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自称無法者『われら闇より天を見る』クリス・ウィタカー

ラジオで紹介されているのを聞いて知りました。いま現在、表現できるハードボイルド小説の形というのを聞いて興味を持ち購入しました。


『われら闇より天を見る』クリス・ウィタカー 鈴木恵訳


私の予想する話の展開を裏切っていき、もう感心するするほどの物語が進んでいく最高に面白い小説でした。

ケープ・ヘイブン警察署長のウォーカーが注目登場人物です。彼はアガサ・クリスティの『ポケットにライ麦を』に出てくるロンドン警視庁ニール警部の役回りをしていきます。捜査をしていくのですが、彼の中で結論が出ているので捜査というかどうかは怪しいですが。街の連中すべてにいい顔をするので話が進まないのがもどかしい、本当にこの人は私だなあと思いながら読みました。元恋人とにケツをたたかれやっと気合が入るところは感動です。

あと、主人公のダッチェスのキャラクターがものすごく良いです、自称「無法者」。いじめっ子や近所のくずな大人たちに言うことがいちいちすごいのです。「こんどうちの家族のことを口にしたら、首を切り落とすからな、このチンカス」「あたしは無法者なんだよ、あんたは法律側の人間だろ、だったらとっとと帰れよ」「あんたが少しでもものを知ってれば、あたしが天使とはまるで逆の存在だってことがわかるはず。もう口を閉じて前を向けよ」ダッチェスが理想とする家族になるには程遠い人間たちには絶対に迎合しない、強い意志がそう言わせるのでしょう。絵本の『かいじゅうたちのいるところ』のような理想の家族になるために。

ダッチェスのエピソードで特に好きな箇所があります、祖父のハルに拳銃の打ち方を教えてもらい、その後に芦毛の馬を撫でるところです。「ダッチェスは黙っていた。会話に引きずり込まれたくなかった。自分を毎日生かしてくれる怒りを失いたくなかった」とあります、何度も大人に裏切られてきた経験がそう思わせるのでしょう。言葉とは裏腹にハルの胸の中で眠りにつくところは様子が目に浮かぶようです。ウォーカーの頑張りでミステリー部の話が展開する一方で、ダッチェスは自分の家族の真実に気づいていきます。

そしていいキャクターNO.1のトマス・ノーブルが出てくるところはすべて楽しいです。教会で出会うところ、学校での再開、ダンスパーティに誘うところ、いじめっことのけんか。ダンスパーティで2人が踊る箇所は特に最高です。

『「あんたは25センチのマラの持ち主だって」

トマスは肩をすくめた「それじゃ四分の一だよ」

ダッチェスは笑った。心から笑った。それがどれほど気分のいいものか、久しく忘れていた。』

2人が肌の色や、裕福であるか貧乏か、醜いか美しいか関係なく惹かれ合うことができるからこのような美しい描写が生まれるのだと思います。

ダッチェスにとって地獄と言える街ケープ・ヘイブンにいる大人たちはすべてくずだらけです。ただ、母親のスター、スターの幼馴染に男たちウォーカーとヴィンセント、祖父のハルはくずのフリをしています。ダッチェスは無法者になるのに必死でそれに気づくことはすぐにはできません。皆がダッチェスのために生きてることを。

事件後、ケープ・ヘイブンを出てカリフォルニア州からアイダホ経由して向かうモンンタナ州エバーフォールズへの旅は地獄からどぶ川への旅と言えます。
「片付けなくちゃならない用事があるの」とトマスに別れを告げカリフォリニア州ケープヘイブンへもどるダッチェス。モンタナ州から自転車・バス・ヒッチハイクで南に向かう、ユタ州を経由して進む地獄への旅。この旅でダッチェスが得た最大の成果は弟ロビンをやっと見限ることができ、弟離れができたことでしょう。





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