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03,ディーワ・クアエダムの秘薬

何かに、迷った。
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シリーズもの3曲目です。
妖精たちに伝わる秘薬作りをイメージして書きました。神秘的かつちょっと物悲し気なメロディになって満足です。
以下この曲の物語。
「失礼するよ、…今日もすまないな。
さすがに10日も経つと家が心配になってきたよ。…あぁ、大丈夫だ。俺は独り身なんでね。家で飢えているやつはいないさ。ただ、何か盗まれていないか心配なだけだよ。
此処が寒いとは噂で聞いていたが、ぶっ倒れる程とは思ってもいなかった…。あんたに拾われなければあのまま凍り付いて死んでいたかもな。
お、その手にあるのは酒か。…悪いな、頂くよ。しばらく酒も煙草も控えろとここの医者に言われていたからな。今は大丈夫だ。体力も戻っているよ。
…随分と甘い酒だなぁ。あんたの故郷の酒なのか。あんた強いんだなぁ、すぐ酔っちまいそうだよ。

そういえばこの間来た女。ほら、あのカーディガンを羽織った女だよ。昨日城から出ていくのを見たんだよ。随分良い顔してたじゃないか。来た時は今にも死にそうなほど憔悴しきっていたのに、生まれ変わったようだったよ。それもあんたの力なのかね。…なぁ、その力で俺の事も救ってくれないか。俺もあの噂を頼りに此処に来たんだ、知ってただろ。

俺は猟師だったんだ。毎日狩りをして売って暮らしていた訳だ。
だが、毎日必ず狩れる訳じゃない。良い獲物が見つかっても逃げられる事なんてしょっちゅうだ。運が悪けりゃ数日狩れない日だってある。俺は考えた訳だ、何かいい方法は無いかってな。手間なく獲物が獲れる確率を上げる方法。
答えは旅人が教えてくれたよ。うちの近辺じゃよく取れる雑草を使った痺れ薬だ。あれが薬になるなんて、俺は知らなかったよ。乾燥させたら適当な食用粉に混ぜて固めて団子にするだけで良いんだ。量もなにも考えなくていい、簡単だろ。乾燥した状態の草が口に入ることが大事なんだそうだ。
俺はそれを大量に作って狩場に撒いた。効果はすぐ出たよ。数年は食事に困らない程度の稼ぎを得たんだ。…暫く、あの近辺で動物を見なくなったがな。
そこまでは良かった。…問題はその後だ。俺の狩場の森で子供が行方不明になったんだ。最初は家出か何かだと思ったが、どうやらそうじゃない。消えた子供の母親がいろんな奴に聞いて回るもんだから俺も消えたときの状況を詳しく知れたんだ。
…被るんだよ、俺が痺れ薬を撒いた場所とさ。直感したね、子供はきっと痺れ薬を食べたんだ。あれは菓子の団子にも見えるからな。俺がせっせと獲物を漁っている間に、子供は落ちている団子を拾い食いしたんじゃないかな。…考えすぎじゃないんだよ。…見たんだよ、倒れている子供を抱えてどこかに消える人影を。最初は死んだ子供を森に埋めに来た貧しい家のやつかとも思ったが、子供の行方不明の話を聞いた途端はっとしたんだ。
やっちまった、って思ったよ。このまま役人に俺が森に撒いた痺れ薬の事がばれれば…俺は捕まるんだろうなぁ。俺はきっと子供を誘拐した変態と決めつけられて牢屋に入れられるんだろうよ。そういうやつが看守にどう扱われるか知ってるか。
…あいつ等、子供に対して罪を犯した奴には容赦がないからな。苦しめられて殺されて、自殺か何かとして処理されて終わりさ。
なぁ、俺を助けてくれよ。まだ、死にたくないんだよ。」

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