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『ハマヒルガオ』第6話:女王の誕生


第6話:女王の誕生


「阿泉(あずみ)、お前、オオクニヌシがなんとかって、言っていたよな」

 ある日の休み時間、自席で一人本を読んでいた六夏のもとに、細川隆雄という男子生徒がやってきて、六夏が周囲に張っているバリアを打ち破るようにして、唐突に訊いてくるのであった。細川隆雄はクラスの中でもやんちゃな部類に入る男子生徒で、誰彼構わず挑発的な絡み方をしてくるので、皆からは少し敬遠されているタイプの男の子であった。当然、六夏もかまってもらいたくなかったのだが、他にちょっかいを出す相手がいなくなり、退屈になった細川の新たな標的になってしまったかと、嫌な予感を抱いた。例によって、社会の授業で口走ってしまったことに触れてくるのであった。

「お前って、もしかしたら変な宗教とかやっているのか?」

 細川はわざと周囲の人間にも聞こえるような声で六夏に問い質す。

「宗教? 何の話よそれ」と六夏は思わずむきになって返してしまった。

「母ちゃんが言っていたんだよ。もしかしたら阿泉さんの家は、危ない宗教に入っているのかもしれないねって。そういやお前って昔から、おかしなこと口に出したりしていたなと思って」

「そんなんじゃないよ」

「じゃあ、オオクニヌシってなんだよ」

「それは、国造りの神様よ」

「神様? やっぱりそうじゃねえか。お前そんなものを信じているのか」

 細川と六夏のやり取りに耳を欹てていた周囲の生徒らが、急にざわつき始める。

「今時、神様がどうのこうのって、やっぱり宗教だよ、宗教。母ちゃんが言っていた危ない宗教だ」

「そういうの、カルトっていうんだよな」
 
 急に別の人間が、横から口を挟んできた。六夏はこれ以上相手にするのをやめた。こいつらに何を話しても無駄だとわかっていたからであった。

「そうか、カルトか。お前はカルトなんだな」

 六夏の沈黙に対して、細川の口撃はますますエスカレートしていく。すると、他の男子生徒までもが加勢して、「おー、怖い、怖い」と大げさなリアクションをとっている。

「勝手にしろ」と六夏がそう言わんばかりにすました態度をとると、細川はそれが自分への挑発だと受け取ってしまったようだ。

「何とか言ってみろよ、カルト女」

 むきになった細川は、机の脇にかけていた六夏の体操着入れを奪い取ると、「よっしゃ、六夏の体操着ゲット。オークションにでも出してやるか」と喚き散らし、教室中を駆け回るのであった。

「返して!」

 六夏は体操着を取り返そうと、細川を追いかける。

 涙声になった六夏をあざ笑うようにして、細川は他の男子生徒と、その体操着入れをキャッチボールのようにして遊び出すのであった。休み時間の終了を知らせるチャイムが鳴ってようやく、細川は「返してやるよ」と、体操着の袋を六夏に投げつけるようにして手渡すのであった。六夏は初めて、身内以外の他人に対して殺意のようなものを覚えた。

「いなくなればよいのに」と心の中で念じるようにして、憎悪に溢れた言葉を繰り返した。

 すると翌日の朝礼のことであった。

 担任である芦沢先生が開口一番、
「細川君が昨日、学校の帰宅途中、交通事故に遭った。幸い、命に別状はないようだが、しばらくは入院をすることになった。みんなもお見舞いに行ってあげるように」ということを告げるのであった。

 そのことを聞かされた六夏は、まさか自分が念じていた思いが現実になってしまったのかと、唖然とする他なかったのだが、いや、そんな超常現象みたいなことは起こるはずがなく、こんなものは偶然の所産だと打ち消す。
しかし、他のクラスメイトはそうは受け止めなかった。細川隆雄の事故の話を聞かされた誰もが絶句し、同じことを感じ、同じ恐怖を抱いたのであった。

