「きいろしんごうのひみつ」。
***
信号機の「きいろ」くん。
いつも悲しい顔をしています。
それは、「あか」くんと「あお」くんとちがって、「きいろ」くんは出番が少ないからです。
ピカッと「あか」くんが光ると、車はたちまち止まります。
「どんなもんだい!」
ピカッと「あお」くんが光ると、車はすぐに動き出します。
「みなさん、いってらっしゃーい」
でも、「きいろ」くんが光ると、車はあわてます。
いそいで、急ブレーキをふむ車。
おもわず、通り過ぎちゃう車。
「ぼくが光ると、みんな困っちゃうのかな」
そうおもった「きいろ」くんは、すぐに光るのをやめてしまいます。
だから「きいろ」くんの出番は、短いのです。
ある日、とうとう「きいろ」くんは泣き出しました。
悲しい顔で、しくしく泣くと、なみだがぽろぽろ垂れました。
ずっとずっと泣いていると、むこうから車がやってきました。
かっこいいシルバーの車でした。
「どうしてそんなに泣いてるの?」
シルバーの車が聞きました。
「出番がなくて、悲しいんだ。ぼくももっと、光りたいよ」
「きいろ」くんがそういうと、シルバーの車はおしえてくれました。
「この道は、夜中になるとほとんど車が通らない。だーれもいない道だったら、君が光ってもなんともないさ」
その夜。
「きいろ」くんは、「あか」くんと「あお」くんにワケを話して、さきに眠ってもらいました。
そうして、夜中の真っ暗になった頃、「きいろ」くんはピカリと光り出しました。
ピカ、ピカ、ピカリ。
「きいろ」くんが何度光っても、車はぜんぜん通りません。
これなら、事故も起きないぞ。
「きいろ」くんはうれしくなって、何度も何度も光りました。
チカ、チカ、チカ、チカ。
するとそこへ、珍しく、トラックが一台やってきました。
遠くへ荷物を運んでいく、運搬用のトラックです。
トラックは、信号が黄色に点滅しているのを見て、ふしぎな顔をしました。
「あれえ?どうして黄色が点滅してるんだ?進んでも、いいのかな?」
トラックはしばらく止まって待ちましたが、「きいろ」くんは光るのに夢中で気がつきません。
トラックは、右を見て、左を見て、だれもいないのを確かめると、そのままスイーと交差点を通り抜けました。
事故は、まったく起きませんでした。
しばらくして、まためずらしく、一台の車がやってきました。
ピンクの軽自動車でした。
帰りが遅くなったようで、眠そうに目をこすっています。
「ふわ~眠い。早くおうちに帰りたい。
あれれ?黄色が点滅しているぞ。これは、通っていいのかな?」
ピンクの車も、一回止まってしばらくようすを見ましたが、「きいろ」くんは気がつきません。
ピンクの車は、右を見て、左を見て、だれもいないのを確かめると、そのままスイーと通り抜けました。
事故は、まったく起きませんでした。
「きいろ」くんは、夜中のあいだ、ずっと点滅し続けました。
楽しくて楽しくて、夢中になってチカチカしました。
たまに、車がやってきましたが、みんな右と左をたしかめて通ったおかげで、事故はひとつも起きませんでした。
やがて、朝が近づき、おひさまがのぼる頃。
「きいろ」くんは、「あか」くんと「あお」くんを起こしました。
「おはようきいろ君、夜中はうまく光ったかい?」
「あお」くんがそうたずねると、「きいろ」くんはうなずきました。
「うん、とっても楽しかったよ。これからは、毎日ぼくが夜中に光るよ」
すると、「あか」くんもうなずきました。
「それは助かる。夜中に眠れるなんて、最高だ。ときどきは、ぼくも手伝うからね」
こうして、毎日夜中には、「きいろ」くんが点滅しました。
それは、だんだんほかの場所の信号にも広まって、夜中にはいくつかの信号の「きいろ」が、チカチカ光るようになりました。
たまに、「あか」くんも起きてきて、いっしょにチカチカ光るそうです。
こうして、出番のなかった「きいろ」くんは、ちっとも、泣かなくなりましたとさ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?