイもたっぷり書き、ということで、「夢枕獏はひとりじゃない」説を唱えたくなります。藤子不二雄さん」はおふたりで作品を作っていたから、あながち無い話でもないのでは?

多趣味です。登山や釣りが好きで、ヒマラヤに登ったり、アマゾンでピラニア釣ったり。プロレスファンとしても知られており、格闘技小説も書いています。『東天の獅子』はすごかったなあ。
やたら博識。SF大賞受賞作の『上弦の月を食べる獅子』のテーマは螺旋。オウムガイ、ア・バオ・ア・クゥー(ボルヘスの『幻獣辞典』を御覧ください。ガンダムにも登場します)という螺旋を骨格として、宮沢賢治や、仏教的思想に、ヒンドゥー教の世界観が散りばめられて、なにがなんだかわからない物語です。これがまた、おもしろい。
日本古典にも精通していらっしゃる。大学では国文学をご専攻だとか。それにしても、平安時代の歌合の飾り付けに鶴亀の水盤を置くなんて、よくぞご存じで。ふつう知らんよ。

エロスとバイオレンスとオカルトが持ち味で、ご本人もそのような自覚をお持ちらしいのですが、私には夢枕作品は「大人の童話」のように思えます。もともと、童話だって、いかがわしいモノや、不条理なモノ、残酷なモノがいっぱい詰まっています。オリジナル「シンデレラ」なんて、すごく怖い。
夢枕作品は、エロスの中に純粋さ、バイオレンスの向こう側にやさしさ、オカルトと同時に悲しさ、みたいなモノが垣間見えます。

あまりにもたくさんのシリーズを展開したため、死ぬまでにすべてを完結させることが困難な状況だと心配なさっているとか。夢枕さん、現在69才です。いやいや、まだまだお若い。是非完結を目指していただきたい。むしろ私がすべて読み切れるかどうかの方が心配だ。
なんであんなにたくさん書けるかなあ?
やっぱり私が思うように、夢枕獏は三人ぐらいいるのかなあ?

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