 休み時間、クラスメイトは明らかにざわついていた。そのうちの一人が、

「阿泉、まさか、お前が細川に何かしたのか?」

 そんなことを、怯えながら訊いてくるものだから、六夏は少し揶揄ってやろうという思いで、こう答えてやった。

「そうよ、ワタシの怒りに触れるものはこうなる」

 そこからである。クラスメイトの誰もが「細川の事故は、阿泉六夏の報復である」という因果関係をすっかり信じ切ってしまい、六夏のことを、得体の知れない力を持つ者として恐れるようになった。

 決定的であったのは、同じような事象が続けざまに、今度は御宿小学校の教職員の身に起きたということであった。対象となったのは、体育教師の薮田であった。薮田は、昔からスポーツだけをやってきて、脳よりも筋肉ばかりが発達してきたような人間で、その大柄の体躯だけで威圧感があり、強面として知られる教師であった。

 六夏が少し変わった生徒であると噂されていることを知っていた薮田は、校庭で行っていたリレーの授業の時、冗談半分で六夏を揶揄うことで、生徒らの笑いを取り、雰囲気を和ませたかっただけなのかもしれない。薮田は、体育座りで整列していた生徒たちの前で、地面にラインを引くための石灰を手に取り、何を思ったのか六夏の目の前に差し出し、
「これは上等なコカインだ。阿泉、お前これが好きなんだろう。吸っていいぞ、どんどん吸え」とケラケラと笑うのであった。だが、それに対して笑う生徒は一人もいなかった。

 その時、誰もが目の前の光景に目を疑った。
 思わず「あ」と声をあげる者もあった。あろうことか、調子に乗った薮田は、煙たそうな顔をしていた六夏の頭上に、手に握っていた石灰を、指で擦りながら振りまいたのだ。

「ほら、好きなだけ吸えよ」と薮田はいやらしい目付きで六夏を見下ろしている。

 六夏は咄嗟にそれを避けたのだが、体育帽からはみ出した髪の毛に、石灰の白い粉が付着してしまった。その光景を見ていたクラスメイトたちは、誰もが恐怖に顔を引きつらせた。そして、「薮田の奴、死んだな」と憐れむのであった。

 するとその翌日、体育教師の薮田は本当に学校に来なくなってしまった。
芦沢先生の説明によると、薮田は仕事を終えた帰宅途中、集団の学生に闇討ちされ、体中の殴打により意識を失い、緊急入院したのだという。集団が誰であるのかはまだ判っていないが、薮田に恨みを持つ御宿中学校の不良グループではないかとされている。その理由は十分にあった。彼らは御宿小学校の卒業生であり、在学中は薮田にさんざんどつきまわされていたので、いつそういうことが起きてもおかしくなかったようだ。

 この事件により、クラスメイトの誰もが確信した。これらは阿泉六夏の呪いのチカラによる報いなのだと。
 
 阿泉六夏は、常人ではない。人智を超えた力を持つ、畏怖すべき存在なのだと。この一連の出来事により、六夏自身も戦慄した。偶然や成り行きというものでは片付けることができない、不思議な力が働いているということを六夏自身が認めざるを得なかったのだ。これらが何に起因にするものか、心当たりは一つしかなかった。

「儂の直感だが、六夏、お前こそが、阿泉家の選ばれし人間である気がしてならない」
 
 しばらくして、御宿小学校の六年B組では、不思議な現象が起きた。

 六夏の存在を恐れるあまりに、六夏に目を付けられるよりも先に、六夏のご機嫌をとろうという人間が現れ始めたのだ。

 その中の一人、山本康介という人間が、「阿泉六夏様は、超自然的な力を持っていて、この地上に君臨する女王である。だから、あなたを崇拝します」と六夏に進言すると、「俺も」「私も」と他の生徒が続いた。
 その人数は瞬く間に膨れ上がり、事故で入院中の細川を除いた、六年B組の全クラスメイトが、休み時間には必ず六夏のもとに集まり、六夏を囲いながらその場に跪くという、異様な光景が繰り広げられるようになったのである。

