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その他、書評やエッセイ

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哲学や文学、科学といった本の書評、映画や格闘技などの雑記、エッセイをまとめています
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2024年7月の記事一覧

人はなぜ集団行動に駆り立てられるのか? エリック・ホッファー『大衆運動』を読む

波止場で働く哲学者ホッファー  ドイツ系移民としてアメリカはニューヨークで生まれた異色の哲学者、エリック・ホッファー(1902‐1983)の最初の著作、『大衆運動』。原題は『The True Believer: Thoughts on the Nature of Mass Movements』(1951年)。  ホッファーは正規の学校教育を受けていないのだという。港湾労働者として働きながら思索を続け、発表した本が反響を呼び、哲学者として知られるようになった。大学教授にな

我、忘れる、ゆえに我あり

 AmazonのPrime Videoで、『IWGP・池袋ウエストゲートパーク』が配信されていた。懐かしのあまり、一日で全話、一気見してしまった(笑)。  窪塚洋介演じる「KING」のキャラクターは、今なお傑作である。 『IWGP』を見ていたこともあり、脳内ではずっと、作品の主題歌である『忘却の空』がリピートしている。清春が歌い上げる、SADSの代表的なナンバーだ。    そんなこともあってか、ふと「忘却」というワードが異様なまでに気になりだしてしまったのであった。そして

『資本主義の次に来る世界』を読む スピノザ−フッサール−アニミズム?

 7月に入ってから、心身が削られるような暑さが続いている。暑いというよりは、もはや熱い、痛い。  熱風式で身体の細胞が焙煎され、搾りカスのようになってしまいそうだ。    仕事で、外回りをしていると、特にそのことを感じる。  オフィスに戻って涼んだのち、しばらくして帰宅しようと思ったら、エレベーター前ですれ違った同僚に、「グッチさん疲れていますね」と言われた。  自分ではそのつもりはなかったのだが、やはり体力も気力も消耗しているのだろうか。  そんな時に、たまたま読ん

まるで『特攻の拓』の世界!RIZINフェザー級戦線の「混沌」は、朝倉未来がつくった

 RIZINのフェザー級戦線が混沌としている。この混沌具合は、さながら『特攻の拓』ばりに、誰が一番強いのかが「決まらない」、相対的な世界である。  ヒーロー漫画の定石は、週刊少年ジャンプであろう。絶対的なヒーローがいて、そのヒーローの目の前に強敵が現れては、順番に倒し、段階的に強くなっていく。いわば、「直線的」なストーリーというのが、少年漫画のお決まりである。  しかし、私の記憶する限り、その少年漫画のお決まりを、ことごとく無視したのが、週刊少年マガジンで連載していた、ヤ

「見えない力」を哲学する#0 プロローグ的なもの

 *   17世紀のデカルト主義以降、われわれはあまりにも近代合理主義的、科学主義的な思考、価値概念に慣らされすぎてしまっている。  これによって見失われている、あるいは嘲笑されているものが非合理的な思考、すなわち、神的なもの霊的なもの魔術的なもの信仰的なものであるというように見受けられる。  だが、科学的、論理的に説明できないからというだけで、非合理的なもの、あるいは、近代以前の人間の知(たとえば神話や宗教、迷信、幽霊的なものなど)を嘲笑するものは、その非合理的なもの

『悪は存在しない』を見る。「感情移入」の否定、あるいは「主観的視線」の解体について

あらすじ・登場人物 『ドライブ・マイ・カー』、『寝ても覚めても』でも話題の映画作家、濱口竜介監督の最新作、『悪は存在しない』を見てきた。この映画を見たことによる衝撃を、なんとしてでも言語化したいと思い至り、私が考えたことを、雑感のような形でまとめたいと思う。  正直、まだうまくまとまっていない。映画を見終えた後同様に、私はいまだに宙に放り出されたような感覚の中にあり、この映画がわれわれに突き付けた問いが何であるのか、わかっていないのだが、手探りながらも、この映画が一体