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【シンポジウム採録・前半】「 ハラスメント実態、労働環境適正化、日本映画のこれからを考える3」

2023年3月14日、シンポジウム「 ハラスメント実態、労働環境適正化、日本映画のこれからを考える3」を実施しました。
・小西美穂氏(司会 / 関西学院大学特別客員教授)
・齋藤梓氏( 臨床心理士 / 上智大学総合人間科学部准教授)
・仲修平氏( 社会統計学 / 明治学院大学社会学部 准教授)
・新村響子氏(弁護士 / 日本労働弁護団常任幹事)
・坪井ひろ子氏(ユネスコ文化的表現の多様性の保護及び促進に関する条約エキスパートファシリティメンバー)
・歌川達人(JFP)
※アーカイブ視聴は下記より

弁護士・心理士・社会学の視点から

小西:今夜の議題は、「日本映画界のハラスメント実態、労働環境適正化」です。近年、映画界での性加害やハラスメント、労働問題の告発が相次いでいます。現在、日本映画界がどういった状況で、どのような改善策が望ましいのか。JFPが実施した映画業界の労働実態調査をもとに、分析を担当した有識者の方々と議論していきます。

本日の登壇者の皆さんです。

齋藤:目白大学心理学部(イベント当時)の齋藤と申します。臨床心理学が専門で、臨床心理士・公認心理師として、普段は犯罪の被害に遭われた方の支援などを行っています。性暴力についてずっと研究をしてまいりまして、「性暴力被害の実際」や、「性暴力被害の心理支援」といった書籍も出版しています。

:明治学院大学の仲修平と申します。私の研究領域は社会学の社会階層論になります。これまで日本の自営業・フリーランスを対象にして、社会調査のデータを用いて分析してきました(著書『岐路に立つ自営業―専門職の拡大と行方』)。
例えば、どういった人たちが自営業に参入するのか、出ていくのか、という職業の移動に関する分析や収入や資産などの経済的な側面に関する分析を行っています。一方、教育面では人々の働き方や暮らし方、仕事に関わる社会学の講義や社会調査のデータに関する講義を担当しております。

新村:弁護士の新村響子と申します。東京の旬報法律事務所で弁護士をしておりまして、普段は労働者側でもっぱら労働事件を専門的に扱って裁判などを担当しています。今回の分析は私が所属している日本労働弁護団の弁護士6名が有志として分析を分担して担当しました。

日本労働弁護団は、全国にいる労働事件を労働者側で専門的に扱う弁護士が多数所属している団体です。報告書の最後の相談窓口のページに、無料で取り扱っている労働相談、女性専門の労働相談のホットラインの番号も載せておりますのでご活用ください。

歌川:JFPは2021年にスタートし、主に映画領域のジェンダー格差と労働環境の課題解決に向けた調査を実施しています。
本アンケート調査は、2022年3〜6月末にかけて実施し、685名の方に回答いただきました。本調査では「過去に一度でも映画制作現場で働いたことのある方」を対象にしています。というのも、ハラスメントであったり、いろんな問題で業界を去った人の方がより課題や問題を持っている・見えていると考えたからです。

調査目的は、実態を可視化することです。現場で働いている人たちがなかなか意見を言う場がなく、実名で発言すると自らに不利益が被ってしまう場合があると考え、匿名のアンケート調査を実施しました。現場の人たちの声をすくい上げるのが狙いです。

調査の最後に相談窓口も記載して、問題を抱えている個人の方も対処・活用できますので、是非お時間ある時にご覧ください。

シンポジウム目次 

なぜ多い?40代男性と若い女性

小西:まずどういった方々がこのアンケートに回答したのでしょうか。

:この調査は一般的な調査ではなく、対象者を「映画の制作現場を一度でも経験したことがあるという人」に限定した、特別な調査になっています。この調査は、一般的な調査では届かない人たちにアクセスしているという強みがある一方で、回答者がどういう人たちかという偏りがあると思いますので、まずその点からお話しします。

