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うちのクラスのスネ夫がぶち壊した小学生男子の流行の話

どこにでもスネ夫のような奴はいるのだ。

調子がいい。

腰巾着。

媚びる。

自慢する。

目立ちたがる。


ジャイアンの様な権力者に近付き取り入ることで自らの地位も確立させていくズル賢さ。

よく言えば世渡り上手なのだが、
付き合っていくと粗ばかりが見えてくるもので、
大人になるとさすがにみんなその浅はかさに気付き出すのだが、やはり一部のジャイアン達にはそれを見抜くことができず・・・いや、自分にとっての便利な駒として、実は都合良く敢えて横に置いているだけに過ぎないのかもしれない。



俺が初めてスネ夫に出会ったのは早くも小学一年生の時。
同じクラスになったEという奴だった。
(コイツはあまりにスネ夫気質な奴なのでここからはハッキリとスネ夫と呼ぶことにする。)


背が低かったスネ夫は整列の時はいつも手を腰にやるか、その後ろあたりに位置していた。
そんなチビだったスネ夫だが、態度だけはなぜか大きい。
いつもクラスで1番体が大きく力の強い奴の周りをウロチョロし、他のやつとトラブルがあるといつもその力の強い奴の陰に隠れるのだ。

当然チビなだけに力は弱い。
しかし子供ながらに頭の回転は早く、嘘や言い訳を巧みに操り、まだ人を疑うことを知らない純粋な同級生達を翻弄し、自分の居心地のいい場所を確保していくのだった。


実は、このブログの第一回に書いた『お腹が痛いはカッコイイ』で登場する、
俺が昨日の夜お腹が痛かったことを報告すると「俺も痛かった」と言い出し、むしろ自分の方が痛かったかのような話に持っていこうとしていた奴がこのスネ夫だ。

まぁその記事を読んで頂けば分かると思うけど、多分そのお腹が痛かったのは本当の話だったとは思うのだが、
とにかくスネ夫は誰かがした話に更に被せ、「俺の方が!」というどうでもいい張り合いをしてくる目立ちたがり屋だった。
当然そんなことばかりだから嘘ばかりつく様になり、呆れて相手にしない奴もいたのだが。



そんなスネ夫のことで強烈に覚えているエピソードがある。

小学3年生くらいの頃、
当時ドラゴンクエストのオリジナルアニメが放送されており、男子はそのアニメにみんな夢中だった。


(これこれ。EDが徳永英明さんの「夢を信じて」という名曲だった)

これのソーセージかなんだったかに付録で付いているバッジが学校で大流行し、みんなこぞってコレクションしてヤクルトやら西武やらのベースボールキャップの横に着けて登校し、お互いのバッジを交換したり自慢したりして遊んでいた。

俺もたまに母親と買い物に行くとそのソーセージをねだり、ほかのクラスメイトよりは数は少ないが大事に筆箱に保管していた。


ある日のこと。
いつものようにスーパーでソーセージをねだり、家に帰りいそいそと封を切った。

このバッジの種類は多くなく、ダブることも珍しくない。
しかし、この日出たバッジは一度も見たことのない、スライムのキャラクターが2匹描かれたそのデザインは、恐らくクラスの誰も持っていないであろうレアなバッジだったのだ。

このスライムのキャラクターが個々に描かれたバッジは珍しくなかったのだが、まさかのツーショット!
この一大事に、次の日学校に持って行ってみんなに見せるのが楽しみで仕方なかった。


次の日。
朝授業が始まる前に筆箱からスライムレアバッジを取り出す。
まずは後ろのクラスメイトに見せ報告。
案の定そのクラスメイトは目を丸くし驚き、その様子に気付いたクラスメイト達が俺の席に群がる。

みんなの興奮した様子を目の当たりにし得意げな俺は、見せてくれと頼んでくるクラスメイトに快く貸して見せる。
今日一日、俺は間違いなくヒーローなのだ!
クラスメイトの称賛と羨ましがる姿に大満足である。


しかしその2日後(だったと思う)の放課後。
事件が起こる。


筆箱に大切にしまっていたはずのあのスライムレアバッジが見当たらない。
確かにここに入れたはずだ。

ランドセルの荷物をひっくり返し探すがやはり見つからない。
周りのクラスメイト達も辺りを探してくれたがどこにもない。
一体どこへ行ってしまったのか・・・・。


しかしその時、帰ろうとするスネ夫の被ったキャップを見て一同騒然とする。

3つほど並んで付けたバッジの中に、あのスライムレアバッジがあったのだ。

俺の元からバッジが消えたタイミング。
スネ夫がなぜか所有しているタイミング。
小学生から見てもスネ夫の悪事を疑わざる得ない状況である。


クラスメイトがスネ夫に問う。


クラスメイト「おい、それどうしたんだよ?」

スネ夫「は?これ俺のだよ?」


その時のスネ夫のとぼけた顔は今でも忘れられない。
嘘をついているのであろう小学生の誤魔化し方というのは恐ろしくわざとらしく、違和感満載なのだ。

クラスメイト達に一気に詰められるスネ夫。
「お前盗んだだろ!?」「それ譲二のだろ!?」「早く返せよ!」

メタくそに罵倒されるスネ夫は泣きながら頑なに自分の物だと主張する。


一方的に罵声を浴びたスネ夫は机にうずくまり泣き続けた。
俺はというと、バッジが盗まれたのかもしれないということより、俺のせいでクラスメイト達が怒り、雰囲気が悪くなったことがショックで少し落ち込んだ。

