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論文紹介~脂質管理~

今回は、脂質管理に関するレビューをご紹介します。

Lipid Management for the Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Disease.
E D Michos, J W McEvoy, R S Blumenthal. N Engl J Med. 2019;381:1557-1567.
DOI: 10.1056/NEJMra1806939

1961年に冠動脈疾患のリスク因子の一つとして血清コレステロールが発見されてから多数の疫学研究やランダム化臨床試験が行われ、主にLDLコレステロールの上昇が動脈硬化性心血管疾患に寄与していることが明らかになりました。その後、血清コレステロールの管理が心血管イベント予防の中心とされ、現在使用されている薬剤は主にLDLコレステロール、非HDLコレステロール、中性脂肪を反映しているアポリポ蛋白Bをターゲットにしています。

最新のコレステロール管理に関するガイドラインは2018年に米国心臓病学会-アメリカ心臓協会(American College of Cardiology–American Heart Association, ACC-AHA)から提唱されました。ACC-AHAは2019年に心血管疾患の一次予防に関するガイドラインを発行しましたが、その中でも2018年のコレステロール管理のガイドラインと同様にリスク評価と脂質管理を推奨していました。

LDLコレステロール値とリスク

LDLコレステロール値と動脈硬化性心血管疾患の関係はシンプルに “lower is better” が推奨されていますが、LDLコレステロール値の測定だけでは心血管疾患のリスク評価は不十分です。2013年に発行されたコレステロール管理に関するACC-AHAのガイドラインでは、LDLコレステロール値を目標にした治療から心血管疾患の絶対リスクによってスタチン療法を行う流れに変わっています。ガイドライン発行後より、複数のランダム化臨床試験でLDLコレステロール値の低下度合に比例して心血管疾患イベントが低下するという結果が得られました。そのため、絶対リスクとLDLコレステロール値の低下が重要と考えられます。2018年のコレステロールガイドラインでは、スタチン療法中の動脈硬化性心血管疾患のリスクが高い人に対して非スタチン療法を追加する際に、LDLコレステロール値の基準値を指標にするとともにLDLコレステロール値を低下割合も指標にするという推奨が戻ってきました。

Shared decision making

2013年と2018年のコレステロールガイドラインの臨床的な特徴の一つは、スタチン開始前に医師は患者と心血管疾患のリスクについて議論することを推奨していることです。この際、心血管疾患の主なリスクを再検討し10年リスクを評価しましょう。心臓に優しい生活習慣を勧め、根拠に基づく脂質低下治療について議論しましょう。この会話の中で薬物治療による副作用の可能性とともに予防的薬物治療の開始に対する患者の関心や価値観を再確認することが重要です。

一次予防

2018年と2019年のガイドラインでは、ACC-AHA Risk Calculatorを使用して動脈硬化性心血管疾患の10年リスクを評価してから治療開始を決定することを推奨しています(https://www.cvriskcalculator.com/)。ただし、このリスク評価の対象者は糖尿病がないLDLコレステロール値70~190 mg/dLの40~75歳です。
個人的には、statin choice(https://statindecisionaid.mayoclinic.org/)というサイトが、スタチン開始前のリスクおよび開始後の効果が視覚的に分かりやすいので患者さんと話すときに利用しています。

2018年と2019年のACC-AHAガイドラインでは10年リスクが5%以上20%未満の人たち(=IntermediateとBorderline)に対する脂質の薬物療法のベネフィットは不明確とされています。Intermediateやリスクがあるborderlineの人たちは、さらにリスク評価をするために単純CTで冠動脈石灰化スコアを評価してアテローム性動脈硬化の負荷を測定するのは適正かもしれないとされています。一般的に冠動脈石灰化スコアが100点以上の人にスタチンが推奨されています。特に55歳以上であればスコアが1~99点の人にもスタチンを考慮すべきとされています。一方でスコアが0点であれば冠動脈疾患のイベント率は10年間で7.5%以下と予測されます。そのような場合、スタチンは控えるか延期するのが良いかもしれません(喫煙者と家族性高コレステロール血症を除く)。
40歳以下の成人または10年リスクが7.5%以下の40~59歳であれば、医師と患者間でリスクについて話し合い、健康的な生活を維持する努力の価値を強調するのに生涯の心血管疾患のリスクを考慮すると良いかもしれません。75歳以上であれば、一次予防としてのスタチンの使用は併存疾患、余命、価値観などを踏まえてshared decision-making processの中で考えられるべきです。

重度または糖尿病あり

重度の原発性高コレステロール血症(LDLコレステロール≧190 mg/dL)の場合、家族性高コレステロール血症の尤度が上がり、冠動脈疾患の10年リスクを計算する必要はなく重大な生涯リスクを下げるために、高強度スタチン(または最大耐用量)での治療が推奨されています。もしもLDLコレステロール≧100 mg/dLであればエゼチミブやproprotein convertase subtilisin-kexin type 9 (PCSK9) 阻害薬、あるいは両方の使用を考慮するのが良いでしょう。
 糖尿病がある40~75歳でLDLコレステロール≧70 mg/dLであれば冠動脈疾患の10年リスクを計算する必要はなく、中等度強度スタチンが推奨されます。複数のリスク因子のため動脈硬化性心血管疾患のリスクがより高い糖尿病患者ではLDLコレステロール値を50%以上低下させるために高強度スタチンを処方するのが良いでしょう。

二次予防

臨床的に動脈硬化性心血管疾患がある75歳以下の患者では、高強度スタチン(または最大耐用量)を使ってLDLコレステロール値を50%以上低下させるべきです。もしも最大耐用量でもLDLコレステロール≧70 mg/dLのままであればエゼチミブを追加するのが良いでしょう。非常にリスクが高い患者(最近急性冠動脈疾患を発症、動脈硬化性心血管疾患に関連する複数のイベントを発症、冠動脈疾患の既往と複数のリスク因子があり最大用量のスタチンを内服してもLDLコレステロール値≧70 mg/dL、など)にはエゼチミブを追加するのが良いでしょう。追加後もLDLコレステロール≧70 mg/dLであればPCSK9阻害薬を追加しましょう。
個人的には、エゼチミブを追加してもコレステロールが高値の場合は難治性として専門家へ相談する方が良いと思います。
75歳以上に対する中等度~高強度スタチンの開始や継続は適正ですが、副作用のリスクがある場合は減量が必要かもしれません。

感想

致死的な転帰を辿り得る心血管疾患の予防は非常に重要だと考えますが、一方でLDLコレステロール値が高くても今心血管疾患で困っているわけではなく、将来起きるか起きないかも不確実であり、患者さんにとって通院や内服などの時間的、経済的な負担もあるため、薬物治療の開始タイミングは悩ましいですよね。
今回のレビューでは薬物治療のメリット・デメリットを踏まえて患者さんの価値観も尊重しながら医師-患者間で薬物治療の開始を決めていくという過程の重要性についても言及されていました。
予防医療に関しては、医師主導で治療方針を決定することよりも、患者さんが意思決定できるよう適切な医学的情報を提供することや患者さんと対話することが、より大切な医師の役割であると感じました。

文責:平山 果歩(自治医科大学附属病院 総合診療内科)

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