【短編小説】この感情に名前をつけないで〜3〜(5話完結済)
みーたんに出会った日→〜1〜
みーたんと月を見た日→〜2〜
みーたんのいない日①
高校3年、3月ー。
わたしは大舞台を前に緊張していた。
卒業式。
わたしはその日をうまく演じ切らないといけない。
小学生2年生に祖母の家に移り住み、田舎の学校で過ごした後、3年後に母が再婚。新しい父親は転勤族と呼ばれる職業で、わたしはころころと転校することとなった。
わたしはひどく臆病な性格だった。
どうせ来る、別れ。ならば深入りし過ぎず上手く…上手くやり過ごそう。早く自立したかった。自分の意思で住む場所を決めて、自分の居場を築きたかった。
愛想よく振る舞いながら、心には頑丈な壁を作った。透明で、だれも気づかないやつを…。
それが、父、ユキちゃん、みーたん、、数々の別れを経験したわたしの悲しみを2度と繰り返さない方法だった。
「お前ってなんかつかめないんだよな」
同級生の加藤くんに不意を突かれ、ドキッとしたことがあった。見透かされたような視線に固まってしまった。上手くやっていると思っていたのに!
「サニー♡ご飯たーべよ」
友だちの絵梨花がいつものように飛びついてきた。
わたしが絵梨花に出会ったのは高校2年で転入してきた時だった。ちょうど女子同士のいざこざで孤立していた絵梨花と2年の変な時期に転校してきたわたし。もうすでにグループは形成されていて、弾かれもの2人が友だちになるのは自然だった。
絵梨花はおとなしい子かと思っていたが、話すうちに、むしろ明るくてムードメーカーなタイプだとわかった。絵梨花はわたしと友だちになってみるみる元気になっていった。
しばらくして絵梨花がいざこざの原因になった子と仲直りをした。『お役御免かな』と思っていたが、絵梨花は私を離そうとはしなかった。周りの子にわたしがいかに素敵な子かを紹介してみせた。わたしは初めてクラスのヒエラルキーのトップグループに入った。(自慢したい訳じゃない。冷静に分析してそうなのである。)男子からも一目置かれる7人グループの1人になった。
絵梨花がわたしを『サニー』と呼び出したのはこの頃だ。後から仲良くなった子と同じ呼び方は嫌なんだそうだ。マンガだかアニメだかのキャラに似ているとのことだが、まぁ本名が「さ」から始まるのが1番の理由だろう。
絵梨花も特別なあだ名をつけて欲しいと言ったが、わたしはそれを断った。
「絵梨花」がすごく素敵な名前だからと言うと少し嬉しそうだった。
結局、絵梨花ちゃんと読んでいたのを呼び捨てにすることで妥協してくれた。
こうして、わたし=『サニー』が加わった。
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