本調査回答者の分布

この図の縦軸と横軸は、各カテゴリーの対象者の比率を表しています。左側の図が「性別」と「年齢」という軸で軸でクロス集計したものになり、このタイルの色が濃くなるほど期待されたものよりも多いか少ないかという「ずれ」を表わしています。
「期待度数」と下に書いてあるんですけれども、これは2つの変数の関係がない場合に得られる分布を意味します。日常の言葉で言えば、「想定していたよりもその対象となるカテゴリーが多かった、あるいは少なかった」、というように解釈します。その基準で見ると、例えば女性の20〜30代が青く薄く紫になってるかと思いますが、こちらのカテゴリーが比較的多かったという形になります。
多い少ないというのは、横の方向と縦の列の方の合計が分かっている時に、両者が関係なかった時に出てくる数字があり、実際に観察されたものがありますので、その「ずれ」を取っているという風に見てください。それで見ると女性の20代30代が多い。一方で女性の40歳以上が少ないことがわかります、男性に関しては40歳以上のタイルが濃くなっていますので、その対象のサンプルサイズが大きかったということがわかります。
一方、この右側の図は就業年数と分布で見ています。女性で10年未満のところが青くなっている(期待値より数が多い)、男性に関しては10年以上が多い。この図によって回答者が特定のカテゴリーで多かった少なかったということを判断できます。

小西:通常のアンケート調査ですと、母数の偏りのないように男女も半々だったり、年代もばらばらの層を調査することもありますけれども、このタイルの面積が大きいところがボリュームゾーンになっている、男性の40代以上の紫のところが大きいので、占める割合が大きいという意味合いでよろしいでしょうか?

:はい。一般的な調査としては、国勢調査の人口比率に合わせたり、できるだけ偏りがないようにとっていくんですけれども、今回はむしろそういった調査では捕捉できないような対象者になりますので、偏りがあって当然ですが、どの辺に偏っていたかということを押さえて分析する必要があると思っております。

小西:これまでのJFPの調査でもこうした傾向は見られたんでしょうか。

歌川:そうですね、こういったアンケート調査をするのは初めてですが、現場で働く女性にフォーカスした匿名インタビュー調査でも、「30歳前後で労働環境に適応できない」「キャリアのことを考えて転職した」など、30歳前後というのが何かの節目なのかと思います。実際の調査結果から、数字としても同じような結果が出た様に思います。映画業界で働いている人全員を把握することは無理だと思うんですが、685名の方がwebで答えてくださり、こういうデータが出たということをどのように受け止めたらいいのでしょうか。

:そうですね。基本的には得られた調査の中の特徴を記述する形であれば、信頼していいと思います。ただ、そこから映画全体で働いている人を推測することは難しいデータだと思っています。先ほど歌川さんがおっしゃっていた「10年の刻み」も、私は分析の当初どういう区切りがより妥当なのかがわからなかったので、例えば就業年数3年、5年と、いろんなパターンを組み合わせたところ、人々の認識や、賃金の評価が就業年数10年のところできれいに分かれていたので、後から構成してこのカテゴリーにしました。
もう一つの特徴は女性で就業年数10年以上の回答が少ないということです。そのカテゴリーに該当する人々が回答できたのにしなかったのか、そもそもこのアンケート調査が届かなかったのか、とか回答が取れていないっていうこと自体がメッセージを持っているのかなというふうに受けとめています。

小西:映画業界は、そもそもフリーランスの方が多いですよね。だから映画だけで生計を立てている方が、そんなに多くはないとは思うんですが、対象を絞っていくのが難しくなってるんでしょうか。

歌川:そうですね。調査をする時に母集団、どのような方々を対象にアンケートをするのかは、すごく難しくて。というのも、映画だけで生計を立ててる人は意外と一部で、「映画とテレビの仕事してます」とか、「映画と広告の仕事してます」とか、他の仕事をしながら映画に関わっている方々が多い。どのようにアンケートを取るかが難しく、今までなかなか捕捉できてこなかった部分があると思います。
また、コロナ禍でいろんな補助金が文化制作者にもあてられましたが、その時に「どこまでを映画の関係者か」「映画人か」と定義するかが難しかった。その為、どこまでを支援対象とすべきか、行政側も分からないし、業界側もそれをちゃんと伝えてこなかったことが露呈したように思います。
ですから、なかなか難しいとは思いますが、業界で働いてる当事者も自分たちの実態を可視化して伝えていかないと、持続可能な形で文化を支援したり、継続していくのは難しいのではないかと個人的には思います。


