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フリマアプリの憂鬱。

 フリマアプリの出始めの頃は、売ってもいたし買ってもいたが、最近は買うばかりになった。
 売るものが無くなったのではなく、売るのが面倒になったからだ。
 面倒になったのは、主に購入者とのやり取りである。
 もっと言えば、購入前に送られるコメントの返信に労力を割かれるのが嫌になったからだ。
 即出品、即購入。
 売りたいもの、買いたいもの。
 供給と需要が一致すれば、スムーズに行われていたやり取りに、ある時から必ずワンクッションが入るようになった。

「値下げしていただけませんか?」

 この一文である。
 文面を見た途端、どっと疲れる。
 あなたはもういらないんでしょう、だったらもっと安く売ってくれても良いじゃない。
 買い手として正直な気持ちだろうが、こちらは業者でもなんでもなく、不要品が少しでもお金になるなら良いなと思って出品しているだけの一個人である。

「出品したばかりのため、しばらくお値下げいたしません」
「ご希望の価格はおいくらでしょうか?」

 最初の頃は、なるべく丁寧に対応していたが、ある時を境に「値下げを…」と一文入れる買い手が増えたように感じる。欲しいものを安く買うコツが、あちこちで共有されたせいなのかも知れない。
 仮にも他人様にお金を貰ってお譲りする物だから、こちらもそれなりに出品前の状態はチェックしている。それらの作業をして「この価格で売れたら嬉しいな」という気持ちで出品している。気分はまさにフリーマーケットの出品前夜。わくわくどきどきした気持ちがある。いざフリーマーケットに参加して、開店早々に値引きを要求する客ばかりが長蛇の列を作るようになったら、嫌な気分になるだろう。おまけに値下げをしても、更に値下げを要求される時もある。

 なんだか、嫌だなぁ。面倒くさいなぁ。

 そう思っていたところにトドメを刺したのが、フリマアプリの最低価格で出品していた商品に付いたコメントである。

「値下げしていただけませんか?」

 ――どうやって値下げしろと?
 あんまりな要求に、がっくりと疲れてしまって、その日の内に商品の出品を停止した。
 フリマアプリに出品していた物はダンボールに詰め込んで業者に送り、業者が引き取れない品はゴミに出した。
 部屋の中が片付いた。
 あー、すっきり。
 
 なので、今はもっぱら買う専門である。
 とりあえず、売り手のやる気を無くさないよう、欲しい商品で自分の財布の中身と値段の折り合いが付くものは、原則通りにさっくり買うようにしている。
 購入者とのやり取りが面倒になって、売るのを辞めたという声はよく聞く。その内、フリマアプリの売り手を業者が独占する日は近いかもしれない。

 即出品、即購入。
 最初の頃は、このシステムがちゃんと機能していて、楽しかったのになぁ。
 そんな風に、時々しょっぱい気分になる。

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