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【後編】~「社会の見える展望台」で多文化共生を考える~ 夜間中学見学会 JP-MIRAI youth学生レポーター企画 第9回:葛飾区立双葉中学校夜間学級

 「学生レポーターによるインタビュー」企画第9回では、東京都葛飾区にある双葉中学校夜間学級を見学し、森橋利和副校長にお話を伺いました。

 後編では、森橋副校長先生へのインタビューと外国につながる生徒さんへのアンケート結果を掲載します。

前編(双葉中学校夜間学級の基本情報・授業見学)はこちらから

○夜間中学とは
 夜間中学は、戦後の混乱期で昼に中学校に通えなかった子どもたちが夜に学ぶために作られた、公立中学校の夜間学級です。現在は、義務教育未修了のお年寄りや不登校経験のある生徒の学び直しの場となっています。一方で、文部科学省(2020)によると、外国籍の生徒が夜間中学生徒全体の8割を占めており、その数は増加傾向にあります。このような背景により、国は、各都道府県に1校以上の夜間中学の設置を促しています。


森橋副校長先生へのインタビュー

 
 授業開始前に、双葉中学校夜間学級の副校長先生である、森橋利和先生にお話を伺うことが出来ました。森橋先生は、双葉中学校夜間学級に赴任して7年目のプロフェッショナルです。

――まず、双葉中学校夜間学級のカリキュラムについて教えてください。

 「国語・算数・理科などの9科目を学ぶ通常学級(A~D)と日本語を学ぶ日本語学級(E~H)があります。日本語学級は、4つの習熟度別コースに分かれており、Eクラスは日本語を全く話さない生徒、Fクラスは少し日本語を話せる生徒、GとHの各クラスではほぼ日本語のみで授業を実施しており、通常学級では高校進学を見据えた指導も行います。

 日本語を全く話せない生徒は、はじめの1年間は日本語学級で日本語を学ぶことになっており、残りの1・2年間で中学校の勉強をします。日本語の習得が難しい場合、日本語学習の期間をもう1年延長することが出来るので、最大で4年間夜間中学に通えます。逆に、学力によっては『いきなり3年生』というような形を取ることも出来ます。同じクラスで2年生と3年生が学ぶこともあります。

 昼間の中学とは異なり、『ここまで出来たら卒業』という基準は特にありません。指導にあたって、先生方は20年以上独自教材を研究しており、毎日打ち合わせを行っています。」



――夜間中学のテストは通常の昼間の中学のテストとは異なるのですか?

 「昼間の中学同様に中間テスト・期末テストがありますが、学年別・能力別にテスト内容が異なります。一人ひとりの能力に合わせて問題を作ることも多いです。例えば、文字の読み書きが十分でない高齢の日本人生徒に対しては、『答えを写す問題』を出したりなど工夫し、個別指導に近いです。」

――生徒を受け入れるにあたって基準を設けていますか?

 「外国籍生徒は『母国で義務教育を修了していないこと』が要件の1つです。ですが、双葉中学校では、『修了していないことを証明する』ことを求めるなど、深く掘り下げることはしていません。未修了を証明することは難しいからです。さすがに現地の高校を卒業した、とかであればお断りしていますが……。入学希望者が多く、最近は毎日面接を行っています。」

――夜間中学の存在をどうやって必要とする人に知らせているのでしょうか?

 「駅に多言語のチラシを置いたり、葛飾区の広報誌や教育委員会のチラシで夜間学級を紹介しています。外国につながる生徒の多くは口コミで集まる傾向にあります。他にも、中学3年生を担当する先生方にもお知らせしています。」


東京都にある夜間中学を紹介するポスター


――外国につながる生徒以外にはどんな人が入学していますか。

 「義務教育を修了出来なかった方、または形式的に卒業した方、不登校や引きこもりを経験してきた学びなおしを希望する15歳以上の方の受け皿となっています。こういった方々は、長年悩みをずっと引きずってきているので、サポートにはかなり工夫が求められます。他には、昼間の中学校で不登校になってしまった生徒を夜間中学で受け入れていくことも今後検討していく余地があると個人的に考えています。『朝から学校に行けなくても、夕方からなら通える』ということもあるでしょうから。」


――卒業後はどのような進路に進むのでしょうか?

