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詩集や詩作品の紹介、鑑賞。
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2019年5月の記事一覧

高階杞一 + 松下育男 『共詩・空から帽子が降ってくる』

高階杞一 + 松下育男 『共詩・空から帽子が降ってくる』

高階さんから「新しい詩集を送るよ」とメールがあって、楽しみに待っていたら、届いた詩集には高階さんの他に、松下さんの名前もあった。しかもそのふたつが「+」で繋がれていて、題名には「共詩」と謳われている。おまけに帯には「ライト兄弟」(!)とあるではないか。

共同で書く詩と言えば、昔は連歌や連句、最近では連詩がある。連詩でもふたりだけで行う場合は「対詩」と呼んだりする。僕も小池昌代さんや田口犬男さん(

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小池昌代の〈詩と小説〉: 『赤牛と質量』を読む その4

小池昌代の〈詩と小説〉: 『赤牛と質量』を読む その4

あともうひとつだけ、どうしても論じてみたい詩があるとすれば、「釣りをした一日」で、それは詩集の4番目に配されているのだった。困っちゃうな。これじゃきりがないよ。

実際、この詩集の最初の4作品には、異様な力が込められている。登板早々、いきなり連続三振を奪うベテラン投手の迫力である。選手生命を賭けて投げているのだ。『赤牛と質量』は、きっと小池さんの代表作になるだろう。(ここで前言撤回。どうしても論

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小池昌代の〈詩と小説〉:『赤牛と質量』を読む その3

小池昌代の〈詩と小説〉:『赤牛と質量』を読む その3

この詩集に収められている詩を、片っ端から網羅していこうというわけではないが、三番目の詩「香水瓶」もどうしても外せない。現代詩における〈自由〉を問いかける作品だからだ。それは僕が詩集『単調にぼたぼたと、がさつで粗暴に』で取り組んだ問題でもある。

20年前に詩の賞の副賞として貰った6本の香水瓶から詩は始まる。

それぞれの瓶にアルファベットが刻まれ
普通に並べれば poetry ぽぅえっとりぃー

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映画「US」と小林敏明「故郷喪失の時代」(文學界 2019年6月号)

映画「US」と小林敏明「故郷喪失の時代」(文學界 2019年6月号)

今ミュンヘンで公開中の映画「Us」(ドイツでの題名は「Wir」)は、ホラー映画の形を取りつつ、そして実際に観てみるとすごく怖いわけだけれど、現代米国社会への批評をこめた風刺劇でもある。

監督はJordan Peele。前作の「Get out!」もホラーにして社会風刺、怖くて悲鳴を上げつつも、鋭い批評性が感覚的な恐怖と絶妙のバランスをとって、観終わったあとには、なぜか爽やかで力強い印象が残るものだ

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小池昌代の〈詩と小説〉:『赤牛と質量』を読む その2

小池昌代の〈詩と小説〉:『赤牛と質量』を読む その2

詩集の二番目に置かれている「ジュリオ・ホセ・サネトモ」という作品には、見覚えがあった。以前雑誌で読んだ時の、冒頭の印象が強烈だったからだ。

妻とはセックスしない
妻だけでなく
もうだれとも
韓国で出会ったスペイン人
ジュリオ・ホセ・マルティネス・ピエオラは言った

韓国で開かれていた詩祭の席で飛び出した発言らしい。「一座は湧いた」「韓国ではまだ/みんな妻と性交をしている/日本ではーー」などと言っ

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