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『終わりなき夜に少女は』クリス・ウィタカー

傑作少女少年サバイバル小説だった『われら闇より天を見る』のクリス・ウィタカーの小説がでたので、読むしかないと購入してきました。読み終わってからわかったのですが、最新作ではなく邦訳最新刊ということでクリス・ウィタカーの第2作品目の小説でした。

主人公の3人の少女少年が乗る乗用車はビュイックです。ビュイックは自動車のブランド名でそれ以上の詳細な記述はありません。スティーヴン・キングも『回想のビュイック8』という小説を掻いていますし、ビュイックというのはアメリカ人がつくるアメリカ人のための車ということなのでしょう。特に良くも悪くもないごく普通の自動車ということで小説には登場しています。

アラバマ州のグレイスという田舎町に起こる少女の連続誘拐事件、鳥男と呼ばれる怪人が犯人と噂されています。鳥男の5番目の被害者のサマー・ライアンを中心に物語が進んでいきます。サマーの事件発生までの回想、グレイス警察署長のブラックが事件によって分断する町で行う捜査、サマーの双子の妹レインと同級生のノアとパーヴが行う捜索が交互に語られていきます。

ノア運転するビュイックにレインとパーヴが同乗して街の中を走行するシーンが印象的です。ノアが運転免許を持っていないので夜間の走行になります。暗闇のなかにぼんやりとした明かりのなかに浮かぶ3人の姿、それは地獄行きが確定した棺桶のような印象をもちます。サマーに事件がなければ田舎町からカリフォルニアに向かっていたかもしれない車と考えると運命の悲しさを感じます。

三人の関係性が面白い。レインに恋心をいだくノア、それを知っているのにノアを罵倒するレイン。なんか青春だなという感じがします。

「あたし、感じるの。自分の人生が変わり始めているのを、あそこで何か悪いことが起きているのを。あんたはだいじょうぶ。あんたとパーヴは、家庭に問題を抱えているかもしれないけど、そんなの大したことじゃない。いつか終りが来る。あたしの闘いはあんたたちのとはちがう。もしかしたらあんたは、あたしと仲よくなったつもりかもしれない。あたしに親切にしてくれるみたいだし、それこそあたしが必要としているものだしね。でも、あんたはわかっていない。あんたたちは。あたしはサマーがいないとだめなの、必要なのはサマーだけ。」

早川書房『終わりなき夜に少女は』P287

ノアとパーヴはそれぞれ問題を抱えているが、それを口にださずにレインを支えようとします。それはレインのサマーを失い一人になってしまうという恐怖が、レインがいくら強がっていても分かるからなのでしょう。二人は弱い人間であるとわかっているからこそ、レインの気持ちが分かるのだろう。ノアとパーヴがは頑張っているがなかなかレインに信頼されないところももどかしく面白い点です。

3人だけではなくレインとブラックも閉鎖的なアメリカの田舎町で変わろうともがいています。事件の発生によって住民の人生が大きく変わっていく様子が伝わってきました。クリス・ウィタカーの第三作『我は闇より天を見る』とにている箇所もいくつかあり、同じ作者の小説だなと感じました。偉大な作家になっていく過程を垣間見ることができた読書体験と言えるのではないでしょうか。




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