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【短編小説】この感情に名前をつけないで〜4〜(5話完結済)

  1. みーたんに出会った日→〜1〜

  2. みーたんと月を見た日→〜2〜

  3. みーたんのいない日①→〜3〜

  4. みーたんのいない日②
    いつもの教室。いつもの朝。
    登校すると絵梨花たちがいつものように談笑していた。
    「卒業式か…絵梨花、絶対泣くでしょ?」
    「うん!だってサニーと毎日会えなくなるなんて、辛すぎるもん!」
    「ちょっとウチらはどうなのよ」
    「うーん!フツーかな!笑」
    「あんたね―!笑」
    「あっサニーおはよう!!」
    絵梨花がいつものように抱きついてきた。
    「おはよ。なんの話?」
    「絵梨花がサニーサニーってうるさいってはなし〜笑」
    絵梨花がすぐに顔をしかめる。
    「ちょっと勝手にサニーって呼ばないでよ」
    「でた、絵梨花様専用〜笑笑」

    『そう、ついに明日が卒業式か…』

    涙は流れない気がしていた。みんななぜ泣くのだろう。
    寂しいから?毎日は会えないとしても根性の別れでもない。それに環境は変わっていくものだろう。しょうがない。そんなことは当たり前のことなのだ。そんな考えが浮かぶわたしは、寂しがり屋ではないだけなのだろうか。ただ単にひどく冷たい人間なんだろうか。

    急に加藤くんが浮かんだ。
    妙に鋭く見透かされた視線、、明日わたしの中のひどく冷たいところに気づくんじゃないだろうか。
    高校生活の最後の日にそんな汚点を残したくはなかった。上手く…上手く終えたかった。


    案の定だった。絵梨花をはじめ、よく一緒にいたメンバーは、卒業式が始まると1人2人と泣きはじめた。そして、歌を歌う頃には全員大号泣だった。わたしはなるべく悲しそうな表情をして、絵梨花たちを慰める役割りをすることでなんとか誤魔化した。

    その後教室で担任まで泣き出した。
    『何度も卒業生を見送っているだろうに』
    慣れたりしないものだろうか。

    解散となっても皆、写真を撮ったり大騒ぎして、なかなか帰ろうとはしなかった。
    一通り別れの挨拶は終えたが、この後絵梨花たちとカラオケに行くことになっていたので、教室の隅で待っていた。
    なんとなく気まずさを感じてトイレに行こうとすると、
    廊下で加藤くんに会ってしまった。
    「お前、泣かねーのな」
    「そっちこそ」
    「俺はまぁ…あいつらと仲良くねぇの?」
    加藤くんは絵梨花たちの方を指差して言った。
    「別に悪くないけど…どうせずっと一緒にいられるわけもないし」
    「深入りはしない?」
    「…そう」
    「お前そんなんで寂しくねーの?」

    『寂しいとはなんだろう』
    人は出会って離れていくものだし。もう大人にならないといけないし。

    黙っていると加藤くんは
    「まぁいいや、卒業おめでとな、お互い」
    とわたしの頭を一回ポンっと叩いて去って言った。
    その後ろ姿をただ見つめていた。

    『寂しい…?そんな感情とっくにどっかに置いてきたよ』


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