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読んで、書いて、また読んで、書いて。


息を吸ったら、吐き出したくなるように。

本を読んでいると、吸い込んだなにかを、吐き出したくてたまらなくなるときがある。


ページをめくりながら、一文字ずつ目で追っているのに、ふと息が止まっているのに気がつく。
目が、字の上を滑っていく。
上っ面だけ読んで、なにも頭に入ってこない。
そうなると、もう読書はストップだ。


立ち止まって、一旦吐き出そう。
息を吐いて、すぐ携帯を手に取る。

メモ欄を開いて、頭のなかに浮かんでいたことを、すべて書き出す。
それは、過去のことであったり、いまふと考えた思いつきだったり、ぜんぜん違う本のことであったりする。

とにかく、浮かんできた言葉や情景を、逃さないうちに、すべて書き出す。
ポツポツポツ。
携帯に文字を打つ音だけが、部屋に響く。


そうやってできあがったものは、あわてて書いたのでちぐはぐな文章だったり、途切れ途切れの切れっぱしだったりする。
でも、それでいい。

それらがつながり、まとまり、わたしの頭や心の中のものと結びついていって、日記や、創作や、noteの記事になっていくのだから。




こんな読み方をしているせいで、最近は一冊を読み終わるのに、時間がかかる。

とても短い文庫本でも、一気に読み終えることができない。
読み飛ばせば、速いんだろう。
一気に読むと決めてしまえば、途中でどんなことが思い浮かんでも、無視して突き進める。


でもそれだと、もったいなくて。

今日その本に出会って、その文章を読んだからこそ、浮かんできたものだから。
もう次に思いつくことは、ないかもしれない。

そう思うと、早く続きを読みたくても、一旦手を止め、紙面から顔を上げてしまう。
思考をついつい、追いかけてしまう。

だから、読み終わるのが遅い。
一夜で読めそうなものが、読めない。


その代わり、メモ欄の下書きはドドっと増える。
そこに書いてあることは、翌日には「くだらない」と思うようなことだとしても、noteの記事には役立たないとしても、読書から得た成果のかたちのようで。
宝物がならぶみたいで、すこし嬉しい。




島田潤一郎さんの『長い読書』
を、読み終わった。
この人の本は、わたしを静かなところへ連れていってくれる。


皆が寝静まった、夜。
食洗機がまわる音だけが、聞こえる。
布団に寝そべって、オレンジ色のほのかな灯りのもとで、本をひらく。

ひっそりとした、空気を吸って、文字を読む。
おもわず、息を潜める。

読みながら、何度も手を止め、メモを取った。
思考や思い出の海に浸り、また現実に舞い戻って、ページをめくり、読み続けた。


読み終えたあと、なんだかすごく、もったいない気持ちになった。

ああ、終わってしまったな、って。
前回の『電車の中で本を読む』もそうだった。

読み終えるのが惜しくて、この時間が終わるのがイヤで、あえてゆっくり味わいながら、丁寧に丁寧に読み進めた。

読後は、おだやかな気持ちだ。
そして、本が読みたくなった。
とにかくなにか、書きたくなった。

島田潤一郎さんは、文学を好み、作家を目指した経験を持ち、本を愛している人だ。
愛している、なんていうとなんだか軽くて、ふさわしくないかもしれないけれど。


ひとりで出版社を立ち上げ、変わらず本を読み、なにかを書き、だれか一人に向けて本を送り出す島田さんの言葉は、多くを語らない。

それなのに、ぽつり、ぽつりと、「読書」の魅力や、本の読み方、文の書き方、言葉のあり方を考えさせてくれる。
そのひっそりした空気が、好きだ。

そうした毎日のなんでもないことこそがかけがえないのだ、といいたいわけではない。
けれど、たとえば、ひとりで夜道を歩いていて、突然むかしの友だちを思い出して連絡をとりたくなったり、月がきれいだと思ったり、木々の匂いに胸をつまらせたり、お店の店員がすごく感じがよかったり、悪かったり、眠れなかったり、夢でお母さんに会ったり、むかし飼っていた猫に会ったり、そうしたことが語るに値しないということはないはずだ。

同書、p.92

人はこれから先に時間があるから本を買うのであって、今後の人生において時間がないのであれば、人は本を買わない、ということだ。
(中略)
そう考えると、本を買うということは、明日の、ないしは数ヶ月先の航空券のチケットを買うという行為とどこかしら似ているのかもしれない。
いまは八方塞がりでどうにもならないけれど、とりあえず明日あの本を読もう、と思う。明日が難しいようであれば、来週こそあの本を読もう。あるいは来年こそあの長編小説にチャレンジしてみよう、と思う。

同書、p.150

なんとなく手にとり、「いつか」と思うことが、読み手の生活やこころを支える。
本や雑誌を所持するということはつまりそういうことなのではないか、と最近は思う。

同書、p.152


ああ、本読もう。
本をもっと、読もう。
そして、書こう。

島田潤一郎さんの言葉に触れると、最後にはいつも、同じことをおもう。


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