性被害、女性たちの具体的な証言

小西:次は性被害の実態です。性被害やハラスメントについて、自由記述に本当に切実な声が多数寄せられています。

齋藤:自由記述欄に書いてくださったことを、どう分析したらいいか、すごく迷ったんですが、どういったことが多く書かれてるのかを抽出してみたいなと思いまた。様々なジェンダー、セクシャリティの方が回答をくださったのですが、まとめて分析するということと、男性と女性のジェンダーの問題も非常に大きいんじゃないかということで、男性と女性、30代以下と40代以上に分けて分析しました。

共起ネットワーク図を作ったんですけれども、どのような単語や言葉が多く使われていて、それらの言葉が他のどのような言葉と一緒に使われているかを図にしたものになります。分析では、共起ネットワーク図を参照しながら、それぞれの言葉が使われている記述内容を確認し、分析を行っていきました。

10代から30代の女性の共起ネットワーク図

齋藤:図は円が大きいほど多くの人がその言葉に言及しているというもので、上位に限って抽出し、抜き出しました。
例えば、「セクハラやパワハラという言葉は、監督という言葉と一緒に出てくることが多い」など、色と繋がっている線で、よく一緒に語られているということがあります。「プロデューサーという言葉は制作や助監督という言葉と多く一緒に見られた」ということになります。

10代から30代の女性の共起ネットワーク図ですが、全体的に女性の書かれた自由記述の方が詳細かつ具体的であるという場合が多くありました。しかし分析では、個別の事例に着目したのではなく、どういうことがカテゴリーに多いのかということに着目したんですが、性別と年代による特徴というのは結構出ていたんじゃないかなと思います。

暴力全般に言えるんですが、よりマイノリティー性が高い方がそのコミュニティーの中で暴力にさらされやすい、立場が弱くなりやすいということがあります。恐らく全体で見ると男性より女性の方が人数が少なく、基本的に男性が多い文化の中で女性がマイノリティになっている。今回はそこまで描き出しきれなかったんですが、ジェンダーやセクシャリティーにおいて、よりマイノリティの位置にいる、性的マイノリティーの人たちは、より弱い立場にいて、より暴力にさらされるんだろうなということは凄く思いました。

小西:問題が見えにくくなっているのでしょうか。

齋藤:そうですね。女性の自由記述の方が詳細とお伝えしましたが、40代以上の男性のデータも特徴的でして、40代以上の男性にだけ、「噂には聞くけれど」とか、「昔はあったけれど、今はないんだよ」といった言葉がよく見られたんですね。それは女性や若い男性たちには見られず、40代以上の男性が「そんな被害なんてないんじゃないか」と、被害を疑うような記述が見られました。男性が多い業界だから問題が見えにくくなっているのか。それとも年齢や地位が上がってくると、暴力が見えにくくなってしまうのか。判断が難しい、と思いました。
では男性は暴力に晒されていないかというとそんなことはなく、若い男性達の記述は、暴力暴言に晒されているという記述がよく見られました。

小西男女両方の問題であると。分析結果を受け、ハラスメント防止に必要なことは何なんでしょう。

被害者が自分の人生を歩めるように

齋藤:WHOや研究でも言われていますが、やはり一番大事なのは性暴力を許さないという文化がきちんとあることです。その為のルールがあることも大事だと。その文化を作るには、「被害を受けた人の声に真摯に耳を澄ます」「被害者中心に考えること」ことが重要だと思います。Victim Firstとも言われますが、「被害者が守られる、一方で加害をした人に適切にきちんと対応がなされる」ということが大事だと思います。

