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2018年にスティーヴン・キングの『ダークタワー』を読み、それからキングの小説を中心に…

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2018年にスティーヴン・キングの『ダークタワー』を読み、それからキングの小説を中心にアメリカ文学を読んでいます。

最近の記事

読書日記2024年5月18日〜6月2日

静岡から千葉へ日帰り旅行をしました。旅費を節約するために小田原から新宿まで小田急線急行で行きました。途中までは車窓がおなじような田舎の風景、途中からはなれない混雑した車内からは車窓を眺める余裕はありませんでした。その旅のお供は『フラニーとズーイ』です、なにかすっきりとしない心の中をさらにもやもやとさせてくれたすばらしい読書体験でした。 購入した本屋はアウトドアと旅の本が同じ棚に並んでいます。『パタゴニア』は自然の中を移動して現地の過酷な自然を伝えてくれる本だと思い込んで購入

    • フランシス・ホジソン・バーネット『小公子』『小公女』『秘密の花園』

      本屋に行ったら新潮文庫のところに『小公子』『小公女』『秘密の花園』が揃っていました。読んだことはないですが、ものすごく有名で揃っていたことになんとなく運命を感じて購入することにしました。3作品とも児童文学というくくりだと思います。小公子は川端康成の訳が子供向けにしてあるからそんな感じですが、『小公子』『秘密の花園』は児童文学というくくりが必要ではないおもしろい小説でした。翻訳者が違うことも影響しているのかもしれませんが、『小公子』は大人の世界に子供が紛れ込んだようなかんじがし

      • メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』

        知っていそうで知らなかったことランキング小説部門でたぶん一位になる小説『フランケンシュタイン』を読みました。『フランケンシュタイン』は怪物の名前ではなく、怪物を創造したヴィクター・フランケンシュタイン博士の名前だというのは有名ですが、それだけではありませんでした。映画はみたことはありませんが、写真等で青白い顔をした無表情な白人大男というイメージはあります。そして藤子不二雄Aによるマンガ『怪物くん』からの影響が大きくあります。ドラキュラやオオカミ男からは一歩ひいた立ち位置なので

        • 読書日記2024年5月7日〜17日

          15年ほどまえに死んだ母親の生家に行ってきました。名鉄本宿駅からくらがり渓谷行きバスにのり30分ほど、千万町口バス停で降りてからほぼ上り坂30分でたどり着いたのが千万町です。母親の生家におばといとこがいたのですこし話をしたりしました。 その旅のお供はスコット・フィッツジェラルドの『グレード・ギャツビー』です。『ホテル・ニューハンプシャー』にこの本が登場してくるのですが、美しいラストというふうに書かれていたので読むのを楽しみにしていました。 ラストの部分です。ここのことでしょ

        読書日記2024年5月18日〜6月2日

          ケルアックとブローディガンの『ビッグ・サー』

          ジャック・ケルアックとリチャード・ブローディガンという二人のアメリカ人作家。ふたりの共通点は1960年頃にサンフランシスコに住んでいたことです。そして題名に『ビッグ・サー』とつく小説を執筆していることも一緒です。ビッグ・サーはカリフォルニアの地名で訳者藤本和子さんによると「あるときは点を示し、またあるときはカリフォルニアの太平洋沿岸に沿って細長く帯状にのびる土地、モントレーからサン・ルイス・オビスポまでの広がりをいう。」とあります。 リチャード・ブローディガン『ビッグ・サー

          ケルアックとブローディガンの『ビッグ・サー』

          『愚か者同盟』ジョン・ケネディ・トゥール

          いつも本を借りる市営図書館の新刊がおいてある棚で見かけたのが最初です。ピンクのカバーに『愚か者同盟』というタイトルでインパクトがかなり大きい、そしてあらすじも「警察にも追われるようになったイグネイシャスは、一癖も二癖もある奇人変人たちを巻き込んだり巻き込まれたりしながら逃亡劇を繰り広げ、ニューオリンズの街に大騒動を巻き起こす」とおもしろい予感しかしませんでした。 木原善彦さんが翻訳している本は難しいという印象があるので、最後まで読めるのか心配でした。でもイグネイシャスという

          『愚か者同盟』ジョン・ケネディ・トゥール

          トゥーサン版『ルバイヤート』オマル・ハイヤーム

          フランツ・トゥーサンによる仏語散文訳オマル・ハイヤーム作『ルバイヤート』を邦訳した詩集です。なんの前知識もなく題名だけで購入しました。まずは表紙がかわいかったです。 オマル・ハイヤームは現在のイラン北東部にある都市ニシャーブで生まれたそうです。イスラム教徒らしいのですが、やたらと酒を飲む内容の散文が多いという印象です。イスラム教徒はアルコールだめだったような気がするのですが、こうゆうのは時代がたつにつれて厳しくなることもあるし緩くなることもあるのでしょう。宗教の解釈は結局ひ

          トゥーサン版『ルバイヤート』オマル・ハイヤーム

          フラナリー・オコナー『賢い血』

          主人公のヘイゼル・モーツはたしかに奇人だが、それ以外のひとびとはあんがいどこにでもいる普通の人々ではないかと感じました。フラナリー・オコナー独特のフィルターでみるとどんな人間でも悪意や欠点が際立って見えてくる、そんなフラナリー・オコナー節満載の小説でした。 フラナリー・オコナーにとって主人公のヘイゼル・モーツはイエス・キリストの再来をイメージしているのでないかと感じました。幼少のころ、祖父の説法を聞いたヘイズは「イエスを避けるためには罪を避けなければならない」と考えます。そ

