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リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』を読みました


リチャード・ブローティガンの小説は『アメリカの鱒釣り』『西瓜糖の日々』を読んだことがあり、今作が3冊目になります。原題の『The Abortion』は中絶・堕胎の意味で小説の中にもその行為が出てきます。

リチャード・ブローティガン
『愛のゆくえ』
青木日出夫訳

主人公が1人で勤務する図書館の住所サンフランシシコ・サクラメントストリート3150をグーグルマップで検索すると「プレシディオ・ブランチ」という公立図書館が実際に存在することがわかります。小説の図書館は世間の人々が書いた書籍を持ち寄る場所で普通ではありません。

どのような本が持ち込まれるかというと。
チャールズ・ファイン・アダムズ婦人著『ホテルの部屋で、ロウソクを使って花を育てること』
といようなおよそ流通されることがない変わった本が持ち込まれます。

図書館に働くという口実で引きこもる男はリチャード・ブローティガン本人なんだなと思います、世間と距離をとって生きている男。持ち込まれる本は男が世間と通じる唯一のものになります。だから逆に表現されているんです、世間一般の方をおかしな人間みたいに表現して、実際には世間とずれている男を常識人みたいに表現しているんです。

ヴァイダという恋人によって徐々に図書館から外の世界へ引き出されていく男の物語です。ブローティガンは色々こまかいことが気になるようで、ヴァイダの堕胎のためにメキシコに行くんですがなかなか進みません。タクシー運転手がチップに不満な顔をするのが2回も、堕胎シーンも3回でてきます。

ブローティガンの小説ではおなじみの笑える箇所もたくさんあります。私はヴァイダがコーヒーを入れるところが一番笑えました。
「ヴァイダはすべてを見つけ、まるでご馳走を準備するようにコーヒーを作った。インスタント・コーヒーのカップにこれほどの気配りと熱意を注ぐのを見たことがない。まるでインスタント・コーヒーをいれるのをはバレエのようで、彼女は、スプーンとカップと水差しと鍋いっぱいの熱湯のあいだでピルエットをしているバレリーナのようだ。」こんな感じです。

ブローティガンも図書館に『オオジカ』という本を持ってきます。内容は書かれていませんがアメリカに関するようです。ブローティガンは主人公の男に「あなたは私に似ていますね」と言ってもらいたかったのではないだろうか。


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