「女王六夏様のためなら何でもします」と山本康介が宣誓すると、「何でもします」と皆が号令のように口々にするのであった。六夏は最初こそ戸惑いを覚え、「そういうことはやめて」と制するのだが、皆の態度は変わらなかったので、いっそうのこと、この設定に従ってみることにした。

 誰もが六夏に対しては敬語を使い、目の前にくると低頭にお辞儀をする。六夏が帰路に着く際には、男子生徒は護衛のように、六夏を取り巻き行列で歩く。そんな扱いを受けて気分が悪いわけがなかった。六夏も次第にその気になり、自分が「女王」であるということを積極的に利用するようになった。六夏が何か命令を下せば、皆が何の抵抗を示すことなく隷従する。

「宿題やっておいてくれる?」

「はい、女王様」

「給食のプリン、あと二つ食べたい」

「はい、女王様」

「その筆箱かわいいね。私にくれない?」

「はい、女王様」

 最初は、他愛もない遊び感覚であった。命令と服従といっても、小学生が発想する程度の「ごっこ」に過ぎない。しかし、その遊びはいつしかエスカレートし始め、放課後の時間においても、皆で集まるようになっていた。

 六夏の思い付きで、集まる場所は、塩富神社という無人の神社ということが決められた。塩富神社の鳥居は小さく、社も質素である。周囲は背丈のある木々で囲まれており、人通りもない。その境内に、三十人くらいの生徒が集まる。十段程度の階段をあがった社の前に、六夏がふんぞり返るようにして座り、側近が六夏を囲む。側近というのは、六夏によって気に入られた中枢メンバーのことで、彼らのみが六夏の傍にいることを許される。それ以外の者は、階段を上がることが許されず、阿泉六夏を見上げるような形となる。
 女王六夏を崇める集団は、クラスメイトのほぼ全員で構成されていたが、その集団内においていつの間にか序列ができていたのだ。六夏が意図したわけではなく、気付いたらそのような形をとっていた。そこで六夏は、意図的にその序列を可視化しようと試みた。

「よし、今日から独立した国を造る。名前は〈アズミノ国〉とする。ワタシは女王。お前たちは女王を護るための兵となれ」

 六夏が何気なしに宣言したことは、クラスメイトをざわつかせた。すると六夏は、傍らにいた側近メンバーらを名指しして、「お前は右大臣」「お前は左大臣」「お前は大納言」「お前は参議」と歴史の本で得た知識を引き合いに、出鱈目ではあったが、クラスメイトに官位を与えるということを始めた。

 女王である六夏の次の階級は、左大臣と右大臣であった。知恵を司る左大臣には、クラスでも最も優秀で、「博士」という渾名を持った阪田祐介が。力を司る右大臣には、幼少の頃から伝統空手や相撲をやっていて、御宿小学校内で最も喧嘩が強いとされる平田蓮が、それぞれ六夏の独断で選ばれた。大納言、参議もそれぞれ、六夏からの信頼が厚く、クラスでも目立った生徒が一人ずつ選ばれた。

「それ以外の者は皆、一兵隊である。出世したければ、ワタシに認められ、実力で勝ち取ること」

 この序列付けに文句を言う者はなく、皆それに従った。官位を与えられた者は、皆からも右大臣様などと呼ばれ、官位が上の者に口答えをしたり無礼をしたりすることは許されなかった。序列に反することをするものには、罰則が与えられた。アズミノ国に対して不平や悪口を言う者にも同様に罰則が与えられた。罰則には度合いがあり、一番軽いもので、その場で服を脱がされ、全裸になった姿をクラスメイトの前で晒されるというもの。次は、理科室にある、金魚の水槽に顔を突っ込むというもの。最も重い罰は、力を司る右大臣からの物理的な暴力を受けるという過激なものになっていた。