 「仕事を持っている人以外であれば、都立定時制高校に進学する人が多いです。来日してから3年以内であれば、『在京外国人生徒対象入試』という、外国人のための特別な入学試験を受けることが出来ます。高校進学にあたっては、先生が高校の説明会を探して、一緒に行くなど、手厚いサポートを実施しています。」


――夜間中学一般の課題を教えてください。

 「① 日本語を学ぶ意欲に差があり、十分な日本語力がないまま卒業してしまうケースがあります。例えば、親に学校へ『行きなさい』と言われてきた子どもは、同じ国出身の生徒とばかり話してしまい、日本語を十分に身につけられていません。それでも『日本で生きていけるように』という思いで、彼らには、日本語を学ぶ重要性を粘り強く伝えています。

② また、需要に対して供給数が足りていないと思います。高齢者、不登校経験者、外国人など、夜間中学が受け皿として求められる役割は広がってきています。東京都には各区市に1つ夜間中学があるのが理想ですが、現状では難しい状況です。」


――夜間中学が「無料の日本語学校化している」という報道を見ました。

 「たしかに、夜間中学が無料の日本語学校として『利用されている』という側面は否めません。給食費を払うだけで、週15時間無料で日本語を学べるというのは、金銭的にメリットが大きいですから。それでも、外国人の生徒には、『日本語を身に付けて、しっかり勉強して、日本社会で生きていってほしい』という思いで、指導を行っています。学びたいという人をなるべく受け入れて、ひとりでも日本の社会に馴染めるようにしたいです。」

――今後夜間中学はどのような体制を取っていくのが望ましいと思われますか?

 「夜間中学に求められる役割が拡大していくなか、①『外国の方向けの支援』と②『既卒や不登校経験者向けの学び直しの場』という2本の柱をシンクロさせていくことが望ましいです。また、様々な課題をお持ちの方への対応としては、スクールカウンセラーや区の保健所・NPO・病院等と連携していくことが必要だと思います。」



――最後に、多文化共生を学ぶ日本人の若者にメッセージがあればよろしくお願いいたします。

 「外国の方と接する時に、『ここは日本なんだから』という態度で接するよりも、『あなたはそうなんだね』という姿勢で向き合うことが大事だと思います。ゴミ捨てのルール等、『日本なんだから日本に合わせて』というスタイルではなく、相手を尊重して受け入れること、柔軟に考えることが重要です。」


外国につながる生徒さんへのインタビュー

 
 後日、外国につながる生徒さん25人にアンケートという形でインタビューをすることが出来ました。

――日本に来たきっかけは何ですか?

家族の都合で来日した生徒が多い

「お父さんとお母さんが日本に在住しているから」「お父さんが日本にいるため」
「家族と暮らすために日本に来ました」(回答多数)
「将来の夢のために来ました」
「結婚のため」
「子どものため」
「日本の教育環境が良いため」
「勉強するため」「高校・大学進学のため」
 
 
――日本語学校ではなく夜間中学を選んだのは何故ですか?

「昼間働きながら勉強したいから」(回答多数)
「将来の夢のため中学の卒業資格が欲しい」「高校に進学するため」
「日本に住んでいるのに、日本語と日本のルールが分からないと大変なので」
「母国の中学校を卒業していないものの、日本語が出来ないため、昼間の中学校に通うことが出来ないから」
「15歳を過ぎてしまったので」
「学費がかからない」「学費が安い」
「生徒の数が少なく、ゆっくり勉強できるから」

 
――夜間中学の魅力、双葉中学校の魅力を教えてください。



「ネパール人の仲間がいること」「母国の友達ができる」
「先生方が優しくて親切」(回答多数)
「色んな国の友達が出来て楽しい」
「立地」
「文化祭や運動会など、学校行事が楽しい」
 
 双葉中学校夜間学級の魅力としては、何よりも「先生方が親切で優しい」と回答されている生徒さんが多く、授業見学で感じた先生方の「熱心さ」をアンケート結果からも垣間見ることが出来ました。

 
――どこで双葉中学校の夜間学級を知りましたか?


友達:「友達の勧め」(回答多数)
「友達が双葉中学校に通っていた」
「ネパール人の友人から夜間中学校がある、日本語も勉強できると教えてもらった」「母の友達の紹介」
家族:「両親の勧め」「妹の紹介」「姉の紹介」「父の紹介」
卒業生:「卒業生の紹介」
先生:「ネパール語の先生の紹介」「中学校の先生の紹介」
行政:「区役所」
 
 やはり、人から紹介されて入学する生徒さんが多いようです。
卒業生や双葉中学校に通う生徒さんからの紹介、という点から、双葉中学校の評判の良さが伺えます。

 
――昼間の生徒さんなど、日本人との交流はありますか?

