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短編小説/王冠


ここは風見鶏王国。王様の風見鶏は今日も国民を集めて演説していました。
みな眩しそうに王様を見上げています。
王様はおしゃべりが大好き。聞き惚れてる群衆を前に舌が回ります。
この国が他と比べてどんなにいい国なのかとさんざん言い聞かせたあとは
王様が作ったお話もしてくれます。
いつも拍手喝采。みんなも王様も満足して集会が終わりました。
すると「やあ王様」と一羽のカモメが屋根に止まりました。
黄色い嘴に楕円形の羽。この国ではついぞ見ない鳥でした。
「やや、お前は誰だ?どこから来たのだ」
王様は初めて見るカモメに驚いてくるくる回転しました。
「遠くからさ。ところで王様。よく喋ってたね。こんな暑い中感心するよ」
「そうだろうそうだろう。私は話すのが得意なのさ。君も聞いていただろ?どうだったかね。私の演説と物語は」
「さあね。途中から耳を塞いでいたから聞いていなかったよ。あんまり退屈でさ」
嘴で羽繕いをしながら答えるカモメに、王様はムッとしました。
「なんという無礼だ。私は王様だぞ。私はここで一番偉くて、誰よりも尊敬されている。だからみな私の話を聞きたがるのだぞ。私は言葉を操る才能に長けているのだからな」
「本当かい?おいらには全然刺さらなかったよ。だって全部上っ面じゃないか。聞いた所によると、王様はこの国から一歩も外に出たことがないらしいね。他を知らないのにどうしてこの国が一番いいと言えるのさ。あんたはそうやって虚飾の言葉で国民を言いくるめて、小さな小さな国で威厳を保とうと必死になってるだけなんだ。分かったつもりのあんたの講釈を有り難そうに聞いてもらって、さぞ気持ちがいいだろうね。それを失いたくないから、あんたはここから出られない。だって一歩外に出ればただの鶏だものな。だあれもあんたの相手をしてくれない。あんたの戯言になぞ耳を貸さない。なんの役にも立ちやしないのさ。ただの一度も羽ばたいたこともないあんたが、空の青さや海の広さや花の匂いについて語ってるなんて笑わせるよ。すべてイメージで形作ってるだけに過ぎないのにさ。あんたはここであんたを特別扱いしてくれる幻想に酔っていたいんだ。お綺麗な言葉を並べて、それらしく振る舞ってるだけ。中身はてんで空っぽ。もらえるものがなにもない。まがいものさ」
その時両方の羽を広げたカモメの体にいくつかの傷があるのを王様は見つけました。それは?と目を細めて尋ねました。
「これかい?えーと、そうそう。この傷は確か隣の隣の国で大鷲に襲われそうになった時の傷だ。こっちはさらに隣の国でシャチの群れと獲物を取り合った時のもの。そしてこっちは帆船のヒモに足が絡まって落ちた時に付いた傷だ。どうだい?詳しく聞きたくなっただろう。なんたっておいらの話は全部本当だからね。実際おいらが体験して、おいらが見てきたことさ。単なる見解じゃない。もう一度国民を集めて話してやってもいいよ。みんなどう思うだろう。おいらの話を聞いたあとでも、あんたの話を有り難がってくれるかな?なんにも知らない、冒険もしない王様に敬意を払ってくれるかな?
そうら、風がやってきた。頭に乗せてるその王冠、飛ばされないように押さえておいた方がいいぜ。あんたは知らないかもしれないけど、その冠は偽物で、ぺらぺらの紙でできているからね」
すいと風が吹き抜けた一瞬、カモメは羽を開いて飛び立ちました。あざやかに風に身を任せてぐんぐん遠ざかっていきます。
王様はその姿を真似してみましたが、飛ぶための翼の使い方が分からなくなっていました。おーいおーいとカモメを呼びますが、薄っぺらになった体は、同じ所をくるくると空しく回るだけでした。



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