バリアフリーな気持ちーバリアフリーカヤック体験 盲導犬と暮らし、盲導犬と語る(22)

7月の初め、山梨県の八ヶ岳で「バリアフリーカヤック」を初めて体験しました。
カヤックは高さが低くて細長いカヌーのような船で、左右にひれのついたパドルで漕いで進みます。
この「バリアフリーカヤック」は、「八ヶ岳アウトドアアクティビティーズ」というところがやっているのをネットで見つけて、盲導犬ユーザーでもできることを確認して、私と家族と盲導犬シールで参加しました。

カヤックを体験したのは標高1600mのところにある調整池。推進約8mで雪解けの冷たい水を湛えていました。
「バリアフリーカヤック」では、これまでにいろんな障害を持った参加者がいらしたそうですが、盲導犬ユーザーと盲導犬の正式な参加は私とシールが初めてでした。

私たちはまずカヤックが転覆した時のためのライフジャケットをシールを含めた全員で着け、地上に置かれたカヤックで、カヤックに乗る時の方法とパドルの漕ぎ方を教わりました。それが終わると、私は娘とシールで水上に浮かぶ二人乗りのカヤックに乗りました。カヤックには足を伸ばしてすわる格好でのります。シールは私のひざの間にすわりました。
最初シールは少し揺れる床に不安そうにしていましたが、私と娘が落ち着いて楽しそうにしているので、やがて安心して床の上に寝そべっていました。でも、あとで陸に上がった時にはすごくうれしそうにしていたので、慣れない水の上ではちょっと心許なかったみたいです(笑)。

私たちはパドルを使って静かな水面の上を前に進んだり、岸に近づいたらパドルを逆に漕いでバックしたり、片側だけを漕いで方向転換をしたり、時にはパドルを漕ぐ手を休めて水面を漂いながらおしゃべりをしたりしました。
池は私たちだけの貸し切り状態。まわりは静かで聞こえてくるのはほとんど鳥の声だけ。水面は静かで、その日の天候も心地よい快晴でした。
私たちはときおり吹いてくる涼しい風を受けながら、パドルを漕ぐ水音と鳥の声を聞き、ゆったりとした楽しい時間を過ごしました。

私は目が見えなくなってからは車も運転できなくなったし、もちろん自転車をこぐこともできません。もうずっと自分の力で乗り物を動かす、ということをやっていませんでした。
カヤックはよほどのことがなければ転覆する心配もなく、自分でパドルを漕いで動き回れるところが魅力です。
パドルの片側を水に鎮めて手前にかくと、水の抵抗を感じます。右、左、右、左と向後にパドルを水に鎮め、水面の抵抗を感じながらパドルを漕げば、私たちが乗っているカヤックが水面をすべるようにして進んでゆきます。
見えなくなってからはけっこう好きだった水泳もやらなくなったので、「水中で水をかいて前に進む」という感覚はとてもなつかしい。

この「気兼ねなく安全に自力で移動できる感じ」は見えなくなった私にとって長らく味わうことのなかった心地よさでした。

私は見えなくなってからの生活がもう長いので、見えない生活にはもうすっかりなれ、家の中で歩き回ったり、シールと一緒に外出して歩き回ったりすることに今では特に不自由を感じることはありません。

それでも、自分の身体のまわりが見えていないことには変わりないので、何か障害物にぶつかるリスクは常にあります。
実際に家の中で壁や柱にぶつかったり、足先で何かを踏んでしまったり、シールと一緒に外出して安全に歩けていても、ふいに障害物や人にちょっとぶつかってしまうことはあります。
なので、私はいつも何かにぶつかってしまう危険について頭のどこかで警戒するのが習慣のようになっていました。
今回、カヤックを漕ぎながら私は開放感のような喜びをずっと感じていました。
それは、私たち以外には誰もいない広い池の上で、やわらかな水をかいて進んでいる時、自力で前に進んでいながら何かにぶつかる警戒感をほとんど感じる必要がなかったからなのだと思います。
私の心と身体は、無意識の警戒から自由になってすっかりリラックスしていたのでした。
それはなんだか、いつも身体を締め付けている着慣れた制服を脱いで自由になったような感じでした。

清々しい空気を吸いながら、水の上にゆらゆらと浮かんで、そよ風が顔をなで、カヤックが水面にふれるやわらかい水音と、聞こえてくる鳥の声を聞きながら、私は心からリフレッシュすることができたのでした。
この感覚、またいつか味わってみたいです。

ちなみにこの「バリアフリーカヤック」は10月頃まで楽しめるそうです。

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