その後、スネ夫は一向に白状することもなく、明らかな証拠も出ないためクラスメイト達も責めるのに飽き事態は収束した。

普段の素行から疑われたスネ夫だが、もしかしたら本当に濡れ衣なのかもしれないと思う気持ちもある。
それに一瞬でもヒーローになれた俺はその満足感でバッジがなくなったことにはあまり固執していなかったので、この件は闇に葬ることに。


その後も何食わぬ顔でそのスライムレアバッジをキャップに付けて歩いていたスネ夫。
白でも黒でも、その強心臓はとても真似できるものではなかった。




スネ夫のエピソードがもう1つ。

小学生のブームというのは熱するのも簡単だが流行りはすぐに過ぎて行く。
その時期流行っていたのが日本酒などの一升瓶のフタ、王冠と呼ばれるものの収集だった。

なんでこんなものが流行ったかというと、
同じ形なのにいろんな種類があるという男子小学生のコレクション心をくすぐるポイントと、
駒のように回して競えるというバトル要素も加わったことだったと思う。

地元のメジャーな日本酒の王冠はほぼ同じものばかりなのだが、
たまにフチだけが金色のものなど、これまたレア要素のあるものも存在し、
親が日本酒が好きな家庭の子なんかは全国の色んな珍しい王冠を少しづつ学校に持って来るなど、無限に楽しめる趣味としてブームになっていた。

俺たちは学校の帰りに酒屋さんをまわり覗きに行き、店前に置いてある空き瓶の王冠を物色してもらって来たり、
例えるならポケモンのように何がゲットできるか分からない冒険のような遊びに一喜一憂して楽しんでいたのだった。


ある日、いつものように朝の会が始まる前にそれぞれ仲の良い友達としゃべっていると、
スネ夫がばかデカい袋を2つ両手に持って登校してきた。
ただでさえデカいその袋は、スネ夫の小さな体との対比のせいか余計に大きく見えた。

何をそんな大荷物を持って来たのかと一同注目すると、
その袋の中には今にもこぼれ落ちそうな溢れんばかりの王冠が。。


その数、優に数百個。
見たこともない圧倒的な数の王冠。
当然クラス中が驚き、スネ夫の元に群がった。

中には一度も見たことのない種類の王冠ばかりが入っている。
入手経路は何だったのかは忘れたが、親の知り合いの業者がどうのこうの言っていた気がする。
とにかく親のツテを使ってとんでもない種類と数の王冠を持ち込んだスネ夫は、これでもかという程のドヤ顔を披露していた。
いつもの目立ちたがり、注目を集めたがり精神はきっとオーガズムに達していたのであろう。


しかしスネ夫の思惑とは違い、
すぐにみんなあまり興味を示さなくなり、それぞれの机に散っていった。
その理由は明確だった。


そういう問題ではなかったのだ。


俺たちが求めていたのはそういうことではなく、
自分たちの地道な活動でやっと得られる小さな楽しみであり、いきなり全てをワープするようなやり方など誰も求めていなかったのだ。

まるで裏技パスワードで最強ステータスのキャラクターをブチ込まれ皆殺しにされてしまったような感覚に俺たちは陥った。

急に何をしてもどうにもならない差を見せつけられ、収集するモチベーションを失ってしまった俺たちは、
それからしばらくして王冠集めをやめてしまったのだった・・・・・。




スネ夫はとにかくクラスの中心になりたかっただけなんだろう。
SNSの出現でよく聞くようになった承認欲求や自己顕示欲、まさにそれだ。

しかしどこか空気を読まない言動でクラスの調和を乱してきたスネ夫。

当時の俺はあまり人を疑うことを知らなかったし、むやみに人を嫌うようなこともしなかった。純粋と言えば聞こえはいいが。
でも大人になった今、人のズルさや自分勝手な言動に敏感に反応するようになってしまい、その度に人間関係に疲れてしまったりを繰り返している。
いや、きっと自分も同じことを誰かにしてしまってるに違いない。

そんな時思い出したのがスネ夫のことだった。
いま考えると、あいつはこれから待ち受け痛感する社会の中のめんどくさい人間関係そのものだったような気がする。

しかし、そんなどこの学校にも1人はいたであろうスネ夫の、
いつでも自分の欲に素直に、長いものには積極的に巻かれる精神は少しは見習いたいところでもあるのも確かである。

ほどほどにね。


彼は今、どこで何をしているんだろう。

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