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乗り換え駅から歩いて行くね

乗り物の中から流れゆく景色を見ている。
色とりどりの花畑だったり、真っ青な海だったり、きらめく星空だったり。
辿り着くのはどんなところなんだろう。ワクワクする時間、とっても素敵。

乗り物を運転する人をこっそり見てみる。
指が長くて綺麗な人、やわらかな黒髪の人、笑うと細くなる目が優しい人。
触れたらどんなにあたたかいのだろう。ふわふわする空間、とっても素敵。

乗り物はいつも私を見たことのない世界に運んでくれた。
運転する人はいつもあたたかな体温で包み込んでくれた。
だからいつだってしあわせだった。多分。

二人でずっと、ここにいたいね。
そうだね、そうできたらいいね。

優しく微笑んだのを見て私は眠る。
今日は髪をなでてくれないのかな。
小さな違和感を覚えたような気も…

突然ガクンと体が揺れる、
目を開けると景色が止まっていた。

「一緒に行けるのはここまでです」

運転する人はとても丁寧に、でもハッキリと下車を促した。
泣いてみた、いい子になって笑ってみた、でもダメだった。


ーーー


誕生日が終わった。
大好きな人と約束をしていた私の誕生日。
会いに行けなかった。

彼はこれから、私ではない人を見つけてその人と歩みたいと言っていた。仕方がない、彼を最優先にできなかったのは私だし、はじめから期間限定と言われていたのだから。

美しい終わりなんてないと思うけれど、彼にはあったのだと思う。正しい終わりと言ったほうがしっくりくるかもしれない。最後にもう一度会ってきちんと終わりにする。彼らしい。正義感が強いところも好きだったから、本当は彼のけじめに付き合うべきだったのかもしれない。でも無理だった。サヨナラするために抱かれるほど、私は強くなかったから。

ここからどこに向かうのか自分でもわからない。でも、途中下車したその場所で、どこを向いて歩きだしても誰に咎められることもないと考えれば選択肢はいくつもあるのだろう。今はまだ目覚めたばかりだから明るさに目が慣れなくて戸惑っているだけ。

だからまた前に進める。
きっといつもみたいに。


そう、いつもだ。

自分で探した乗り物に乗りたいと思う時、チケットを手に入れるまでの私は身勝手で自由だった。だって乗れたら嬉しいけれど、乗りたいと思っている今だって十分楽しいから。そんな私でいるうちに目の前には憧れの乗り物が到着する。ドアが開く。あっ、乗れるんだ。えっ、じゃぁいい子にしてたほうがいいよね。大切に運ばれて、優しく包まれて過ごす日々。幸せだなと思う。だから幸せだと伝える。聞かれてもいないのにたくさん伝える。言わなければいいのにたくさん伝える。

それからしばらくして、景色が止まる。

走り去る乗り物を見送ってうずくまって泣く。でも泣くのって疲れるから案外続かない。なんとか顔を上げて動き始めると、目の前を多くの乗り物が行き交っていることに気づく。そっか、乗り物ってこんなにいっぱいあったんだ。ボーッと見ているとそのうちの一台が停まる。ドアが開く。運転する人が言う。今まで大変だったね。ちゃんと見てたよ、どうぞ。

乗ってはいけないことはわかっている。これは自分が探した乗り物ではないから。乗ったって結局降りたくなってしまうのだから。今はただ、自分の足で進める速度、自分の肌で感じる温度をきちんと味わわなくてはならない。誰の力も借りずに。

でも。
わたしは強くなれるだろうか。


乗り換え駅から歩いて行くね


時間がかかっても待っていてくれる人を、
自分の心が選んでいく未来を大切にして。


2月と3月を繋ぐ夜、
私に言葉を贈った。






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