見出し画像

【創作大賞2024オールカテゴリ部門】たそがれ #01

《あらすじ》
東京で暮らすインテリアデザイナーの瑠奈は、遠距離恋愛中の圭太の部屋をサプライズ訪問するが、なんと、そこで圭太の浮気現場に遭遇してしまう。
傷心の瑠奈は、一人、新幹線に飛び乗り、東京への帰途につく。
その車中で出会った美少年・リオ。

母親想いのリオは、瑠奈が幼少期に母親を亡くして以来、長らくお墓参りをしていないどころか、お墓の場所さえ知らないことに、激しく憤る。
「瑠奈さん。お母さんはきっと、瑠奈さんに会いたがってる。僕と一緒に、お墓を探しに行きましょう。」
圭太の浮気に強くショックを受けている瑠奈は、現実から目を背けたくて、リオの提案に乗るのだった。

窓の外では、雪を頂いた富士山が午後の光を浴びながら、右から左へゆっくりと流れている。大井川の水も明るく澄んで、春の到来を告げている。
瑠奈はその景色を見ているようで見ていない。数時間前に目にした衝撃的な映像が、富士山の向こうで繰り返し再生されている。
 
見慣れた部屋の、見慣れたベッドの上。見慣れた男がシャツをはだけて横たわり、見慣れない全裸の女が男の腰にまたがっている。

「そんなに腰を振ったらダメだって…」男が喘いだ。
「あぁん、もっと乳首をイジメてぇ!」女が叫んだ。

次の瞬間、男と瑠奈の目が合った。そこから瑠奈の記憶はプツリと途切れ、気づけば新幹線に乗って東京への帰途についている。
 


今から遡ること五時間前。
その日の早朝、瑠奈は東京駅から始発の新幹線に飛び乗り、大阪へと向かった。圭太に会うためだ。

二人は大学の同級生で、映画談義で意気投合したことをきっかけに交際を始めた。圭太の容姿は極めて凡庸で、ドラマであれば「大学生A」で片づけられそうだったが、服装はどこか垢抜けていて、髪と爪をいつも清潔に整えていた。
何より、屈託のない底抜けの明るさがとても魅力的で、彼の周囲には笑い声が絶えなかったし、瑠奈もまた、涙が出るほど笑わされてばかりだった。

就職と同時に、東京と大阪に離れてしまったが、互いの性状をよくわかっている気楽さと、仕事が忙しすぎて新しい出会いに恵まれないことから、十年近く遠距離恋愛を続けている。
最初こそ、会えない切なさに燃え上がったが、今では、お互いの部屋を訪れるのは年に数回で、二人切りになっても、ダラダラと過ごすだけだ。
そんなぬるま湯のような関係に心地よさを感じないでもないが、学生時代から全く変わる様子のない、のほほんとした圭太の態度に、最近の瑠奈は焦りを感じ始めていた。
 
だが、今回の訪問は様相が違った。

瑠奈が大阪行きの予定を告げたとき、スマホ画面の向こうの圭太の表情が少し改まったように感じた。
そしてやや硬い口調で「夜景が見えるレストランを予約するから、おしゃれして来てほしいな」と言うと、「だってほら、瑠奈の誕生日だしさ。」と早口で付け加えた。

その意味するところを瞬時に理解した瑠奈は、自分の顔がみるみる紅潮するのを感じた。
「うん、おしゃれする。うんとおしゃれして、圭太に会いに行く!」
弾けるように瑠奈が言うと、圭太の頬がホッと緊張をほぐし、えくぼを作って笑った。
 
…あれは、なんだったんだろう。夢だったのかな…
新幹線に揺られながら、瑠奈はきつく目を閉じる。
…まさか、こんな形で裏切られるなんて。

続く



『たそがれ』を読んで下さり、誠にありがとうございます!
よろしければ、『早春賦』も是非ご高覧下さい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?