 ただし直接顔を傷つけてしまっては、先生や親に不審がられてしまうので、腹や肩など服で隠された部位へのパンチ、キックに留められた。しかしクラスで最も喧嘩が強いとされる右大臣からの攻撃である。大抵の者は悶絶し、なかなか立ち上がれなくなる。そんな光景をクラスメイト全員が見守る中で行うのである。それだから、誰もが自分がその罰則の対象になってしまうことを恐れ、アズミノ国への忠誠は一層に強まるのであった。

 六夏はこれらの罰則を暴力とは考えていなかった。集団の秩序を乱さないために必要な措置であり、決して隷従させるためのものではない。このことは、阪田祐介にも、『アズミノ国法制史』という形でまとめさせた。

 クラスメイトらは、少しでも六夏に気に入られ自分の官位を上げようと、六夏が喜びそうなことを競って提供するようになった。ある者は六夏の机や椅子をピカピカになるまで掃除したり、休み時間中に進んで肩もみや足もみをしたり、六夏が読みたいという漫画本を家から持参したり。中には、親の財布から盗ったお金を持ってくる者までいて、その競争により次第に献金する金額が積みあげられていくという風にエスカレートしていくのであった。

 男子生徒の中には、自分の腕っ節を誇示することで六夏に認められようと、他のクラスから腕力に自信がある生徒を集めて、六夏の前で一対一の喧嘩を始めたりする者までいた。ただしこの喧嘩は、六夏の提言により、顔や急所の攻撃、髪の引っ張り合いなどを禁じた。フルコンタクト空手とレスリングが混ざりあったようなものになり、どちらかが音をあげるまで勝負は続いた。小学生とはいえ、間もなく中学生になる男子同士の取っ組み合いは迫力があり、六夏を大いに喜ばせた。

 次第に、六夏に承認されることはクラスメイトにとって不可欠なものになっていて、誰もがアズミノ国の一員であることに誇りを持つようになっていた。六夏もまた、クラスメイトの服従に依存していた。彼ら彼女らが自分のもとから離れることなく、引き寄せさせるためには、「女王」であることの正当性と根拠付けが不可欠だと考えるようになった。
 
 六夏が拠り所としたのは、阿泉家の言い伝え、祖父の文斗による手記であった。ただしその手記自体は、六夏にとって秘密の聖典のようなものであったので、決してその存在をクラスメイトに明かすことはしなかった。代わりに、自らの口を使って、さも自分の考えであるかのように、手記に語られている内容をクラスメイトに向けて語った。

「――私たちアズミノ国の人間は、自然と調和しようとする古の種族の生き残りである。この古の種族は、かつて日本列島の全土に存在していた。ところが、大陸の方から新しい種族が渡来し、この時から列島は異なる種族同士の覇権争いが乱立する。一般に、日本の歴史は狩猟中心の縄文文化から、稲作中心の弥生文化への移行が語られるが、このことは、古の種族から新しい種族へと覇権が入れ替わったことと一致する――」

 六夏がそのようなことを滔々と語ると、クラスメイトの人間は崇高さと威厳を感じさせる六夏の言葉の一つ一つに有難みを感じるようになり、六夏の一語一句を聞き漏らさまいと、ノートを取る者も現れた。ノートはすぐに膨大なものになり、自由帳にして十数冊分くらいになっていた。そのノートがまた、クラスメイトの中で回覧されることで、阿泉六夏の「御言葉」として伝わり、共有されることになった。

 次第にそのノートは、別の者にも派生し、阿泉六夏の生い立ちや言動そのものを記録しようというまでに発展し、何人かの書き手による複数の解釈による、複数のノートが存在するようになった。そうしたノートは、アズミノ国の中で重宝され、教典のようなものとして取り扱われるようになった。その中の一つで、とりわけ知恵を司る左大臣であった阪田祐介が書いたものがクラスメイトを魅了し、六夏をも喜ばすものとなった。阪田祐介が書いたノートには、古の種族について語った六夏の言葉が、次のように記録されている。