「仕事で日本人と話します」「仕事でよくお年寄りと話します」「アルバイト先の同僚と話をします」(回答多数)
「日本人の友達がいます」「高校の友達と日本語で交流」
「クラスメイトの日本人」
「日本の小学校に通っていた時の友達」「お母さんの知り合い」
「昼間の生徒とまだ交流する機会はないです」「今のところ交流はないです」(回答多数)
 
――学校のない時間は何をしていますか。

「仕事」(回答多数)
「アルバイト」
「家の掃除、買い物など」「家事をしたり、買い物をしたり、勉強をする」「日本語の勉強」「家の手伝い」「遊びに行く以外では勉強をしている」
 
 今回回答された生徒さんはお仕事・アルバイトと両立しながら勉強している印象を受けます。

 
――日本語を学習するうえで大変なところを教えてください。

「漢字を覚えること」(回答多数)
「文法が難しい」「動詞の活用」「助詞」
「シ、ツ、ノ、ソ、ンの区別」
「単語の暗記」「単語の量が多い。勉強しても会話ができない」
「日本語の会話が出来ないので、先生とコミュニケーションをとるのが難しい」
「ひらがなやカタカナの区別」
「仕事をしながら勉強すること」
 
 漢字の勉強に苦労している生徒さんが多いようです。通常学級の授業見学においても、会話は問題ないものの漢字を読むのに苦労されている様子を目にしました。
 

初級の日本語学級(Fクラス)。生徒さんの積極的な発言が印象的でした。  

学生レポーターの感想


 近年マジョリティを占める外国につながる生徒の他にも、様々な課題を抱えた方の受け皿になっていることを初めて知りました。加えて、区内の不登校の生徒の受け入れを教育界として考えていくことも今後検討されていくのではないかと察しました。夜間中学に求められる役割が想像以上に大きく、多様化しているのだと分かりました。他では受け入れが難しい生徒さんが夜間中学の門戸を叩いていることからも、夜間中学が「義務教育最後の砦」たる所以を実感できた時間でした。

 そして、何より印象的だったのは、夜間中学で教える先生方の「熱意」です。1人ひとりに合わせたテスト作成・高校進学にあたって進路説明会への同伴・独自教材の研究など、「ここまでやるか」と思わされる手厚さでした。実際に、生徒さんと先生の距離が近く、先生が一人ひとりに気を配って授業を進めている様子を目にし、生徒さんにとって、双葉中学校夜間学級が大切な居場所であることを感じ取ることが出来ました。

 また、森橋先生の日本人学生へのメッセージにハッとさせられました。正直なところ、ニュースで外国人のゴミ捨てルールのトラブルが報じられた時、私も、どこか「日本に来ているんだから日本のルールを守ってよ」と思ってしまったことがあったからです。日本人側が一方的に「日本に合わせて」という姿勢では、きっと、外国の方にとっても、日本人にとっても、窮屈で不寛容な社会なのだろうなと思いました。「ここは日本なんだから」と思う前に、外国の方の文化背景を知り、歩み寄りの姿勢を持つよう意識したいと思います。(濵田)


 夜間中学の訪問を通して沢山の学びがありました。夜間中学が様々な国籍やバックグラウンドを持つ方々の受け皿となっていることに感嘆した一方で、それが先生方の熱意や努力に頼られている現状は課題だと感じました。

 「日本語学校の代わり」として利用されることもあるほど、日本語教育の需要が高い夜間中学にも関わらず、配属される先生方は日本語教師の資格を持っているわけではないそうです。先生方はオリジナルの日本語教材を作成し、試行錯誤しながら自身の日本語教育スタイルを確立していく必要があります。また、日本語は一朝一夕に身に着けられるものではないため、生徒が日本語学級から通常学級に進級しても、日本語教育は続けなければなりません。カリキュラムの時間が限られる中、活用されているのは0時間目であり、教師のボランティアによる補修が恒常化しています。公立学校の教師の労働環境はしばしば問題視されていますが、夜間中学の教師は昼間の公立学校教師同様の労務を抱え込んでいると言えます。

 夜間中学の取り組みが多くの人に知られることで、日本語教師資格の取得支援や、夜間中学の教員増員等、様々な人々の受け皿となっている夜間中学を支える先生方にとって、働きやすい環境の整備が進むことを願います。(今井)


森橋先生、双葉中学校夜間学級の皆さん、ありがとうございました。


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JP-MIRAI youthとは
JP-MIRAI youthは、責任ある外国人労働者受け入れプラットフォーム( https://jp-mirai.org/jp/)のユース組織です。2021年8月から始動し、外国人労働者に関する活動・研究をしている、または関心を持つ方のための学びや交流の場を提供しています。

「学生レポーターによるインタビュー企画」とは
学生が外国人労働者受け入れ支援に取り組んでいる企業・監理団体・送出機関に取材をし、さらに外国人労働者の方々にインタビューをすることで、多文化共生や在留外国人に関する知識と理解を深めることを目指す企画です。学生が外国人労働者支援の現場を実際に訪問し、そこで得た学びや気づきを同世代に発信していきます。

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