小西前回シンポジウムでも、「相談窓口を作るべき」と議論をしましたよね。

歌川:はい。昨年5月のシンポジウムでも、労働経済学が専門の神林先生に伺ったところ、苦情処理の観点でいうと行政側では裁判に近い対処になるので、裁判に行く手前の部分で対処できる窓口も、業界の中に必要だという話だったと思います。
他方で、業界の人達とそういう話をすると、「自分達は司法ではないから裁けないよ」と言われます。でも、「ペナルティーを与えるべき」「対処が甘過ぎる」などの意見がアンケートに沢山ありました。加害を起こした人に対し、どう処理をしたら良いのでしょうか。

齋藤:私は映画業界に明るいわけではなく、今回分析に携わらせていただいて、分析の結果をいろんな方々とお話しする中で、どういった業界かを知っていったところがあります。私も心理職なので、裁くという言葉には馴染んでないんですが、少なくとも被害者が守られる必要があるというのはいつも思っています。さらに次の被害者を出さないということも、非常に重要です。被害者の安全が守られるためには何が必要かというと、少なくとも加害をした人がそのプロジェクトや他のプロジェクトで、被害を受けた人とは関わるようなことがないようにする。被害を受けた人達がきちんと自分の人生を歩めるように守られるということが大事ではないかなと思います。「優秀な人だから」といって、加害をした側の人が守られて、被害を受けた人が守られないっていうのは、やはりおかしいんじゃないかな、ということはすごく思います。

歌川:その話を聞いて何か安心しました。「加害者側も人生があるし、キャリアがあるんだから、加害者側のキャリアも考えるべきだ」という話がどうしても優先されることがあって・・・。加害をした人のキャリアも復帰の道筋も大事ですが、被害者のことを最優先に、どうやって業界や個人で対処していくことができるのか。そういう理解でいいですよね。

齋藤:そうですね。加害者のキャリアを優先に考える人達は、被害者のキャリアをどう考えてるのかなと思うんですけれども・・・、被害を受けた人のキャリアを守ることが優先じゃないかなと思います。もちろん加害をした人のキャリアを永遠に排除しようという話ではないですが、まず被害を受けた人がちゃんと守られて安全な場所で安心して働くことができることが重要だろうと思います。加害をした人たちは、いろんな構造の中で加害に及んでしまうわけですが、その後、再び人を傷つけることがないように、加害者自身も「なぜ自分のしたことが加害行動なのか」「自分はなぜ加害をしたのか」をカウンセリングなり、教育なりで省みることはとても大事ではないかと思います。
加害者の復帰を考えるなら、「きちんと自分のしたことが自覚されて、二度とそういうことをせずに生活をしていけるようになる」ことが前提ではないかと思います。

小西:そういう意味で、一般企業でいう労働組合とか、どこかネットワークや団体に所属していれば、もう少し支えになってくれる、解決策につながるということもあるんでしょうか。

齋藤:大変難しい問題だなと思います。ただ、臨床心理士などは、ハラスメント行為などは倫理に直結する話なので、自分のクライエントに性的な暴力やハラスメントをしたら、資格が停止される場合があるなど、クライエントを守る仕組みもあります。やはり構造がある、所属しているなど、何かルールがあるというのはとても大事かなと思います。

周りの人たちがどう動くか

小西:他にもKJ法でも分析をされているということで、その結果についてもお伺いします。

KJ法による女性の自由記述の分析


齋藤:今見ていただいてるのは女性の語っていたことですが、「本当に被害が日常的に発生してるんだな」ということや、やはり「上下の力関係が存在する中で、暴力が発生している」ということもあります。私が何より女性の自由記述内容を分析していて思ったのは、「断ると自分の仕事やキャリアが妨げられる、妨害される。断らずに被害を受けたら、それはそれで具合は悪くなり、自分のキャリアは継続できず。では被害を受けた後、誰かに相談しても、やはり自分の居場所がなくなる。でも、誰かに相談しなかったら、やっぱりずっと具合が悪くなり……」っていうようなことがある。被害を受けている人は、加害が発生した時点で、そこから八方塞がりな状況になってしまうことがすごく難しいと思いました。