アズミノ国の女王である阿泉六夏、その方が語る古の種族とは、古くはアフリカ神話を起源とし、それらを信仰する者たちのことであったと推測できる。その人類がアフリカを飛び出して、地球上の各地に散らばっていく中で、ユーラシア大陸、すなわちヨーロッパ、中国やモンゴルなど陸側のアジアに広がっていく種族と、オーストラリアや南インド、マヤやアステカ、日本の南部へと、海洋から広がっていく種族らに分かれた。前者は、自然とは人間が支配すべきものであるという思想を持ち、それらはユーラシア各地の神話や一神教の物語を見てもその特性が現れている。一方で後者は、アフリカ神話の頃からの思想、人間は自然の一部にしかすぎないこと、自然そのものが神の現れであると考える。古の種族は神を知るもの、自然を知るものであった。古の種族において、神との交接の方法は各地でさまざまな祭儀において見られるが、ほとんどが、ある特殊な力によって神と通じようとしていたことがわかる。これらは、合理主義的な思考が支配的となってしまった現代においては、一般的には理解されがたいものでもある。

『阿泉六夏言語禄・其の一』

 この阪田祐介のノートをきっかけに、クラスメイトの中でも質問や議論が活発化した。

「この、古の種族が持つ特殊な力ってなんですか?」

「彼らは霊的な力に通じているのだ。まあ、今の時代、多くの人間はバカにするだろうけどね」クラスメイトらの疑問に対し、阪田祐介が説明をする。

「霊的な力? それって幽霊とかそういうこと?」

「いや、そうではない。なんというか」
 
 阪田祐介が回答に窮する時は、六夏が答える。

「この世の中には、誰が何と言おうと、科学や合理的な考え方だけでは説明がつかないものがある。多くの人間は、自分にとって都合のよいものだけを感受した世界を生きている。これが人間社会だ。それに対して古の種族たちは、人間以外のあらゆる生命、あらゆる物質が通じる世界、賦霊(ふれい)の世界というものを生きている」

「ふれい?」

 六夏が語る手記の内容は難解なためか、僅か十二歳であるクラスメイトの理解は、まったく追いつかない。

「賦霊とは、超自然的なものから成るもの。この賦霊の世界を生きる種族こそが、自然との調和のもとにあった「始まり」の人間である。古の種族とはそのような種族のことをさす」

「ちょうしぜんてき、なもの‥‥‥」

 クラスメイトは六夏の言葉を発音通りノートに記していく。

「第四章『巨大なる一者、その賦霊の力について』――古の種族には、われわれ現代人のような比較や区別といった概念がない。人間と自然、人間と動物、私と他者、この世とあの世、生者と死者、強者と弱者、そんな棲み分けがそもそもないのだ。彼らには時間の概念さえもない。彼らにとっては、過去も今も未来もなく、すべてが現前している『今』である。この世界で生成される運動、出来事はすべて地続きであり、この世のあらゆる自然現象、あらゆる生命や物質のすべてが、『一つの者』として繋がっているからである。人間はその『一つの者』が持つ巨大なる運動と力の一部分でしかない。この巨大なる一者の精神と意思は、この世界のあらゆるものに及ぶところまで及んでいる」

 六夏の厳かな語り口調は、いつかの祖父、文斗が六夏に対して語るものとまったく同じなのであった。六夏自身も、何かが憑依しているのではという感覚があった。

「巨大なる一者、オオクニヌシ様の別名は、オオモノヌシノカミ。この世のすべてのモノの根幹に関わる神という意である――」

 六夏の口からは、息を吐くのと同じようにして、次から次へと言葉が放出され、大気中の粒子にぶつかりながら振動し、声という音となって伝っていく。その音が、クラスメイトの耳元に届くも、彼らには、六夏の話すことが、どこか異国の言語、あるいは僧侶が唱える念仏のようなものにしか聴こえない。それゆえに、六夏に対する彼らの幻想は、ますます強いものになっていくのであった。



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