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30歳手前の女が、初めて母の胸で泣いた話。


私の母はスーパー仕事人間である。


50代半ばになった今でも昇進を続ける彼女に、なぜ上を目指すのか聞くと「目の前に山があるから。」と返された。

保育園のお迎えはいつも最後。待ちくたびれる私に、先生は給食の残りを食べさせてくれていた。
学生になっても変わらず帰宅の遅い母の代わりに、夕飯は近くに住む祖母が作ってくれていた。


そんな私も今年母親になったのだが、思い返すと昨年の夏は重い悪阻に苦しんでいた。

仕事は何ヶ月も休職し、点滴に通った。
酔うため携帯やテレビの画面を見ることもできず、1日中窓から空を見て過ごす毎日。
筋肉も衰え、とうとう壁伝いでないと歩けないようになってしまった。

ついこの間まで出来ていたことが何一つできない。サポートしてくれていた旦那も疲れ果て、私は実家に戻った。

その日、私はしんどさがピークに達していた。

小さい頃から「心配をかけたくないし、仕事が忙しくて私に時間をかける余裕もないだろう」と、辛いことがあっても隠し通してきた私だが、この時ばかりは心身の限界を感じ、一世一代の勇気を出して母に助けを求めてみたのである。


「お母さん...」と涙声の私を見て、母はすぐに抱きしめてくれた。私は初めて母の胸で泣いた。


#夏の思い出

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