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第二章 薬屋の「懺悔」と転機,(四) 「食養」との出会い

アルファルファの健康食品を発売して、間もなくのことです。

ある日、西日本新聞をめくっていたら、安藤孫衛というお医者さんの記事が目に止まりました。

「この人、うちのお客さんじゃない?」という妻の指摘に、よく見ると確かにうちのお得意さんです。新聞記事は、食事の改善を基本にして健康な体を養う「食養(食養生)」の効能を説いたものでした。

この当時、国民皆保険制度のもとで、患者さんに対する薬漬けや薬害の問題が深刻化し始めていました。現代の医療や薬品業界はこのままで良いのだろうかと、私の気持ちの中でも疑問が膨らみ始めたころでした。その記事を読み、こんな素晴らしい先生が近くにいらっしゃるなんてとワクワクし、さっそく話をうかがいに行きました。

◎「医・食・農」をつなぐ

安藤孫衛先生は、福岡市中央区梅光園で開業しておられた医師(医療法人あんどう医院院長)で、平成二九年に九九歳でお亡くなりになりました。

「ひとの健康の基本は、食生活にあり。急性病は注射や薬で治るが、慢性病は食事による予防が大切」というのが安藤先生の持論です。

先生は「病気を治す力は自然治癒力で、医師や薬は手助けにすぎぬ。この力を増すものは健全な食と運動と精神である」というギリシャの医聖・ヒポクラテスの言葉を、自らの指針として掲げ続けました。これらの言葉は、どこか益軒先生の遺訓と共通していませんか。

安藤先生は生前、「自然食の会」を主宰して食養の実践と普及に努め、自ら田んぼや畑に出向いて農産物の生産や流通改善にも尽力されました。「医食同源」という言葉がありますが、まさに「医・食・農」をつなぐコーディネーターとして、食の世界に大きなうねりを起こした運動家です。

先生の著書には『カラダに嬉しい自然食』(文芸社)『いのちを守る健康食入門』(西日本新聞社)などがあります。

安藤先生が掲げる健康食生活の基本は「5・1・1・3」食。未精白米(玄米)5、魚介類1、大豆1、野菜・海草・発酵食3というバランスを考え、「生まれ育った土地の食材を使い、旬の食べ物による食生活をしましょう」という奨めです。これが「身土不二(しんどふじ)」と呼ばれる考えです。

身土不二 身(身体)と土(自然環境の根源)は一つであり、二つに分けられない密接な関係を持っているという思想で、仏教用語の身土不二(しんどふ に)から導かれた食養運動のスローガン。人間の身体も自然環境の一部であり、自分が住んでいる土地の気候風土に適応して生育する動植物や微生物を旬の時期に食べることが摂理であるとする。安藤孫衛医師も「自分が住んでいる所から十里(約40キロ)以内で生育しているものを食べていれば病気をしない」という伝統的な言い伝えを「安藤流食生活」の根本として提唱した。

◎新しい世界の入口に

安藤先生と出会って、先生が主宰する勉強会のお手伝いなどもするようになりました。

あるとき、肝硬変で余命いくばくもないといわれた人が、先生の食養の指導を受けてみるみる改善して行く姿を目の当たりにし、「こんな世界があったのか」とあらためて思い知らされました。

世の中には、薬がよく効く病人もいれば、あまり効かない人もいます。病気は何でもかんでも薬で治すという考え方そのものに問題があるのだということを実感し、食生活の問題を通して農業の世界にまで関心領域が広がりました。

有機農業研究会などにも顔を出すようになり、自分自身も玄米食の生活を始めてみました。味覚が変わり、食べ物の好みが変わり、お通じがよくなって、日に日に体が変化して行くのが分かりました。

◎二木博士と玄米・菜食

さらに、安藤先生が副会長を務めていらした日本綜合医学会のお手伝いもするようになり、活動の場が全国レベルへと大きく広がって行きました。

日本綜合医学会は昭和29(1954)年に設立され、医療従事者や薬品・食品業界の関係者、栄養士、農業生産者ら幅広い層の人たちが、食養を広めるために活動してきた団体です。

初代会長を務めた二木謙三(ふたきけんぞう)(故人)博士は、東京大学名誉教授を務めた医師で著名な細菌学者。93歳まで健康を保持し、玄米を1合か2合と菜食、果物と肉なしの食事で玄米・少食を貫きました。「二木式腹式呼吸法」を実践し、よる12時に眠って午前3時に起き、2時間歩くのが日課だったそうです。さすがに凡人の私はそこまで真似はできませんが、先生が提唱されたことは私の心に響きました。

二木博士は、「食の原点は生きた命をいただくこと。生きた食材は完全栄養食である」と説き、玄米・イモなど自然が貯蔵したものや生きたままの種子、小魚を丸ごと食べることなどを推奨しました。

