年末番組にエンタメの終焉を見る
「テレビはオワコン」
そう言われて久しい。
28日、私は午前で内職の仕事を切り上げ、夜「オールスター合唱バトル」を見ていた。
番組の内容は下記の通り。
つまり年末暇めな芸能人を集めて、チーム対抗戦で合唱をし、音楽の専門家でもない審査員が各チームに得点をつけるという、いかにも年末番組って感じのやつだ。
なんでこんなの見たかって?推しが出てたからだよ!!!!!
というわけで初視聴。
我が家にはテレビはリビングに一つしかなく、19:00~21:54までこの番組を両親と見ていた。私の父親は音楽やパフォーマンスに厳しく、テレビでもなんでも「この人はここがダメ」「この人は暗すぎて見てらんない」など辛辣だ。私は音感はあまりない方だし、父親と違って芸を仕込まれた過去もないが、どの人が「良く」て、どの人が「良くない」かを見極める目は多少は身についている。
しかし番組での審査基準は「どれだけパフォーマンスが心に響いたか」という曖昧な何か。なるほど、通りでちゃんとした音楽家が審査員にいないわけだ。
最強ボーカリスト合唱団
トップバッターは「ちゅ、多様性。」様々なボーイズグループのボーカリストや歌手の絶妙なハモリと抑揚にプロみを感じ、審査結果は97点、99点、98点、98点、98点の合計490点。
まあ、いいじゃない。しかし宮本さんの「ライブとしては200点!」という絶賛ぶりに「じゃあなぜ100点をつけなかった?」と訝しむ私。
歌ウマアスリート軍団
彼ら、彼女ら以降は歌う人の紹介を兼ねてひとりひとりのソロが流れるのだが、この時点で父と私は「この人はちょっと違うなあ…」「この人は自分の声聞いてないなあ…」「これはダメだあ…」と普通に心配に。本番「第ゼロ感」は早速ハーモニーになっておらず、メロディはメロディになっておらず(そもそも合唱しにくい曲であることもあり)「おお…」ともはやコメントが出てこない。しまいにはメインとなる人がセンターに寄ってきて歌うのだがあまりの酷さに父は「あー」と嘆き、私は「どうしました??」と首を傾げた。
採点は98〜95点で合計484点。いやちょっと…耳おかしいんか?と思いながら審査員の「勇気付けられました」という謎コメントに私は動揺を隠せない。アスリートはスポーツで勇気やエナジーを届けるのがやはり一番だと再実感する結果となった。
Z世代アイドル合唱団
やはりハロプロが強い。たまにどうしようもない音感の子が混じっているが、まあ、なんとかなりそうな雰囲気。楽曲は「リンダ リンダ」。かもなく不可もなく、と思われたが3人がセンターに来てハモろうとした瞬間「ちがーう!!!」と私の雄叫びが上がる。「ダメだこりゃ。」と笑う父。
採点は99〜96点で486点。
ああ、わかってきた。これ全員このくらいの点数出し続けて「接戦です!」って演出するやつだ。もう嫌な予感しかしない。
ママ合唱団
紹介映像のアナ雪で音程が怪しい方がちらほら。実際の合唱もしっくり来ず、時折とんでもない音痴が飛び出す。しかし「アイノカタチ」という選曲もあり泣き出す出演者たち。泣きたいのはこっちだよ。違う意味でだけど。
採点は100〜97点と高得点。早くも最強ボーカリスト軍団を超えてしまう。「感動しました」「想いが心に響く」と大絶賛。
あ、そうか、これ音楽性めちゃくちゃでもいいんだ。
そういう趣旨でしたね。すみません。
ものまね合唱団
ここでちょっと雰囲気を変えてきたのがモノマネ芸人による「Love so sweet」。合唱にモノマネ芸を融合させだいぶ趣の違うものに仕上げてきた。合唱の趣旨からは外れるけど年末エンタメとしては面白いかもしれない。
採点は97〜98点で合計487点。まあ、点数がつけづらいというか、別ジャンルなのでもはやどうでも良くなってきた。