小西:「周りにたくさん人がいる場面での被害であっても、ほとんど助けてくれる人はいない」という回答もありました。傍観者ですよね。

齋藤:そうですね。傍観者は暴力に関することでも今テーマになってるんですが、やはり周りの人達が助けてくれないことで、より加害をする人はそれをしてもいいんだと思い、被害を受けた人は無力感とか絶望感に苛まれていくということがある。周りの人たちがどう動くかはとても大事なことだと思います。

小西:男性についてはどうでしょうか。

齋藤:暴力を受けていることを語っている、暴力がちゃんと見えている部分と、一方で、すごく暴力は見えにくくなっていて、「女性がそういうことを受けてるのは聞いたことがあるけど」とか、「でも最近はないんですよ」といった語りが見られた。他方で、「何で加害者が処分されないんだろう」と語る人もいれば、「自分も以前は暴力を振るっていた、その構造の中で暴力に頼るしかなかったし、暴力を振るうことが自然なことだと思っていて、今はそうではないんだと気がついた」という語りも見られました。何が暴力かもわからない、どこまでが暴力でどこまでが熱意なのか。本来は指導するときに暴力は必要ないはずなんですが、何が指導で何が暴力なのかがすごくわかりづらくなっている。それはやはり「力関係の上下」や「自分も暴力を受けたから」など、本当に構造の問題というのが大きいんだなということを分析していて思いました。

小西:体罰の問題でもありますよね。教え方がアップデートされていないから、暴力で支配するのが一番簡単だから、ずっとそれで教わったから……と問題が生じることがニュースでも明るみになってますね。資料では仲先生からも、相談窓口についての分析があったと思います。

専門的な知識を持った人に伝えたい

:私の分析では「どういった機関や組織でどういった窓口であれば相談へ行きたいか」に対して、回答された言葉を抽出しました。今、斉藤先生がご紹介してくださったのは、自由記述の文脈や背景も含めて分析されていたと思うんですが、私は「どんな言葉を使ったか」という単語に着目し、数が多かったものを抽出しました。

設問「どういった組織や機関で、どういった相談窓口があれば、実際に相談へ行きたいと思いますか?」回答のワード分析

字が大きいほど該当する単語が多かったと見てください。これを見ると、真ん中に大きく「機関」とありますが、これは多くの場合、「第三者」と一緒に記述されていたと記憶しています。つまり、「第三者の機関」が「必要」だ記述している人が多いことを意味しています。また「専門」という言葉もちらちら見えますが、特に専門の中でも「弁護士」であるとか「カウンセラー」、何らかの専門的な知識を持った人に何か伝えたいということがわかります。後は「匿名性」「オンライン」「SNS」など即時的に駆け込めるような窓口が必要だ、ということが類推される言葉がよく表れていたと思います。

小西:この分析からは、どういった専門機関が求められていると考えたらいいでしょうか。

:齋藤先生からもありましたが、ハラスメントに対応でき、そこからどこかの窓口や機関につなげるということもあり得ると思います。いずれにしても何らかの労働相談であるとか、何か次につながるようなことが必要で、できれば早く言いたいと考えている方が一定数いることがわかりました。個別の自由記述を見ると、それぞれのプロジェクトが終わる前に何かを発信したいという記述が複数見られました。何らかの問題があって、プロジェクトが終わった後に言うのではなくて、現在進行中の現場で起きていることを、もう直ぐに、家に帰る途中でもいいから、それぐらいの即時性で伝えたいという方がいたことを覚えています。

小西:これは推察ですが、ひょっとするとこのまま有耶無耶になってしまうんじゃないか、なかったことになってしまうのでは。後で「言った言わない」とか、「やったやってない」となりかねないという不安・危機感がひょっとしてあるのかな、と思いました。
斉藤先生、性被害について、どういったことが言えるのか、まとめていただけますでしょうか。

