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Bittersweet【ショートストーリー】


嫌うのも嫌われるのも、怖いと思う。

世界が唯唯、“好き”で溢れてれば良いのに。

なんて願うのは、可笑しいのかな?


「ねぇ、アズサ」

彼は蕩けた甘い声で、“私”を呼ぶ。

それはまるで、世界で一番私を愛すみたいに。

『何、リョウ』

リョウは基本的に誰にでも優しい。

だけれどそれは、幼馴染相手なるとより糖度を増す。

だからかな、ほんと時々、勘違いしそうになる。

リョウが好きなのは、私じゃない。

無防備に笑う彼の心は。


「マリア、今日家にいる?」

大好きな、お姉ちゃんのモノ。

私は彼の一番じゃない。

純粋な、ほんの気まぐれの質問にすら、

嫌な想像が巡る。

こんな時、当てつけかと思ってしまう自分が嫌いだ。

リョウと姉はお似合いのカップルだ。

私の浸け入る隙なんて…ないほどに。

美男美女で、平凡な私なんかじゃリョウとは釣り合わない。

中学生の時、二人の初恋は叶い、
私の想い-ハツコイ-は密かに散った。

カップル二人は一つ差で、私とリョウは同い年で高校生。

お姉ちゃんは、今年の春から大学生。

だから、お姉ちゃんは今ここにいない。


『大学休みだからいると思う』

表向きは平然としているけれど。

内心嫉妬で焦がれていても、どうしてか何時も嘘をつけない。


…違う、嘘だ。


お姉ちゃんやリョウに嫌われたくない。

私は昔から臆病で、駆け引きが苦手。

お姉ちゃんを恋敵だと嫌う覚悟も、

リョウにこっ酷く嫌われる覚悟もない。

…それなのに、二人の側を離れられない私はきっと卑怯者だ。


「そっか、今日帰りアズサ達の家に俺も行っていい?」


只の幼馴染の私が、彼の頼みを断れるはずがない。

リョウといられるのは嬉しい。

でも、お姉ちゃんといるところは見たくない。

複雑な気分に動揺する。

可笑しいな、これは今までも日常だったのに。


『いいよ、一緒に行こ』

ちゃんと笑えてるか不安になる。

お姉ちゃんやリョウに幸せになってほしい、って思うのに。


どうしてかな。

溢れるほどに胸を焦がす感情に、戸惑うんだよ。


苦しむ自分が大事だから、その仲を邪魔したくなる。

祝福を願う裏で、心の何処かで、
二人の破局を、何処かで祈っている。


大切なのに、諦めなきゃいけないのに。

気持ちが余って、壊したくなるから。


人を好きになるって難しい。

人を嫌いになるのも難しい。



追記:恋愛系のストーリーが大好きなのですが、恋愛という恋愛をしたことがなく。

恋って愛って、どんな感じだろうな?と想像しながら書きました。

初恋は実りにくい、だとか。
恋は盲目、だとか。
嫉妬や葛藤などで複雑、だとか。

恋愛の甘い部分よりも思わずビターな感じを想像してしまう辺り、“恋愛”にどこか引け目があるのかもしれないです。

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