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本を抱っこ 【エッセイ】


人には「所有欲」というものがある。
ミニマリストとして、物を増やさないというポリシーを持つ方もいらっしゃるが…。

私自身は 所有欲は有る方だと思うけれど、コレクターと呼ぶ程でもなく、置き場所が無くなると、ある程度は処分する。
もう入らないので、なるべく図書館で借りて読んでいる。

本は…、紙派。

私の、「自分の詩集を出してみたい」という淡い夢も、実体がある本を抱いてみたいという理由からだ。

でも私には、過去に買った音楽書等を自宅の書棚に並べて「読んだ気」になってしまっているふしがある。


‥‥そして、ある時 気付いたのだ。
私は「本を読む」という事よりも、もっと好きなのが「本を抱っこする」事なのだと。


元々 木だった、紙の温もり。
自分の体温で緩やかに温められた、ほのかな温もり。

図書館に行って、本に囲まれていると わくわくするし、何だかほっとする。

本の森。


図書館には、非常に古い本もある。
たくさんの人に愛され、たくさんの人の手垢や汗にさらされたせいか、この季節は特に、めくると酸っぱい匂いがする本もある。


それでも私は何度も何度もその同じ本を借りた。
図書館に返却する時の感情は、「田舎から遊びに来ていたおばあちゃんが、田舎に帰ってしまった」時の寂しい感情と同じだった。


何度も借りた古い本のタイトル、それは


『ショパンの手紙』  (初版は1965年。)

ビニールコーティングされていない表紙には、いくつかのシミがある。
版を重ねて、時代と共に登場人物の名前や国名の表記が変わっていたりする。

ブラームスとクララの書簡集を読んだ時もそうだったが、ショパンと周りを取り巻く人たちの生の言葉を読んでいると、まるで今、現代に彼らが生きているような気持ちになれるのだ。

偉大な芸術家たちも、普通の人間だったのだ と気付く。


人の歴史と本の歴史。

今も、その本が 私の膝の上に 飼い猫のように乗っかっています。
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