今では、二木博士が現役の時代とは食材や社会環境も大きく変わっていますが、玄米・菜食、少食主義の原則は今も生き続けています。私は、昭和9年発刊の二木博士の著書「なぜ玄米でなければならないのか」をバイブルのように愛読し、玄米食の奥深さを知りました。

こうして、綜合医学会の活動に深く関わるようになり、九州部会を設立して事務局を担当しました。平成4(1992)年には、福岡市では初の全国大会となる第45回大会開催にこぎつけることができました。 

◎土にも目が向いて

総合医学会のご縁で、食の問題から農業のあり方にまで視野が広がるにつれ、土壌成分などにも関心が向くようになりました。

昭和30年代、農家から、農薬や化学肥料を使っても病気が治らず収量も上がらないという相談を受けたことで、本格的に農業の研究を始めた中嶋常允(とどむ)氏(土壌診断と土づくりを重視する中嶋農法の創始者、理学博士)と出会い、たくさんのことを学びました。

中嶋先生は、研究を重ねるうちに、土が劣化しているために美味しい作物が作れないことに気づいたそうです。特に、多量要素の過剰と微量要素の欠乏が作物を不健康にしていることに着目して土を分析し、栄養バランスを整える手法を開発して、各地で説いておられました。

土壌が健全であれば、作物は生き生きと育ちます。土壌とは単に岩石が風化したものではなく、多くの生物が生命サイクルを維持する場として関わりながら作り上げたものです。

ミネラル・微量元素が含まれている土の中には、さまざまな微生物が棲んでいます。土の中の微生物は、餌になる有機物によって繁殖し、植物や動物の死骸を有機・無機の成分に分解して土を肥やしているのです。

有効な微生物がしっかり働ける環境(土壌)があってこそ、元気でおいしい、ミネラル成分豊かな作物が育つのです。だから「作物の質は土の良し悪しで決まる」というのです。

ところが、実際に多くの店頭で売られている一般の野菜はどうでしょう。生産性を上げるため、化学肥料や農薬をしっかり使うことで土の中の有効な微生物まで殺してしまっています。例えば、有機肥料を使っていた昔のニンジンに比べて、今のニンジンはβカロチンなどの栄養成分が減っていると指摘されています。

中嶋先生が「土壌の健康は人間の健康につながる」と力説しておられたのは、まさにこのことだったのです。

さらに、たくさん化学肥料を使い、土の環境を変えてしまったために、多くの畑では、農薬をかけて育てないと害虫や病気で倒れてしまう弱い作物しかできなくなっているのです。

お腹は大地 ?

◎すべてが繋がっている

これを知ったとき、「あれ、何か似ている」「そうだ、人間の病気と似ている」と気づいたのです。

動物は、大地をお腹に抱いて動けるようになった生き物だと言われています。痩せた土地には微生物は棲みにくくなり、作物も弱くなって、実は充実しません。これと同じように、人間の体の土(=腸内環境)が痩せてきたら、良い腸内細菌は棲みにくくなり、人間も弱くなっていくのです。

ああ、大地と腸は同じなんだ」と、モヤモヤしていた頭の中がスッキリと晴れ渡りました。またその一方で、「繋がっている」からこその弊害も見えてきました。

化学肥料で育てる土は、ミネラル・微量元素が減り、成分も偏っています。その結果、野菜が土から取り込む微量元素も少なくなります。さらに、それを食べる人間もまた、微量元素が少なくなってしまいます。

当然、ミネラル・微量元素が使われる体の中のホルモン生産や代謝が低調になり、体調不良に悩む人が増えてきます。全ては、繋がっていたのです。

足りなくなったミネラル・微量元素を、健康食品(サプリメント)の形で体の中に補給してやれば良いのではないかという考えは、まさに「天の声」だったように感じました。

見事な芝桜

ミネラルと微量元素 人間の体を構成している元素のうち、酸素、炭素、水素、チッ素を除いた元素をミネラルと呼び、その中でもごく少量しか存在しないものを微量元素という。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2015年版)によると、人間が生命活動に欠かせない主要な微量元素は鉄、亜鉛、銅、クロム、モリブデン、マンガン、セレン、ヨウ素など。このうち、鉄分は血液中のヘモグロビン生成に関わり、亜鉛はさまざまな酵素やタンパク質の構成要素、ヨウ素は甲状腺ホルモンの主成分など、いずれも成人一日の摂取量は数㎎~10数㎎単位の微量ながら大きな役割を果たしているのでした。

次回は

第三章 自然治癒力を高める
(一) 微量元素の大きな役割です。  お楽しみに
Alfalfa Series
https://www.youtube.com/watch?v=J32dAI_7lSc


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