歌ウマ芸人合唱団
個人紹介を見る限り平均値は高そうだ。「Departures」にちょっと期待がかかるもやはり歌のプロではないからか、中央マイクに複数人がやってきてハモろうとすると突然お互いの音程を崩しあう。そこも含めて練習しようよ…お願いだよ…。こがけんは個人的にいい仕事をしていたと思う。英語は下手だったけどネイティブじゃないのでまあまあいいでしょう。
採点は100〜97点、合計492点と2位に躍り出た。審査員に文句を言いたくはないのだが職業が演出家の人が「ハーモニーも高音低音もコーラスも」べた褒めするのはなんだか盛大な勘違いがあるのではと思ってしまう。
演歌合唱団
さて、期待のかかる演歌合唱団。曲は難易度の高い「アイドル」。合唱になるのか?と思ったけど意外といいじゃない。「のらりくらり」など音程をあえて外す部分も不協和音にならないように外していて技術が見える。"Your're my saviour"のところも雰囲気出てていいじゃない。
採点が99〜100点、合計497点と堂々の一位に。まあ、これまで90点台しか出てないからね。100点出すしかないんじゃないか。
2曲目以降
もう詳細は書かない。
とりあえず番組史上初の洋楽というエアロスミスの"I Don't Want To Miss A Thing"のパフォーマンスが良かった。最強ボーカリスト合唱団による歌唱だったが、とにかく良かった。ハモリもアタックもリリースもソロも完璧だった。英語も相当頑張っていた。推しがいるかいう贔屓目でなく、年末番組のエンタメとして消費されるには惜しい。
審査員中1人が99点、4人が100点と高得点。なんの減点だと聞きたいがまあいいだろう。
興ざめするのが番組終盤。
歌ウマ芸人合唱団「オリジナルスマイル」と大トリ演歌合唱団「世界に一つだけの花」の一騎打ち。
歌ウマ芸人合唱団に審査員中1人が99点、4人が100点をつけ総合得点が991点で1位に躍り出た。そのあと演歌合唱団には審査員中3人が98点、2人が100点という微妙な配点で991点で同率1位に。
これにはX上の視聴者も「は?」「あー調整入ったな」「はいはいヤラセヤラセ」と不満げな反応を示す。中には「演歌合唱団の音程の正確さもわからない音感のない奴に審査して欲しくない」というツイートまで登場する始末。それはそう。
「演出」された接戦
初視聴なので例年どうなのかは知らないが最初から最後まで90点代後半連発は見ていてもはや退屈だ。何が「140人の芸能人が合唱で涙と笑いのガチバトル」だ。全然ガチじゃない。ガチなのは歌っているタレントだけだ。番組そのものは茶番だ。
まあそうせざるを得ないのもわかる。でなきゃ演歌合唱団と最強ボーカリスト合唱団の圧勝なのだもの。「どれだけパフォーマンスが心に響いたか」という審査基準もまあ良く考えたものだなと思う。音楽性を無視して高得点を与えられるのだから。しかしパフォーマンスというもは最低限のレベルに達していないと心に響かないのではないか?スポーツの大会で全然記録を出さない選手が感動を届けられるだろうか?
年末だからといって景気よく高得点続出でハッピーに終わりたいんだろうが、これでは誰もハッピーじゃない。「あえてやってる感」丸出しで、エンタメのテイをなしていないのだから。こういうところが「テレビはオワコン」たる所以の一つなのである。
でもなんだ。
番組のエンドロールで流れていたのは外でもない最強ボーカリスト合唱団によるエアロスミスの"I Don't Want To Miss A Thing"だった。
実質優勝という番組からの密かなメッセージかもしれない。
TVer
その目で内容を確かめたい方は以下のリンクからどうぞ。
前編
中編
後編