          フラナリー・オコナー『賢い血』

          馬伯庸『両京十五日』

          ハヤカワ・ミステリ2000番特別作品。 「南京から北京、15日で1000kmの決死行。華文冒険小説の一大傑作」と紹介されているのをみて興味をもち購入しました。 紹介文のとおりにおもしろい冒険小説でした。明の時代を舞台にしていますが、皇太子朱せん基と下っ端役人五定縁がタメ口で喋るところからも歴史考察を重点としていないところが良いです。内容としては『ロード・オブ・ザリング』とまではいかないけど『ホビット』くらいのスケール感があります。 中国の歴史、広大な大地、長すぎる長江を反

          馬伯庸『両京十五日』

          遅子建『アルグン川の右岸』

          物語の舞台は現在の内モンゴル自治区最北端でロシアとの国境付近になります。自然とともに暮らしているエヴァンキ族、主人公の「わたし」が幼女から90歳になるまでのウリレンと呼ばれる集団共同体に集う人々の生きざまを語っていきます。 数々の強烈な印象を残すエピソードが次から次へと出てきます。私が最近読んだ小説だと、ジョン・アーヴィングの『あの川のほとりで』や『オウェンに祈りを』を思い出せてくれます。人種も物語の舞台も全く違いますが、家族の物語でもあるのでそう思ったのかもしれません。そ

          遅子建『アルグン川の右岸』

          創元推理文庫名作ミステリ新訳プロジェクト『二人で探偵を』アガサ・クリスティ

          トミー&タペンス『秘密組織』に続くシリーズ第二作目が新訳で出版されました。一作目はクリスティの小説のイメージとはちがう、若さやあぶなかっしさにあふれたとても楽しい小説でした。ポアロやマープルの有名な小説は全部を読んではないのですが大好きな小説が何作もあります。人間それぞれにプライドがあり、その一方でひた隠しにしている欲望もあります。その欲望が隠しきれない状態になったときに、勝敗を分けるのが人間の格であることがわかってきます。トミー&タペンス物はそうゆう重苦しさから全く逆の古い

          創元推理文庫名作ミステリ新訳プロジェクト『二人で探偵を』アガサ・クリスティ

          『レッド・アロー』ウィリアム・ブルワー

          レッド・アローというのはイタリアを縦断する特急列車の名称だそうです、さらに物理学のなかでは時間の流れを表す記号をさすことばになるそうです。その2つは当然物語のなかにでてくる事柄になります。 あらすじはというと主人公のぼくがまったくの偶然で出版することになった『ボーイスカウト』という小説がまぐれ当たりをします。そして、次回作として1995年にウエストバージニアでおきたヘキサシクラノール9がモノンガヒーラ川に流出した事故を題材にしますが、主人公のぼくには小説を執筆するつもりがま

          『レッド・アロー』ウィリアム・ブルワー

          『ハリケーンの季節』フェルナンダ・メルチョール

          メキシコのどこかにあるラ・マトサという村にいる魔女が殺され死体が発見される。犯行現場近くにいたジェセニア、そのいとこのルイセミ、ルイセミの母親チャベラ、そのヒモであるムンラ、そしてルイセミに助けられたノルマという少女がそれぞれ語っていくうちに魔女が殺された経緯が少しずつあきらかになっていくという物語です。 登場人物がスマホを使用していることから現在の話であることがわかるが、それなのに魔女がでてくるというのはどういうことだろうか。登場人物がすべてアウトサイダーであり、ドラッグ

          『ハリケーンの季節』フェルナンダ・メルチョール

          『少女、女、ほか』バーナディン・エヴァリスト

          題名だけで読んでみようと思い、いつもいく本屋に在庫があったので購入しました。予想より本に厚みがあって(518ページ‼)躊躇したのですが、西加奈子さんの推薦文に後押しされて手に取りました。本の帯にはこうあります「何世代ものイギリス黒人女性たちがたどってきた可笑しくて哀切、心揺さぶる物語、ウィットに富んだ鮮烈な文体で語る」。フェミニズムが強すぎて物語としておもしろくないといやだなと思ったのですが、杞憂に過ぎなかったです。どのエピソードもユーモアがあり、どの登場人物も弱さだけではな

          『少女、女、ほか』バーナディン・エヴァリスト

          『サンセット・パーク』ポール・オースター

          ニューヨークのサンセット・パークにある廃墟のビルに不法滞在する若者四人。マイルズ・ヘラー、ピング・ネイサン、アリス・バークストロム、エレン・ブライスが何者でもない若者がなにかを為し得てやろうともがく姿が描かれています。 四人はそれぞれ思惑があって一緒に生活をすることになります。結局、自分が大事で他人のことはかまってられないというのが本音かもしれません。それぞれの他人との関わりあいかたが微妙な距離感を持って描かれています。 ピングが一人で喋って、マイルズが聞いているんだかど

          『サンセット・パーク』ポール・オースター

          『トミー・ノッカーズ』スティーヴン・キング

          主人公のジミー・ガードナーは詩人でアルコール中毒で元妻を拳銃で撃ち殺しかけた男。キングの小説でアル中が登場することは多いが、今回は主人公に抜擢されています。 ジミー・ガードナーはしがない詩人でドサ回りの詩の朗読会(ニュー・イングランド・ポエトリー・キャラバンというあまりメジャーでなさそうな名前)に参加して日銭を稼いでいます。自分の番が回ってきてもまったく詩が浮かんでこないガードナーの脳内にメイン州ヘイブンから元恋人で唯一の友人であるボビ・アンダーソンからのテレパシーのような

          『トミー・ノッカーズ』スティーヴン・キング