齋藤:全体として、女性は暴力にさらされていることが多く、女性が少ない中、女性を性的対象として見ることをよしとする文化がある。その文化の中では助けてくれる人が少なく、相談先もなく、心身の不調や不利益を被ることになってしまう。ですから、やはり仕組みやルール、文化全体を変えていくことが必要じゃないか、と言及する方が多かったと思います。
男性もそれは同じ。男性は「性暴力や暴力を今は見ていない」という記述も確かにありましたが、人事権や給料の未払い、地位関係性の影響も見られました。加害者への処分が甘いと、やはり諦めが業界全体に広がってしまうので、過重労働や指導と暴力の境目を整理する。そして加害をした人がきちんと対処される、被害者が守られるということが大事だと考えてらっしゃる方も非常に多く見られました。

活用できる相談窓口一覧

実態調査末尾の相談窓口一覧

歌川:JFPでは実態把握のため調査を実施しましたが、課題を把握した先に、被害を受けた人・問題抱えている人が対処できたり、問題を解決できるということがすごく大事だと思います。
現在活用できる窓口を、先生方にもご意見いただきながら、まとめました。ぜひ活用ください。

現場で働いてる人間の実感として、おそらく撮影中に起きたトラブルは「撮影終わるまでちょっと待ってね」と言われたり、後回しにされてしまうことがすごく多いだろうな、と思います。アンケートの回答でも、そういった回答がありました。
撮影中はどこも大変で対処しづらいのかもしれませんが、やはり被害者の心理としては、何カ月、1年以上もなあなあにされて苦しい思いをするケースがあると思うんです。ある程度、迅速に課題解決に取り組むことも重要なんだなとアンケートの回答を見ながら思いました。

:そうですね。恐らくそういうことがあります。相談窓口の一覧を見せていただいて、私は多くの機関を知りませんでしたが、現場で働いてる方々は知っているものなんでしょうか。自由記述の回答を見ると、「どこに行けばいいのか」を迷っている記述もあったと記憶しています。

歌川:少なくとも自分は20代で現場で働いている時は全く知らなかったので、年齢やキャリアで違ってくるとは思いますが、比較的若い人たちはこういう情報(相談窓口)を知らない方も多いと思います。

小西:プロジェクトが始まる時にこうした相談窓口へのアクセスができることや、告知があれば安心かな、と思ったりもしました。

歌川:「業界の中で窓口を設けましょう」というのは、すごく良いと思うんですが、それはそれで関係者に相談することになってしまいますよね。業界内に窓口を持ちつつ、外部で活用できる窓口も一緒に提示して、被害を受けた人が選択できるようにすることが大事なんじゃないかと、前回のシンポジウムでも指摘がありました。外部の窓口も活用していただきたいなと思います。

年配男性に様々な意思決定権があって・・・

:先ほど斉藤先生から、40代以上の男性では「ハラスメントは過去のものだ」というコメントがあるということでしたが、私の分析したデータの代表性のところで言うと、40歳以上の男性がもっとも回答が厚いところですので、もしかしたらそこの声がよりはっきりと出ていたのではと思います。

齋藤:映画界に限らないんですが、日本全体で、年配の男性にいろんな意思決定権があり、その人たちに見えている世界で大事なことが決まっていってしまうということはやっぱりあるのかなと考えています。こうした調査が行われ、いろんな人たちの声が表に上がってくることが大事なんじゃないかなとすごく思います。

小西:「見て見ぬふりをするのは、映画界のみにあらず、日本社会あるあるですよね」という感想が来ています。

:そうですね。もしかしたら今回の対象者は、「映画の制作現場経験者」ですけれども、そこから見えてくることは、映画の現場で働かれている方だけの問題じゃないのかもしれないという気がしていますので、今の感想のおっしゃるところはよく分かりますね。

後半に続く

※JFPが実施する本プロジェクトは、トヨタ財団 2021年度研究助成プログラム「日本映画業界におけるジェンダーギャップ・労働環境の実態調査」(代表:歌川達人)の助成を受け開催されました

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